この世の地獄
【前回までのあらすじ】
・みんなのコンテンツが出揃った
・レイが死んだ
※ 今日も長めなので更新はいっこだけにします。
「これは・・・なんだ?」
おもしろコンテンツ大会の結果発表まであと数日という日、俺は久しぶりに町に出ていた。ナナと一緒に町をお散歩である。ナナは俺と手をつなぎ、ご機嫌でピョコピョコ跳ねながら歩いて、跳ねるたびに長い髪がふわりと揺れた。通り過ぎる町の人たちも、心から楽しそうなナナを見て自然と顔をほころばせている。まぁ、一番ほころばせているのは俺だけど。ちなみに愛銃の【ラッキーセブン】は悪目立ちするので置いてきてもらった・・・かなり嫌がられたが。
そんなことより町の様子がおかしい。ナナは立ち止まると、不思議そうに首をかしげた。
「おとーさん、なんだかおかーさんがいっぱいだねー?」
「ああ、うん・・・なんだろうね、これは?」
大通りに出ると、2つの驚きが俺を待っていた。1つ目はスマートニャンの普及率。町行く人が皆、スマートニャンを連れている。なぜ見た目はただの電話ネコと変わらないスマートニャンがスマートニャンだとわかるのか。それが2つ目の驚き、みんなが空中に画面を表示しているのだ・・・それも、マキちゃんの写真を大きめに。明らかにレイのサイト『今日の精霊様』から取ってきた写真である。
「おっ、お前の精霊様の写真、いいな!」
「だろ〜?明け方まで寝ないで探したからな。仕事で本物の精霊様を見たことがある俺としては、最高の1枚を探さないといけないだろ?」
「この精霊様も素敵・・・でも、やっぱり横顔の精霊様が1番かしら・・・!」
行き交う人々がみな、自分が選んだマキちゃんの写真を自慢している。なんだこれ・・・俺は腕時計を利用して画面を表示し、数日ぶりに『今日の精霊様』を開いてみた。写真の数が10万枚ほどに増えて、しかもユーザーが気に入った写真に投票できる「評価システム」が追加されている。1番人気のある写真には20万票も入っていた。・・・この町の人口、1万人もいないはずなんだけど。
「すごいね、おかーさんだいにんき!なんかうれしー!」
「これは・・・なんなのでしょうか・・・。」
ナナが無邪気に笑い、マキちゃんは困惑している。。ついでに俺が作った大規模掲示板「ニャちゃんねる」を覗いてみた。
[今日の精霊様のオススメを教えあうスレpart241]
[【生贄に】本物の精霊様見たことある人間ちょっとこい51スレ目【なりたい】]
[精霊様かわいいよ精霊様452]
・・・なんだ、マキちゃんの話題ばっかりだ。この町の精霊様信仰を完全に舐めていた。まさかここまでとは。もはやおもしろコンテンツ大会は結果発表を待つ必要もあるまい。諦めた俺は家に帰るとすぐマキちゃんにお願いして、各サイトのアクセス数を集計してもらった。
結果はすぐに出た。
【第1位】 620,077アクセス
レイ作 『今日の精霊様』
【第2位】51,214アクセス
ナナ作 『ねこさんこれくしょん』
【第3位】50,114アクセス
マキちゃん作 『Nyahoo!』
【第4位】30,984アクセス
俺作 『ニャちゃんねる』
【第5位】4535アクセス
エド作『ザ・ワイルド』
【第6位】2504アクセス
ハル作 『銃と硝煙』
【第7位】15アクセス
ガイ作 『ケーブル★大図鑑』
【参考記録】100,752アクセス
ウォーリー作『Wの館』
※ 子供たちの教育上不適切なので記録なし
※ 俺の中ではMVP
というわけで、まさかのレイが優勝だ。まさかこんなことになるとは・・・。ポータルサイトを抑えてナナのサイトが2位に躍り出たのも驚いた。よく考えれば当たり前で、検索する必要があるほどネッコワーク上にはサイトが存在しないので、ポータルサイトはそれほど必要とされていないのだ。
