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出会い

「ご主人様、もっと早く走ってくださいまし。それとも、私を腕から外して、安全そうな道端に投げてくださっても構いませんわよ?むしろ推奨しますわ。」


いま俺は、見渡すかぎり何もない荒野を、全力でダッシュしていた。横には犬ロボットのクロが並走して、ほんの数メートル後ろには全長30メートルの巨大ドリルモグラが追いかけてきている。タッチされれば即消し炭の、世界一スリリングな鬼ごっこである。


「マキちゃん、あのモグラを遠隔ハッキングできるぅー⁉︎」


「バカにしないでくださいませ。マキにハックできないものなどございませんわ。ただちょっとアクセス可能なコネクタが見つからないので、立ち止まってモグラさんをよく調べていただけると嬉しいのですけど。」


平均時速50キロでダッシュすることすでに30分。マキちゃんが作ってくれたスーツのおかげで、生身では不可能な速度で走ることができている。このスーツがなければ、出会った時点で消し炭になっていただろう。ナノマシンのおかけで、息切れも疲労もない。しかしまた、巨大モグラが諦める気配もない。どうしたものか。クロを囮にして逃げるか?確かこのスーツには光学迷彩機能もあったはずだ。クロを囮にして自分は姿を消せば、逃げ切れる公算が高い。


・・・しかしそれもなんか悪い気がする。星になった2号と3号のこともあるし。だいたい、荒野にはプラズマライフルの木も見当たらないし、クロを再生産することはできなそうだ。得体の知れないこの荒野で、クロを犠牲にして護衛なしの状態に戻るのも危険な気がする。現に今、死にそうだし。


「ご主人様、左前方から車両型の物体が接近しています。このままだと1分後に接触ですわ。」


地平の彼方に目をこらすと、屋根のない車両・・・いわゆるジープのようなものが土煙をあげながら、こちらに走ってくるのが見えた。例の人食いトラクターのようなものかと思って警戒するが、そうではなさそうだ。というのも、人間が乗っているのが見えるのである。運転席に1人と、後部座席に立っている1人。俺の視力は常にナノマシンで3.0に矯正されているから間違いない。


ジープはみるみるうちに接近すると、方向を変えて俺たちに並走しはじめた。後部座席に立っている人間が乗れ、というジェスチャーをしながら叫んだ。


「☆◯△?×☆◯◯???!」


女性の声だった。ボロ布のマントを背中にひっかけ、その下はオレンジ色のタンクトップに、ジーンズ生地のホットパンツ。露出した美しい脚線美、褐色の健康的な肌が眩しく、タンクトップを押し上げる豊かな膨らみが女性らしさを主張する。顔は大きなゴーグルを付けているのでよく分からない。後ろでまとめた長い髪とボロボロのマントが風になびき、それはさながら、この危険な荒野に現れた女神であった。風にはためくタンクトップの裾から引き締まった腹部とヘソがチラリと覗いて、思わず唾を飲み込んだ。


女性の言葉はまるで耳慣れないものだったが、乗れ、と言っているのは分かる。迷わず並走するジープに飛び乗ると、続けてクロも後部座席に飛びこんできた。


『ご主人様の心拍数、自律神経の乱れを検知しました・・・生身の女性にドキドキしやがるのは結構ですけど、私相手にそういうの全然ないんですけどちょっとこれホントどういうアレなんですのちょっとこれちょっとホントこれちょっと』


「えっ・・・いや、こういう健康的なタイプの人ってあんまり見ないからさ・・・。」


マキちゃんはホログラムを出現させず、神経接続で俺に話しかけている。目覚めてから初めて遭遇した人間に、AIである自分の存在を明らかにしてよいか判断できないからだろう。俺が冷凍される前はAIは一般的なものだったが、今この状況でそれが同じかどうかは分からないので、正しい判断だと思う。俺が思わず声に出して話してしまったので、はたから見ればブツブツと独り言を話す気持ち悪いヤツだろう。


「△?×☆◯◯!?」


ブツブツ言ってる俺を見ながら、女性がさらに話しかけてくる。ジープは全速力で爆走中。もちろんすぐ後ろに、巨大モグラが追いかけてきているのも変わらない。


「?×☆◯・・・い、ねぇ、大丈夫?ブツブツ言ってるけど・・・脚の速いにーさん、聞いてる?」


徐々に女性の言葉が理解できるようになってきた。マキちゃんによる、リアルタイム翻訳が機能しはじめたのである。


「ご主人様、ただいまの翻訳率は推定97パーセントです。未知の言語ですが、旧アジア地域の言語に近いものですわ。ハッキング用の暗号解読アルゴリズムと私の素晴らしい知能を組み合わせてリアルタイム翻訳しております。お褒めくださって結構ですわよ。」


200年も冷凍されると言語が大きく変わってしまい、コミュニケーションに難儀する可能性があった。言葉の変化というのは早いのだ。マキちゃんはすでに値千金の働きをしてくれているが、もともとはこの言語の変化に対応するために持ち込んだのである。それにしても、手ぶらで冷凍されなくて本当によかった。もしマキちゃんがいなければ、今ごろ炊飯器かトラクターの腹の中にいただろう。


・・・まぁシャクに触るので、ここはあえて褒めないけど。


「ご主人様、聞こえてますかご主人様。褒めていいんですよ?おーい」

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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