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アメリカンドッグ祭り

【前回までのあらすじ】


・スキャニャー完成する

・今夜はなにが食べたいですか?

「なにが食べたいって・・・エド、アタシの話聞いてた?」


エドの唐突な発言にハルは戸惑い、ガイはジッと空中を見つめてから、一言。


「アメリカンドッグが食べたいッスね・・・。」


アメリカンドッグ・・・串に刺したソーセージに甘めの衣をつけて油で揚げた、いわゆるホットスナックだ。アメリカンというのは遥か古代に存在した大国の名前だそうだが、実際には料理と無関係らしい。よくわからない食べ物だが俺も好きだし、この世界でも割とポピュラーである。それにしても思いのほかおやつっぽいものをリクエストされた。いや・・・もちろんなんでもいいんだけど、食料危機でピンチ!みたいなノリでやってきてアメリカンドッグって・・・いや、いいんだけど。


「じゃあとりあえず家に帰ろうか。確か冷蔵庫にアメリカンドッグがあったような気がする、」


「にーさんもアタシの話聞いてないの?オヤツを食べてる場合じゃないんだってば!町から食べ物がなくなるの!」


プリプリと怒るハルをなだめて家に帰り、冷蔵庫からアメリカンドッグを取り出す。いつもみんなで食事をとっている大きなダイニングテーブルにアメリカンドッグを置くと、どこからともなく大きくて不細工なネコがやってきた。スキャニャーだ。


「ちょっとネコさん、テーブルに乗ったらだめだってば・・・って、ええ?なにこれ?オロチ?」


おもむろにアメリカンドッグに赤いレーザーを食らわせるスキャニャーを見たハルが、驚いて一歩飛びのいた。スキャナノオロチを見たことがあるハルからしたら、この赤いレーザーはけっこう怖いかもしれない。時間にしてほんの数秒、残ったのは皿に乗った白い灰の山。ほんのり香ばしい匂いがする。


「マキちゃん、どお?」


「スキャンデータに問題はございません。林に戻りましょう。」


「なんなんスか・・・目の前で大好きなアメリカンドッグが灰になるのを見せられるなんて、意味が分からないッスよ・・・。」


俺たちは再び、並びたって林に戻る。林が近づくにつれて、なんだか香ばしい香り漂ってくることに気がついた。


「これ・・・アメリカンドッグの匂いッスね・・・?」


ガイが口元のヨダレを拭きながらつぶやいた。すると林の方から、かわいらしい声が響く。ナナだ。


「クロォォォォォォ!!アメリカンドッグがいっぱいだよぉぉぉぉぉぉ!!ナナがいいこだからかな!たべていいかな!たべていいのかなぁぁぁぁぁぁ⁉︎」


待ちきれなくなった俺とエドが走って林に向かい、中を覗き込んだ。そこに広がっていたのは・・・ズラリと並んだプラズマライフルの木に、びっしりとぶら下がった無数のアメリカンドッグだった。まるで木の実のようになっていて・・・これはもうアメリカンドッグの林と言っても過言ではない。木々が発する緑の匂いをかき消すように、香ばしい食欲をそそる匂いがあたりに充満していた。アメリカンドッグの林の下をナナとクロが嬉しそうに駆け回っている。


「な・・・なにこれ・・・?」


「アメリカンドッグって・・・木から生えるものだったんッスね・・・。」


「そ、そんなわけないでしょ!・・・ないわよね?ないと思うんだけど・・・。」


あっけに取られるハルとガイ。ナナが俺を見つけてニコニコしながら走ってきた。


「おとーさん、おかーさん!これたべていい?」


「ああいいよ。いっぱい食べなさい。」


「ナナ、晩御飯が食べられなくなるから35本までにするんですよ。」


「はーい!さんじゅーごほーん!おいしー!」


ナナはさっそく10メートルほど垂直にジャンプして、高いところになっているアメリカンドッグを取って食べだした。35本って、俺が1年に食べるアメリカンドッグの本数を大きく上回るんですけど。俺も手近なところに実っているアメリカンドッグをもぎ取って、ひと口かじってみた。思いのほか衣がカリカリで、しかもほんのり温かい。ただ冷蔵庫から出したやつをコピーした程度の味かと思ったのに、すごく美味い。見ればエドもナナと一緒にアメリカンドッグを両手に持ってかじりついてる。子どもたちがアメリカンドッグを食べる姿は微笑ましい。その横ではクロが棒ごとアメリカンドッグを噛み砕いていた。