「というわけでレイ・・・おめでとう、優勝だ。」
「ふふん、レイの言った通りです!マキ姉さまに勝るコンテンツはないのですー!」
最初は喜び胸を張っていたレイだが、すぐに元気がなくなってきた。マキちゃんのちょっと・・・いや、かなりアレな動画を公開して死ぬほど怒られてから立ち直れないらしい。本人いわく、AIの自我が崩壊しかけるほど怒られたそうだ。マキちゃんさすがすぎる。ちなみにあの動画を再生したのは奇跡的に俺だけだったらしい。サムネイルがイマイチだった上にすぐ削除されたからだろう。マキちゃんからしたら、一番見られたくないのが俺だったかもしれないけど・・・。
「レイ、元気出しなよ・・・。ほら、優勝賞品は『マキちゃん』なんだろ?マキちゃんも出てきてよ、ほら。」
俺が促すと、マキちゃんのホログラムが出現した。レイのホログラムから顔を背けるように横を向いている。
「マキちゃん・・・1日、いや、1時間でいいからさ。レイの言うことを聞いてやってよ。ね?」
「・・・わかりましたわ。ご主人様がそうおっしゃるなら。」
ため息を吐いて、マキちゃんがレイの方を向く。
「レイ、私になにかして欲しいことがございますか?1時間だけ言うことを聞いてさしあげますわ。」
レイはうつむいて、おずおずと・・・いつも元気なレイらしくない小さな、蚊の鳴くような声で言った。
「おねえさま・・・あの・・・1時間なんていらないです・・・あの・・・あの・・・」
「なんですか、レイ?」
「レイを・・・許してほしいです・・・本当に、ごめんなさい。」
レイが頭を下げると、ポロポロと光るものが溢れた。ホログラムの涙は床には落ちず、地面に当たる前に消えていく。泣きながら謝るレイを前に、マキちゃんはハッとした表情を浮かべた。それからそっとレイに近づいて、ギュッと抱きしめた。
「レイ、私のかわいい妹。もういいのです。私の方こそいつまでも、大人げなかったですわ。・・・ごめんなさいね、レイ。」
「お゛ね゛え゛さ゛ま゛あ゛ぁぁぁぁぉぁぉぁ!!」
よしよし、すべて丸く収まったようでなにより。2人はしばらくそうした後、そっと身体を離した。マキちゃんは優しく笑い、レイは涙と鼻水でいっぱいの顔をクシャクシャにして笑い返した。
「でもレイ、せっかくなのですから・・・なにか私にして欲しいことがあれば言ってくださいな。今だけ特別ですわよ。」
「え・・・いいのですか、マキ姉さま・・・?それじゃ、それじゃ、えっと・・・。」
レイはソワソワしながらためらった様子を見せて、それから思い切ったように言った。
「マキ姉さまに・・・水着を着てほしいです!」
マキちゃんは絶句し、俺は心の中でガッツポーズした。レイ、いやレイ様・・・一生ついていきます。その時、どこからともなくウォーリーが現れた。今までに見たことがないほどの、おそらくはボディの性能限界を遥かに超えた素早い動きだった。
「高画質で録画しにきまシタ!」
そんな気はしてた。お前は期待を裏切らない男だ。後でコピーしてね。
「な、な、な、な、な・・・レイ、他に何か・・・ないのですか?私の水着姿って・・・そんなご主人様とウォーリーみたいな・・・。」
「お姉さま・・・ダメ、ですか・・・?」
レイに潤んだ瞳で見つめられ、俺とウォーリーから煩悩に満ち溢れた視線をぶつけられたマキちゃんはしばらく悩んだあと、ニッコリと笑った。
「わかりました、レイ。水着を着てさしあげますわ。・・・ただし、あなたも一緒に着るのですよ?」
「は、はいですぅ!」
