油断
【前回までのあらすじ】
・空母狩り中
・やったぜ、ハッキングして帰ろう
・マキちゃん消える
「マキちゃん、おおいマキちゃん!?」
うろたえるながら腕時計に声をかけ続ける俺を、サリーが後ろから強く引っ張った。俺はそのまま後ろに倒れそうになり、サリーが俺をぎゅっと受け止めて抱きしめる。背中に柔らかな感触が伝わり、サリーの良い匂いがふわりと鼻をくすぐる。平時だったらテンションが成層圏まで突き抜けてマキちゃんに怒られるところだが、しかし今の俺はそれどころではない。俺を怒る担当のマキちゃんが消えてしまったのだ。
「サササササリー!?わりと嬉しいけど、今はそういうアレをしている場合じゃ」
「・・・いいから下がってなさい。」
瞬間、先程まで俺が立っていた場所に、巨大な何かが落ちてきた。落下の衝撃が地面を揺らす。
「ヌウウウウウウウウウウ」
「なっなっなっなんだこれ」
混乱する俺を背後から抱きしめながら、サリーがきっぱりと宣言する。
「敵よ。」
それは全身真っ白で、人間の形をした何かだ。身長は3メートル近くあり、顔も身体も真っ白で完璧なのっぺらぼう。表面は硬いロボットではなく、マシュマロかモチのように柔らかそうに見える。両手にはそれぞれ巨大な刀を持っていて、しかも刀身からわずかに放電していた。触れたロボットを完全に破壊し、人間を丸焦げにする電子ブレード。2本の危険な刀を持った白い巨人である。
「で、でかい・・・強そうだよ、これ。」
混乱に拍車がかかる俺をそっと背後に押しやり、サリーは何の躊躇もなく前に出た。
「私がいくわ。あなたはここで少し待ってなさい。」
巨大な相手にまるで臆することなく、サリーはハンドガンを片手に走りだす。俺にはまったく見えない速度で振り下ろされる2本のブレードをかいくぐって引き金を引くと、巨人の片腕がダラリとぶら下がった。ヒジのあたりを撃ち抜いたらしい。
「ヌウウウウウウウウウウ」
「あなた、大きさに自信がありそうね?」
残った腕で振るわれるブレードを悠々とかわし、さらに銃撃。巨人は両腕を撃ち抜かれてダラリとぶら下げ、無防備に身体をさらしている。
「ヌウウウウウウウウウウ」
「大きさだけで勝負しているようだと、女の子に嫌われるわよ。大きければいいってものでもないの。わかるかしら、ぼうや?」
サリーは巨人の眼前で悠々とハンドガンをリロードする。それから、ふっと息を吐きながら巨人のみぞおち目掛けて、強い踏み込みとともに拳を叩き込んだ。
「ヌウウウウウウウウウウ」
「大切なのは、相手の弱いところをピンポイントで攻めることよ。こんなふうにね。」
身体をくの字に折った巨人の頭にジャンプで飛び乗り、そのまま頭部をハンドガンのゼロ距離射撃で蜂の巣にする。サリーが地面に着地するのと同時に、白い巨体が地面に崩れ落ちた。流れるような攻撃に、思わず見入ってしまった。それにしてもサリーは戦いながら何の話をしているんだろうか・・・大魔導師にはちょっとわからない。
「まぁ、ざっとこんなもんね。マキさんの様子はどう?」
「ううううううううしろっ!」
巨人は百戦錬磨のサリーに攻め立てられても、しかし昇天したわけではなかった。瞬時に、かつ無音で両腕と頭部が再生し、背を向けるサリーに向かってブレードを振りかぶる。サリーが俺の声で振り返るのと、巨人の刃が彼女の身体を貫いたのはほとんど同時だった。サリーは胴体を貫かれたまま、その身体を刀ごと持ち上げられた。口から赤い血が噴き出して、白く美しい顔を染める。
「ごぼっ・・・・。こいつ、不定形タイプの・・・!私もカンが鈍ったかしらね・・・」
「サッ、サッ、サリー!」
サリーはもがくこともなく、俺を見ると優しく微笑んだ。
「ごめんなさい、しくじったわ。あなただけでも、逃げ」
巨人の刀が激しい放電を起こし、サリーの身体が激しく燃えた。俺はどうすることもできずに、目の前で消し炭になっていくサリーを見ていた。
「ヌウウウウウウウウウウ」
巨人は低い唸り声をあげ、刀を振って「サリーだったもの」を振り落とす。それは真っ黒で乾燥していて、カサリと乾いた音を立てて地面に落ちた。バチバチと放電する刀身が綺麗になったのを確かめると、白い怪物はゆっくりと俺の方に歩み寄ってくる。
俺は白い巨体に向けて、精一杯に声を張り上げた。
「・・・(パクパク)」
あれ、張り上げたつもりだったのに声が出てなかった。怖いじゃん?