「マキちゃん、これ温かくて美味しいよ?」


「はい、温めてみました。木からもぎ取る前であれば、ある程度は温度の調節ができますわ。火災に気をつける必要がありますけど。」


「うーん、うまい。ハル、ガイ、2人とも食べなよ?」


「えっ・・・ええ、そうね・・・。」


「おおっ・・・どこからどう見てもアメリカンドッグッスね・・・マジハンパねぇーッス・・・。」


2人はまだ事態について来れていないようだったが、温かいアメリカンドッグをかじると落ち着いたようなので、食べながらネタばらしをした。


「・・・っというわけで、(ほぼ全てエドのおかげで)食べ物でもなんでも好きに作れるようになったんだ。」


「もう・・・にーさん、なんでもアリね・・・。」


「アニキ、マジハンパねぇーッス。マジリスペクトマイブラザーッス。一生ついて行くッス。もう1本食べていいッスか?」


みんなでアメリカンドッグをかじりながらのんびりと過ごす。ナナがこっそり36本目に手を伸ばしてマキちゃんに叱られていた時、ハルが言った。


「それにしてもにーさん・・・アメリカンドッグ作りすぎじゃない?」


見渡せば、なるほどまだまだ数えきれないほどのアメリカンドッグが木についたままになっている。しかしこれは作戦通りだ。ディストリビューターが停止したと聞いた時に、すぐに思いついた作戦を開始する。


「マキちゃん、ネッコワークで町の人たちにメッセージを一斉送信だ!」


「はいご主人様。メッセージの送信を開始いたします。」


ネッコワークを利用したメッセージの一斉送信は、管理者である俺とマキちゃんにだけ許された特別な機能である。町にいる全てのネコに同じメッセージを喋らせることができるのだ。乱用すればひんしゅくを買うだろうが、今は非常事態だし、内容も町のためになるので許してもらえるだろう。メッセージの内容を要約すると、こうだ。


・新しい食料生産施設ができました

・その証拠に、アメリカンドッグを無料で配布しちゃいます

・食べ物のサンプルが欲しいので、手元にある食料を持ってきてほしいです。対価はお金か、同じ食べ物を倍にしてお返しします



要約するとこんな感じだ。俺はとにかく町の人たちがいなくなるのを止めたいし、スキャンデータにするための食料のサンプルもほしい。町の人たちにも今後の食料供給について安心してもらえる有益なアナウンスだろう。アメリカンドッグ配布会場にはネコの店を指定した。一応俺がオーナーなので、オーナー権限で店の従業員の女性たちにも全面協力してもらう。といっても指揮をとるのはもちろんハルとガイだ・・・知らない女性、怖いし。


数時間後、ネコの店は町の人たちでごった返していた。


「アメリカンドッグうめぇぇぇ!久しぶりに食べるとうめぇぇぇぇ!」


「こっちにもアメリカンドッグくれー!10本くれぇぇぇ!」


「我が家の梅干しを倍に増やしてくれるって本当?」


「肉、肉、この肉を増やしてぇぇぇぇ!」


アメリカンドッグを求める人、手持ちの食べ物を増やしたい人、人、人・・・。店員さんたちが混乱を収めるべく、必死に行列を管理している。アメリカンドッグを山ほど抱えて帰る客、増やして欲しい食べ物を差し出す客、増えた食べ物とアメリカンドッグを持って嬉しそうに帰る客・・・。店の裏手ではスキャニャーが休みなく持ち込まれた食べ物をスキャンし、大量の通信ネコたちが食べ物を入れた袋を咥えてプラズマライフルの林と店を行ったり来たりしている。店の外はアメリカンドッグをかじる人たちで溢れかえり、町はさながらアメリカンドッグ祭りの様相を呈していた。夜遅くまでこの騒ぎは続き、捨てられたアメリカンドッグの棒で道路がいっぱいになっている。後日、この町では年に一度の「アメリカンドッグ祭り」が恒例行事となるのだが、それはまた別の話。


翌朝。アメリカンドッグの棒が大量に転がった店の前で、俺とガイは清掃活動に精を出している。集めた棒はまたプラズマライフルの林に埋めてやれば、分解されて栄養になるらしい。


「これで、町の人たちが他の町に移住することもなくなったかな・・・。」


「そうッスね。この町はめちゃ住みやすいッスから、食料問題がなければ大丈夫ッスよ。もぐもぐ。」


昨日のうちに確保していたのか、ガイは喋りながら冷めたアメリカンドッグをかじった。・・・前向きな言葉に反して、なんだか難しい顔をしている。


「ガイ、どうした?なんか問題あった?」


ガイは俺の方を見て、極めて深刻そうにつぶやいた。


「昨日からずっと思ってたんスけど・・・ケチャップとマスタードが欲しいッスね。」

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