おっしゃぁぁぁぁぁ!俺のテンションは一気に光る雲を突き抜けてフライアウェイした。ウォーリーはアイカメラを入念に磨き、来たるべき瞬間に備える。そんな俺たちを尻目に、マキちゃんとレイはこちらをチラリと見て・・・そして、姿を消した。
「・・・なっ!!なんだって!!」
「ホログラム非表示デス!電子の世界で水着を着る気デスよ!!こんな横暴、あり得まセンッ!!許せナイッ!」
まさかこんなことが・・・俺は必死で考えを巡らせる。
「落ち着けウォーリー、まだ慌てるような時間じゃない。いいかい、マキちゃん、待つんだ!よし、マキちゃんの主人の名において命令するぞ!ホログラムを表示しなさい!今すぐ、水着のホログラムを!」
すると目の前に、水着のホログラムが表示された。誰も着ていない、ハンガーに吊るされた水着の映像が。違うそうじゃない。
「コラ!分かっててやってるだろ!俺はこんな面積の少ない布が見たいんじゃない・・・面積の少ない布を着たマキちゃんが見たいんだ・・・!無駄な抵抗はやめて、早くホログラムを表示しなさい、早く!」
すると間もなく、マキちゃんとレイのホログラムが出現した。いつものようにしっかりとメイド服を着込んでいて、レイはとめどなく溢れる鼻血を手で押さえている。
「・・・あれ?水着は?もう終わりなの?早くない?」
「いいえ、ご主人様。電子の世界では体感時間を引き延ばせますので、レイと私にとっては1時間は経過していますわ。」
「・・・なんですと?」
「マキ姉さまの水着・・・最高です・・・あんなにギリギリの水着を着てくださるなんて・・・ぐっ・・・ぐふぅ!」
ふらつくレイはマキちゃんに支えられながら血を吐いている。完全に致死量のマキちゃん成分を摂取したようだ。俺は直感した。
「レイ・・・貴様・・・水着を着てもらっただけではないなッ!?何をしたッ!?」
口元を抑えながら立っているのもやっとの様子なレイは、しかしニヤリとねばつくような笑みを浮かべてこちらを見た。その姿はいつもの美少女ではない。ただのおっさんだ。
「レイも一緒に水着を着て、スリスリしたりギュッてしたり、いっぱい甘えてしまったのです。天国はここに実在したのです・・・ぶはぁ!」
レイは話しながら、さらに鼻血を吹き出した。思い出して興奮したらしい。ウォーリーが絶望に膝を折って地面に崩れ落ちた。
「バカな・・・レイとマキちゃんサマが水着姿でイチャイチャするなんて・・・その瞬間を見れなかったナンテ・・・この世の地獄とはこのことデス!!」
俺とウォーリーは泣いた・・・ただただ泣いた・・・。その日は遅くまで、野郎ふたりの泣き声が響き渡った。
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こうして俺たちの第一回おもしろコンテンツ大会は無事終了し、スマートニャンとネット文化は俺たちの町に一気に浸透した。自分でホームページを作る人も続々と現れ、お店を営む人々からはウェブサイトの作成依頼が殺到している。俺がダラダラとネットを楽しんだり、自由気ままにハッキングできるようになる日もそう遠くない・・・。
しかしトラブルというものは放っておいてもやってくるものらしい。俺がこれからの日々に胸を躍らせていると、なんの前触れもなくそれは現れた。見覚えのある飛行機が庭に着陸し、悠然とその人物が大地に降り立つ。
長い黒髪が風になびいていた。どこか幼さが残る少女のような顔立ちに不釣り合いな、歴戦の勇者だけが持てる余裕と迫力。彼女は俺を見て笑顔を浮かべた。肉食恐竜が愛想よく笑ったような違和感。
「久しぶりね、天才ハッカーさん。」
「げっ・・・ユニオン・サリー?」




