サリーのお願い
【前回までのあらすじ】
・サリーの宿敵あらわる
・サリー、主人公のところにやってくる
「ドウゾ、粗茶でスガ。」
ウォーリーがティーセットをテーブルに置くと、サリーは短く「ありがとう」と言ってからウォーリーを見た。
「あら、あなた・・・今日はスカートの中を覗きにこないのね?」
「ヒェッ・・・またブン殴られたり窓から投げ捨てられたりしてはたまりませんノデ・・・。それではごゆっくり・・・。」
ウォーリーが逃げるように俺の部屋を出て行き、俺とサリーは2人きりに・・・厳密に言えばマキちゃんがいるので3人に・・・なった。サリーは優雅にカップを持ち、お茶を口にする。
「あら、いいお茶ね・・・とっても香りがいいわ。」
「・・・で、何の用なの?」
サリーは護衛も伴わず1人でやってきた。彼女は生身の人間だが、その戦闘力は以前のウォーリーより高いので油断はできない。なにより怒るとめっちゃ怖くて、うっかり俺が床を黄色く汚してしまう可能性がある。
「そう構えないで。あなたのネッコワークについてはもう私からどうこうする気はないわ。今のところはね。・・・今日はお願いがあって来たのよ。」
「・・・お願い?嫌な予感しかしないんだけど・・・。」
「ふふっ・・・まぁ見てちょうだい。」
サリーは一枚の写真を差し出した。これは・・・でかい船?いや違うな、こういうのなんて言うんだっけ・・・。
「これは『空母』・・・いわゆる航空母艦よ。滑走路を備え、戦闘機を満載した巨大な船。旧文明では海上を移動する航空基地として活躍したわ。あなたは知ってるわよね。」
「ああそれ、空母だ。実物は見たことないけど・・・。」
「これはかつてニミッツ級と呼ばれていた大きさの空母で、全長がおよそ330メートルもあるの。100機近い戦闘機を搭載できる、まさに移動する要塞・・・いえ、もうこれは小国家ね。」
「はぁ・・・すごいね。で、それが何か・・・ん、この写真・・・変だな。空母に脚がある。」
よく見ると、空母の両脇にそれぞれ3本、合計6本の巨大な脚が生えていて、さながら巨大な昆虫のようだ。まさか、これ・・・
「そう、脚があるの。これは野生の空母よ。共生している野生の戦闘機を満載して、ゆっくりと大地を移動しているわ。」
「・・・やせいのくうぼ⁉︎」
全長330メートルの空母が野生?じゃあこれ、オスとかメスとかあるわけ?ご飯も食べるの?子どもを産むの?パパとママとおじいちゃんとおばあちゃんがいるの?
「あなたに頼みたいのはこれよ。」
「これ?」
「・・・空母を殺して欲しいの。」
「無理。」
俺の即答を無視して、サリーは説明を続ける。
「空母は113年周期でどこからか現れ、町をいくつか消滅させて去っていくの。私たちは、産卵のために栄養を蓄えに来ているんだと考えているわ。こいつがやってくるたびに、10以上の町がなすすべもなく破壊されていくの。」
「ええ・・・なにそれこわい。」
「搭載している戦闘機やヘリコプターも当然野生のナマモノだけど、これらは空母の命令を受けて行動していて、一種の共生関係にあると推測しているわ。ある種の魚とイソギンチャクみたいにね。ただ、こいつらは魚と違ってミサイルを撃ってくるけど。」
「ええ・・・。この世界のどうぶつ、奇想天外すぎる・・・。」
「他にも艦内に野生の人型ロボットが5000体ほど生息しているわ。これもやはり空母の共生相手ね。プラズマ兵器で武装しているわよ。未確認の大型ロボットもいるようね。」
「いやいやいやいや・・・そんな化物、俺にどうしろと?」
サリーはそっと俺の手を握り、俺の目をまっすぐ見た。あれっ、この状況デジャブを感じる。
「あなたならできるわ。たった1人でユニオンを手玉にとったあなたなら、野生の空母なんて簡単に叩き潰すことができるはずよ。・・・人々を救えるのはあなたしかいないの。お願いよ。」
いっそう強くギュッと手を握られた俺は思わず「任せとけ!」と言いそうになったが、持ち前のヘタレ根性のおかげで声に出さずに済んだ。ヘタレで本当によかった。
「・・・いやいや、だから無理だってば。」
「ふふっ・・・あなた、やっぱりおもしろいわ。私にお願いされて断れる男性なんてなかなかいないのよ?」
「まぁ、美人には慣れてるからね・・・。」
ふふんと胸を張るマキちゃんの声が聞こえた気がした。するとサリーは手を離し、にっこりと笑った。肉食獣が見せる花のような笑顔。そのギャップにやられそうになる。あぶない。
「じゃあ作戦を変えることにするわ。もし空母を仕留めてくれたら、首都でのネッコワーク展開を許可してあげる。」
「え?」
「許可どころか、支援してあげるわ。拠点となる物件を都合して、関係しそうな組織にも橋渡ししてあげる。必要なら人材も探すわ。」
「えええ?」
「首都の人口は約100万人よ。前に『狭すぎるから』ってユニオンへの移住を断ったあなたなら、首都へのネッコワーク展開は外せないわよね?」
「ええ、うん、まぁ・・・。」
サリーはまくし立てるように続ける。その顔は相変わらず綺麗で、髪はサラサラで、短いスカートの裾がチラチラしていて気になっていまうけど・・・なんだか俺には彼女が必死になっているように見えた。
「それとも前みたいに、首都を吹き飛ばす!って脅すから協力は不要かしら?」
「サリー。」
「もっとも、あなたはそんなことをするとは思えないけど」
「サリー。」
彼女の言葉を遮る。黙ったサリーの顔はとても弱々しかった。その顔は肉食獣ではなく・・・見た目通りの、10代の少女のようだ。
「サリー、あの、その・・・なんだ・・・すごく・・・困ってるんだね?」
俺の言葉に、サリーは少しの間だけ黙った。そのまま次の言葉を待っていると、ふいに彼女の瞳から一筋の涙が頬を伝った。
「みんな・・・死んでしまったの。」
「うん。」
「3000年前から何度も何度も何度も・・・コイツに殺されたのよ。アールも、ニナも、フォルクスも・・・ドーンも。」
「うん。」
「何度も作戦を練って、いつも絶対に勝てると思っているのに・・・いつもみんな殺されて・・・もう、どうしていいかわからない。」
「・・・うん。」
サリーは顔を両手で覆って、静かに泣いた。俺は気まずくてソワソワしたけど、ホログラムのマキちゃんを見ると、「座ってお待ちなさい」と目で訴えられたので黙って待った。どれくらいそうしていたか、サリーが落ち着いたのを見計らってお茶を勧めた。ウォーリーが淹れてくれたお茶はなにげに美味しくて、とても落ち着くのだ。一口お茶を飲むと、サリーは少しだけ微笑んだ。
「ごめんなさい・・・3000年も生きてるのに、こんな姿を見せてしまって・・・ちょっと、弱気になっているのよ。」
そんなサリーに、マキちゃんが声をかけた。いつものような冷たい声ではなく、どこか優しい雰囲気の声だった。
「それではサリー様。私たちに何をお望みですか?」
サリーはひとつ息を吐いて、それから俺たちをまっすぐ見て、言った。
「お願い、助けて。」
俺たちの返事は決まっている。
「いいよ。」




