慰めの報酬
【前回までのあらすじ】
・ウォーリー、カッコよく死にそうになる
「さあ、死ね。」
男が銃をウォーリーの頭部に向けた。しかし引き金を引き絞ろうとしたその瞬間。男の腕は自分の意志に反してクルリと狙いを変え、自分自身の頭部に銃口を突きつけた。
「な・・・なんだ?身体が勝手に・・・?」
ショットガンから光の散弾が飛び出し、男の頭を粉々に吹き飛ばす。頭を失った身体が倒れて、ミリィは自由になった。
「いったいなにが・・・?なぜ急に自殺を・・・?はっ、それよりウォーリー!生きてる?」
ミリィが倒れているウォーリーに駆け寄った。今やウォーリーのアイカメラは光を失い、身体はぐったりと動かない。
「ウォーリー・・・嘘・・・ウソよ・・・!」
その時なんの前触れもなく、彼の左腕の腕時計から美しい女性が現れた。人間離れした美しさ、この世のものと思えない存在感・・・これは、おとぎ話に出てくる精霊だ。驚いて硬直するミリィに、精霊は優しく話しかける。
「私がたまたまウォーリーの左腕にいて良かったですわ。なかなか高機能なサイボーグだったので、遠隔ハッキングに手間取ってしまいましたが・・・。時間稼ぎのために射的の的になるなんて、ウォーリーもなかなかやりますわね。」
「せ、精霊様・・・?ウォーリーから聞いていたけど、作り話じゃなかったんだ・・・。」
「お初にお目にかかりますミリィ様、マキと申します。いつもうちのウォーリーがお世話になっておりますわね。彼なら心配ございません。ボディの発電が不安定になったので、休眠状態に入っただけですわ。お手数ですが、ぶち殺したサイボーグの身体にこの腕時計を巻いていただけると助かるのですが。」
ミリィが言われるがままにウォーリーから腕時計を取り外し、頭が吹き飛んだサイボーグの腕に巻き直す。すると頭のないサイボーグが立ち上がり、自分の身体にウォーリーの頭部を移植した。ウォーリーの目に光が宿る。
「ハードウェアの大幅な変更を検知しまシタ・・・。おはようございマス、マキちゃんサマ、ミリィサマ。」
「ウォーリー・・・よかった、無事なのね・・・!」
「我は不死身でございマス。ミリィサマを守る使命がございマスので。」
ミリィがウォーリーの胸に飛び込んだ。いつの間にか銃声が止み、陽射しが赤く西に傾いている。戦闘は終わっていたようだ。
「ミミミミミミミミリィサマ・・・・。」
ウォーリーがミリィの身体を抱きしめようとした時、見知らぬ女性の声が響いた。
「ミリィ!生きてた!あたしたち、生き残ったんだね!」
「エル!」
突然現れたエルと呼ばれた女性は、まっすぐにミリィに向かって走り、2人はしっかりと抱き合った。夕日に包まれる中、チームのメンバーと無事を喜び合っているのか・・・とウォーリーが2人を見ていると、エルとミリィはおもむろに顔を寄せあい・・・キスをした。それは長い長い・・・恋人同士がするような・・・そんなキスだった。
「・・・エ?」
エルから身体を離したミリィは恥ずかしそうにしながら、呆気にとられるウォーリーの顔を見た。そして申し訳なさそうに・・・しかしきっぱりと言った。
「ごめんね、ウォーリー。わたしは女だけど、女しか愛することができないんだ。これはファイヤーアントのメンバーで・・・私の恋人のエル。」
「・・・オオオオオ?」
「ウォーリー?あの・・・なんていうか・・・本当にごめんね?そんなに真剣に想ってくれていると思わなくて・・・その・・・とっても嬉しかったよ?できればこれからもずっといい友達で」
「・・・オオオオオオオオオ!」
ウォーリーは光学迷彩を起動して透明になると、マキちゃんを腕に付けたままどこかに姿を消した。マキちゃんから「ご心配なく・・・しばらくこのままで」という通信が入ったので放っておくことにして、俺達はファイヤーアントのメンバーと一緒に町へと帰った。
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その日の夜。荒野の夜はとても冷える。乾いた風が吹きすさび、月が冷たく大地を照らしていた。小高い丘のようになった大岩のてっぺんに、体育座りをする大男がいる。ウォーリーだ。
「グスッ・・・グスグスッ・・・。」
その横に、マキちゃんのホログラムが現れ、膝を抱えて座った。その姿はまるで、失恋した弟を慰めている姉のようだ。
「お泣きなさい、ウォーリー。涙は出てませんけど、泣くマネだけでもきっとスッキリすることもありますわ。」
「あい・・・マキちゃんサマ、我はトテモ悲しいデス・・・。」
しばらく2人でそうしていたが、ふとマキちゃんが何かに気づいてウォーリーに言った。
「そうですわ。ウォーリーも女性のアンドロイドボディを探して、女性になってみたらいいんですわ。ミリィ様には素敵な恋人がいらっしゃるかもしれませんけど、可能性はゼロではありませんことよ?」
それを聞いたウォーリーはしばらくじっと考えこんでいたが、やがて首を横に振った。
「イイエ、我のパーソナリティとおちんちんは深く深くつながってオリ、切り離すことナドできません。おちんちんと共に生きマス。」
それを聞いたマキちゃんは黙って肩をすくめた。それから満天の星を見上げて、優しくウォーリーに話しかける。
「それでは、なにか私にしてほしいことはございますか?今日は特別に、なんでもお願いを聞いて差し上げますわよ。」
ウォーリーはまたしばらく考えた後、元気よく答えた。
「そうデスネ、ひょっとしてパンツを見せてくださったら元気になれるカモ・・・ああ、マキちゃんサマのゴミを見るようなその目、たまりまセン!」




