チラリズム
【前回までのあらすじ】
・迫る白まんじゅう
・サリーさんも触手プレイに興味津々
「えっ・・・あっ・・・サリー?」
声に驚いて自分の腕の中を見ると、そこには俺が抱えていたはずの「サリーだったもの」はなく、代わりにサリーその人がお姫様抱っこの状態で収まっていた。服が燃え尽きたので当たり前なのだが、完全に再生した上で、一糸まとわぬ産まれたままの姿である。彼女の顔は産まれたばかりのようにつやつやと輝き、長い黒髪がサラリとむき出しの鎖骨にかかっている。みずみずしく滑らかな白い肌。特別大きいわけではないが小さくもなく、いうなればとてもバランスの良い胸に、引き締まったウエスト。その下には芸術的ともいうべき、美しい腰から脚にかけての柔らかなラインが続いている。
「ヌウウウウウウウウウウ」
しかし敵にはそんなことは関係ない。白まんじゅうは無遠慮に2本のブレードを振り下ろした。しかし相手は運動神経ナメクジ以下のハッカーではなく、百戦錬磨の戦闘狂である。驚くべきことに、サリーはお姫様抱っこされたまま超高速で振り下ろされるブレードの1本を横から叩いて軌道を変えた。何がどうなったのか、白まんじゅうはバランスを崩してグルリと回転し、その場に転倒する。サリーは面倒くさそうにつぶやいた。
「・・・今、いいところなの。邪魔しないで。」
「ササササリー?再生できたの?よかったね・・・。」
俺は事態についていけず、とりあえずそんなことを言った。マキちゃんが冷静に解説してくれる。
「ご主人様、例のガスの影響で、ナノマシンの活動に支障が出ていたようです。先ほどの白まんじゅうの攻撃で壁に穴が空き、ガスの濃度が薄まったために再生が始まったのですわ。」
壁には白まんじゅうの斬撃で開いた穴から外の風が吹き込んでいる。サリーはお姫様抱っこされたまま、その両腕をまだ混乱している俺の首に回した。
「そういうこと・・・。わざわざ危険をおかして私を連れてきてくれたのね・・・ありがと。」
サリーは小さくお礼を言い、そっと俺の頬にキスをした。柔らかい感触。ひどく頭が熱くなってクラクラする・・・なんだこれ、新しい毒ガスでも湧いてるんじゃないか。俺は沸騰する頭を振りながら、サリーを見た。間近で見た彼女の顔はほんのりと赤く染まり・・・とても美しいし、可愛らしい普通の女の子だ。丸焦げから再生したばかりなのに触れる肌はすべすべで柔らかく、オマケになんだか良い匂いまでする。五感に訴えかけるサリーの存在感。マキちゃんが「触手・・・お仕置きに触手が必要ですわ」とつぶやく声が聞こえなかったら、冷静になれなかったかもしれない。
「ふふふ。もう身体のどこにもキズはないわよ。そんなにじっくりチェックしてくれなくてもいいわ。」
言われてから裸のサリーをガン見していたことに気がつき、慌てて目をそらした。マキちゃんの咳払いが聞こえる。サリーは妖しげな笑みを浮かべ、俺の耳に顔を寄せてそっとささやいた。
「キズのチェックは帰ってから、2人きりの時にゆっくりとやってもらおうかしら・・・?」
「ご主人様、いつまでサリー氏を抱えていらっしゃるおつもりですか?」
「はいすいません!」
サリーを下ろすと、彼女は手近にあった適当な布・・・おそらく保管物に被せてあった防炎シートか何か・・・をマントのように身体に巻き付ける。そしてフワリと、前に出た。起き上がった白まんじゅうが構える2本のブレードの前に。
「さぁ、休憩した分、しっかり働かないとね。ちょっと待ってなさい。」
白まんじゅうが無言でブレードを振る。サリーがマントをはためかせ、余裕たっぷりに回避した。やはり何度見ても、俺には絶対できそうにない。あとサリーのマントがはためくせいで、とても目のやり場に困る。非常に困る。見るけど。いや、心配で目が離せないだけだから。そういうアレじゃないから。
「ふぅん・・・これ、いいわね。見た目ほど重くないし。」
何度かブレードを回避していると、いつの間にか白まんじゅうの右手に持っていたブレードがなくなり、代わりにサリーがそれを持っていた。いつ奪ったのかまったくわからなかった・・・まさに神業。白まんじゅうも空になった自分の右手を見て混乱した様子を見せたが、すぐに気を取り直して左手のブレードを振るう。サリーは楽々とその左手を切断し、そのまま白まんじゅうにブレードを突き立てた。
