スキャニャー、完成する
「師匠、出来ましたよ。『スキャニャー』です!」
明けて翌朝、俺の部屋。エドが自信満々で見せてくれたのは、普通のネコよりひと回りも大きい、ちょっとブサイクで太ったネコだった。
「おお・・・もう出来たの?すごくない?」
設計を詰めておくとか言っていたのに、もう完成させてしまったらしい。この弟子ちょっとできすぎる。チート弟子。
「在庫の中でも良い部品をたくさん使っちゃいましたけど・・・。」
「ああ、それはいいよ。『スキャニャー』が完成すれば、好きな部品がいくらでも量産できるようになるわけだからな。」
とにかく、まずはテストだ。俺はあらかじめ用意してあったカッターウサギ・・・レーダーウサギの耳をプラズマカッターに改造したもの・・・の1体を取り出し、スキャニャーの前に置く。カッターウサギは電源を入れていないのでぐったりとして、ぬいぐるみのようだ。
「スキャニャー、スキャン開始!」
エドの合図でスキャニャーが口を開き、そこから赤いレーザーが照射される。カッターウサギの頭からつま先まで順にレーザーが走査していくが、レーザーが当たった部分は細かい粒子になって崩れていった。スキャンが終わるとそこに残ったのは、ダルそうに座り込むスキャニャーと白い灰の山だけである。
「うん、やっぱりスキャンされたものは灰になるんだな・・・。」
「こればっかりは仕方がないですね。人間なんかの生き物ではやらないほうがいいかもしれません。」
「うまくいくかどうかもよくわからないし、倫理的な問題もあるよなぁ・・・。あ、マキちゃん、スキャンデータはどう?」
ホログラムのマキちゃんと、カッターウサギの立体映像が空中に表示される。しばらくデータを読み取っていたマキちゃんだが、チェックが完了するとしっかりとうなずいてくれた。
「これならば問題ないかと思いますわ。さっそくデータをプラズマライフルの木に遠隔アップロードして、クローンの生成を開始しています。実物を見にいってみましょう。」
俺とエドがワクワクしながらプラズマライフルの林に行くと、そこには5体ほどのカッターウサギが整列して俺たちを待っていた。
「やった!成功だ!」
「やりましたね、師匠!」
その後、ウサギのハードウェアのチェックや動作テストを行ったがまるで問題は見つからない。俺たちはついに、プラズマライフルの木からなんでも好きなものを生成する技術を開発してしまったのだ。・・・もっとも制約もある。最初にスキャンする対象を破壊する必要があるし、スキャニャーの性能に限界があるので、あまり大きいものもスキャンできないはずだ。せいぜい自動車サイズぐらいが限界だろう。他にもまだ把握していない問題があるかもしれない。しかし、とにかくこれで入手が難しい貴重なパーツも自由に増やせるし、手作業で改造したロボットも一度スキャンしてしまえば簡単に量産できる。俺とエドはしばらく小躍りして喜んだ。今夜はパーティーだ!昨日もパーティーだった気がするけど。
プラズマライフルの林でエドと盆踊りやフォークダンスをして過ごし、エドに「師匠、これいつまでやるんですか?」と面倒くさそうに言われた頃。そろそろ帰ろうかと思っていると、ハルとガイが神妙な顔でやってきた。
「おっハルとガイじゃん?ちょっと聞いてよ、今さぁ・・・」
「にーさん・・・この町はもうダメかもしれない。移住の準備をしなくちゃ。」
「アニキ、俺はアニキと一緒に行きますよ。新しい町でも、また電話を普及させてやりましょう!」
せっかくいいニュースを伝えてやろうと思ったのに、ふたりは全然元気がないし、この町がもうダメとか言っている。どうでもいいけど洪水とかユニオンの攻撃とか、この町って滅亡の危機が多くない?
「なになに?どうしたの?またすごい洪水が来るとか?」
「ううん、違うの・・・。にーさんには食べものがどこから来るのかって話をしたことあったよね?」
「ああ、覚えてるよ。ディストリビューターだっけ?食べ物を作り出す天然の機械があるんだよね?」
前に食卓で質問したことがあった。この世界の食料は全て、古い遺跡などで稀に発見されるディストリビューターという装置が作り出しているのだ。ディストリビューターが発見されるとそこに人が集まり、町ができる。この町もそうやってできたのだ。なんとなく話が分かってきたぞ。
「この町のディストリビューターはもう寿命が来たみたい。昨日からなんにも食べ物が出なくなってるんだって・・・。」
「このままじゃ、すぐに飢え死にッス。備蓄があるうちに、他の町に逃げ出しましょう。」
話を聞いた俺とエドは顔を見合わせた。考えることは同じだ。先に口を開いたのはエドだった。
「ハルさん、ガイさん・・・今夜はなにが食べたいですか?」




