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ドーン将軍

オチがつかなかった・・・!

「退避!退避しろ!ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


部下を逃がそうと大声を張り上げていた軍人は、強烈な爆発によって消し飛んでしまった。周りを見渡せば、岩場に沿って隠れるように展開した5000人を超す部隊が完全に壊滅し、同じように吹き飛び、撃たれ、血肉を撒き散らして散っていくのが目に入る。


「今回も・・・ダメだったわね・・・。」


その女性は戦場の少し後方から戦況を見て、悔しそうにつぶやいた。長い黒髪はまとめていたゴムが焼け落ちたために背中に流れるままになり、着ている軍服もところどころ穴が空いてボロボロだ。真っ黒なススが美しい顔を汚しているが、その目だけは未だ闘志をたぎらせて、はるか地平の敵を見ていた。全長300メートルを超える、巨大な鋼鉄の怪物を。


「サリー秘書官、お逃げください。ここは危険です。輸送機の準備ができています。」


声をかけられた女性・・・ユニオン・サリーは悔しそうに敵をひとにらみすると、振り向いて輸送機の方に向かった。声をかけた男はサリーよりさらにボロボロで、頭や腕から大量の血を流している。軍服の上からでもわかるほどに鍛え抜かれた身体はサイボーグではなく生身のようだ。白髪が混じり始めた髪は血で汚れ、すぐに治療が必要なのは明白である。


「ドーン将軍・・・あなたも逃げるわよ。作戦を練り直す必要があるわ。」


しかしドーン将軍と呼ばれた男は、ニヤリと笑うと首を振った。


「いいえ、秘書官。シュバルツもゴルツも死にました。吾輩が指揮を取らねば、満足に撤退することもかないません。もはや敵に一矢報いることもできませんが、一人でも多くの兵を帰還させるために残ります。」


「ドーン・・・あなたまで、私を置いて先に逝こうというの?」


ドーン将軍は、サリーが不老不死であり、またユニオンの真の支配者であることを知る数少ない人間のひとりである。彼が10代の若者の頃から共に戦場に立ち、数十年の時を共に過ごした仲だ。そこには上官と部下という以上の強い絆があった。2人が恋仲になるようなことはなかったが、ドーンが若い時には熱っぽい視線でサリーを見ていた時期も長くあったし、サリーもあるいはドーンなら・・・と思うこともあった。結局、ふたりの距離はそれ以上に縮まることはなかったが、だからこそ、ふたりには今でも戦友としての確かな絆がある。


その戦友は今、自分を逃して死地に残ろうとしていた。3000年間戦い続けているサリーにとってはよくある出来事。しかし何度経験しても、いや、むしろ経験するたびに耐え難くなっていく出来事だ。厳しい顔をしていたドーンは、ふいに悲しげな表情になってから、無理やり笑顔を作った。


「サリー秘書官・・・いや、サリー。今まで一緒に戦えて、光栄だった。いつもサリーに押し付けることになって済まないが・・・後を、頼む。」


「・・・わかったわ。ドーン・・・さようなら。」


ふたりは無言で握手をした。相変わらず爆発音が響く戦場で、ほんの数秒だが時間が止まったように長く感じる時間。サリーを乗せた輸送機が飛び立つと、ドーンは再び厳しい顔で敵をにらみつけ、戦場を見渡せる小高い岩場の上に登って無線機を握った。生き残る部下たちに向けて声を張り上げる。


「こちらはドーン将軍!東側の岩山から貴様らを監視している!いいか、気合を入れて生き残れッ!勝手にくたばりおったら命令違反と判断するッ!死んだやつは3ヶ月連続の荒野行軍訓練だぞッ!吾輩が最後までここに残って監視しておるからな!」


ドーン将軍は厳しい訓練を行うことで兵隊たちに有名だ。むちゃくちゃな訓練内容をこなせなければ、命令違反のペナルティとしてさらに凶悪な訓練を課す。「死んだら罰として訓練」という無茶な連絡に、死にかけの兵隊でさえ飛び起きて走り出した。


「あっ!あの岩の上に立っているのが将軍だ!」


「ひぃー!あんなところから監視してやがる!うかうか死んでられねぇ!」


「おい、そこの脚がもげてるやつを運ぶぞ!仲間を置いてったらどんなペナルティがあるかわかったもんじゃねぇ・・・!」


「よしよし、ギリギリ心臓が動き出したぞ。さすが将軍だ、死んだやつもビビって生き返っちまうぜ!」


「わ~バカ!連帯責任になるだろうが!死ぬんじゃねぇ!」


部下たちは迅速に、負傷した仲間を連れて次々と撤退していく。それを岩の上から満足げに眺めているドーンの頭から流れていた出血は、いつの間にか止まっている。腕も、脚も、流れ続けていた血が全て止まっていた。仁王立ちしたまま、微動だにしない。兵隊たちは岩の上に見えるドーン将軍を見て、震えあがりながら逃げていく。将軍が見ているのであれば、一切手は抜けないからだ。たとえ死んでも命令をこなさなければならない。撤退はいまだかつてないほど迅速に、最小の被害で完了した。


ドーンは宣言通り、最後までそこに立っていた。

ドーンは死んでいた。しかし最後までそこに立っていた。

その顔は、満足げに笑っていた。



サリーは輸送機に揺られ、ぼんやりと外を見ていた。


3000年前から周期的にやってくる、巨大な鋼鉄の悪魔。


あらゆる策を練り、準備し、今回こそはと挑んでも勝てなかった。また多くの人が死ぬことになる。兵隊だけでなく、何の罪もない人々が。サリー自身も必要とあらば町ひとつを皆殺しにすることもあったが、そこには人類を守りたいという自身の正義があった。しかしあの悪魔は違う。100%純粋な人類の敵。為す術もなく蹂躙され、人々が殺されていくのをまた黙って見ているしかないのか。


そんな時、ふとあることを思いついた。


ひょっとして、彼らなら。ユニオンをわずか数名で手玉に取った彼らなら、ひょっとして。


サリーはボロボロの服を着替え、タオルでゴシゴシと顔を拭く。顔を上げた時、その目には戦場にいた時と変わらない強烈な闘志が宿っていた。

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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