「これなら再生できないわよね?」
「ヌウウウウウウウウウウ!?」
ブレードが放電し、白まんじゅうの身体を焼いていく。3メートルの白い巨体がみるみるうちに黒く変色し、ボロボロと崩れていった。あたりにちょっと美味しそうな匂いが漂う。・・・本当にまんじゅうみたいだ。
「ああ・・・貴重な触手が・・・」
マキちゃんが何か言ってるが、聞こえなかったことにしよう。
「さぁ、行くわよ。しっかりついてきなさい。」
そこからはあっという間だった。巨大なブレードを軽々と振るうサリーはマントをはためかせながら、まるで嵐のように並み居る人型ロボットを両断し、切断し、細切れにしていった。俺はそんなサリーにおいていかれないよう、ぴったりと背後を付いて行く。サリーが激しく動くたびにマントが新しいチラリズムの扉を開いてくれるが、決してそれが見たいから背後にぴったりと貼り付いているわけではないのだ。
「ご主人様・・・触手プレイでは飽き足りないようですわね・・・。」
「いやいや違うよ、ぜんぜん違うよ。そういうのじゃないっていうか、ホントにアレだから。いや、それより爆発まであとどれくらい?」
「残り5分です。急ぎましょう。」
ジェネレーターが起こす爆発は、推定でも半径5キロ以内のあらゆる物体を消滅させる威力らしい。もっと爆発までの時間を長く設定してもよかったのだが、マキちゃんを逆ハッキングするような装置を備えていただけに、あまり猶予を与えて爆発を解除されるようなことがあったら目も当てられない。
よって俺たちの脱出プランはこうだ。甲板に出て、そこに残っている適当な戦闘機をハッキング。戦闘機にを使えば1分もかからず5キロ以上の距離を稼げる。ぶっ飛んで脱出だ。
「ようやく着いたわ。甲板よ・・・。」
狭い通路を抜け、降り注ぐ眩しい外の光に目を細めた。サリーはブレードを地面に突き立てると、難しい顔で周囲を見回している。無事にここまでこれたのに、なんでそんな顔を・・・と思ったが、その理由はすぐに分かった。見渡すかぎりに広がる甲板は盛大に炎上し、戦闘機の残骸があちこちに散らばっている。そう、戦闘機の残骸は無数に落ちているが、無事な戦闘機がどこにも見当たらない。
「あいつら、仕事しすぎだろ・・・。」
俺はナナたちの活躍に感心しつつ、その完璧な仕事っぷりに軽く絶望する。まさか1機残らず殲滅したのか?屋外に出てネッコワークとの通信を回復したマキちゃんが、戦況のデータを収集して状況をお知らせしてくれる。
「ご主人様、周囲に利用可能な航空機は存在しません・・・脱出に時間がかかりすぎたのですわ。もう15分早ければ・・・。」
「・・・ん?それって触手プレイの30分がなければ余裕だったんじゃ・・・」
「やはり爆発までの時間を長く取るべきでしたわ・・・。」
「マキちゃん?俺、マキちゃんと会話のキャッチボールがしたいな?」
サリーは風にマントをはためかせ、地面に突き刺したブレードに寄りかかったまま、じっと炎上する甲板を見ていた。黒髪が風に遊ばれて、美しい横顔を引き立てている。その姿は神話の登場人物のようだ。女神様はなにかを決めたように、しょうもない会話をする俺たちに大きな声で言った。
「時間がないわ。飛ぶわよ。」
突然の言葉に、口を半開きにして彼女を見た。サリーの目ははふざけている様子もなく、真剣そのもの。
「飛ぶって・・・サリー、飛行機はないんだよ?話、聞いてた?」
「アレを使うわ。」
サリーが指差した先にあるのは・・・ゴロゴロと転がっている、大きくて太い筒状の物体・・・ミサイルだ。戦闘機から外れたものと思われる。色々と察した俺は、速攻で否定の意を表明する。
「んなバカな!俺は嫌だ!」
「はいはい、文句は後で聞くわ。優しくしてあげるから。」
サリーがムンズと俺の首根っこを掴んで引きずっていく。俺に拒否権はなかった。
「やだ・・・こんなに太くて大きいの、やだぁぁぁぁぁぁ!」




