人質
【前回までのあらすじ】
・アナタを愛しているからデス
「・・・それって・・・本気なの?」
ひざまずくウォーリーに、ミリィが問いかける。血と硝煙の匂いが混じりあう戦場での告白。彼女の瞳はウォーリーのアイカメラをまっすぐに見つめ、またウォーリーのアイカメラも彼女の瞳を見つめている。
「いつも言っておりマスでしょう、我は嘘はつきまセンと。」
ウォーリーの表情は相変わらず読めないが、その思いが真剣で、どこまでもまっすぐなものであることは誰の目にも疑いようがなかった。
「ありがとう、ウォーリー。あの・・・わたしね・・・」
ミリィが言いかけた時、ウォーリーは突然、強い衝撃を受けてその場に転がった。
ボディが次々とエラーを吐き、視界に激しいノイズが走る。頭を無理やり起こしてミリィの方を見ると、いつの間に接近したのか、彼女は全身黒ずくめの男に羽交い締めにされていた。冷静に自分の身体をチェックすると、背中に小さな銃創が無数にできていることがわかる・・・これは、ショットガンで撃たれた跡だ。ボディに複数の機能不全が発生し、ウォーリーのAIに警告メッセージが次々と表示されるが構っている場合ではない。ふらつく機械の体を押さえつけて無理やり立ち上がり、男を睨みつける。そいつは低い、まるで死神のような声で言った。
「ふん、戦場でずいぶんとロマンチックなことだ・・・女だてらにハンターのチームを率いているが、どこまでいっても女は女だな。」
「その人を離しなサイ・・・汚い手で触ルと・・・ただじゃあおきまセンッ・・・!」
「ほぉ・・・貴様もサイボーグか?頭部まで完全に機械化するとは・・・なかなか気合が入っているじゃないか。」
黒ずくめの男を観察すると、相手はサイボーグであることがわかる。顔面にわずかな生身の肉体を残すだけで、頭部まで装甲で覆われたほとんど完全なサイボーグ。ウォーリーと同じ隠密性能の高いボディのようだ。光学迷彩を使用して、気づかれないように接近していたのだろう。戦場の真ん中で周囲の索敵を怠っていた自分に腹が立つが、とにかく今はミリィを助けるのが先だ。
「いいからミリィサマを離すのデス・・・。さもないと・・・頭を引っこ抜いてキャッチボールしマスよ・・・!」
「ふん、そんなボロボロの状態でいきがるんじゃない。この女は俺が安全に脱出するのに必要だ。このまま1人で逃げ帰ったら俺もタダでは済まんが、ファイアーアントのリーダーを生け捕りにすればメンツも立つ、そうだろう?それより、貴様・・・」
男はウォーリーをじっくりと観察して、舌なめずりをする。
「俺と一緒に来い。頭部まで完全に機械化するようなイカれた男、そうはおらん。俺の相方にふさわしいといえよう・・・たっぷりとかわいがってやるぞ・・・公私ともに、な。」
男の舐め回すような視線に、ウォーリーは思わず後ずさりしてしまった。未だかつて向けられたことのない、ドロドロした欲望に満ちた視線に戸惑う。
「残念デスが、我に同性愛の趣味はございまセン。理解はしまスが、できればそういう目で見ないでいただきタイ。」
「そうか、残念だ・・・じゃあ死ね。」
無造作に発射された散弾の雨を避けきれず、右肩に食らってしまう。鋼球ではなく拡散レーザーを発射する、レーザーショットガンだ。至近距離で撃たれた時の威力は驚異的で、頑丈なはずのサイボーグの身体をいともたやすく破壊する。ウォーリーの右腕が根本から千切れ飛び、人工血液があたりに散った。
「ウォーリー、わたしに構わず逃げて!あなたが殺されてしまう!」
ミリィの叫びも虚しく、何度も引き金が引かれる。そのたびにウォーリーの身体が千切れ、炸裂し、あたりに部品と人工血液が飛び散る。傷口からは液体と白い煙がとめどなく吐かれ、もはや彼は立ち上がることもできない。ミリィはなんとか男の手から逃れようとするが、サイボーグの腕力で押さえつけられビクともしない。
「逃げまセン・・・我はミリィサマを助けに来たのデス。これは作戦通りデスので、大船に乗ったつもりでお待ちくだサイ。」
倒れたままぎこちない動きで頭だけをミリィの方に向け、ウォーリーが言う。もはや身体を起こすこともできず、赤いアイカメラが弱々しく点滅している。
「ふん、まだ減らず口を叩くか・・・。惜しい男だが、今度こそ死ね。」
ショットガンの銃口が、ウォーリーの頭部に向けられた。もはや身体は動かず、回避することは不可能。それでもウォーリーはじっと、ミリィのことだけを見つめていた。
「ミリィサマ・・・今、お助けいたしマス。」




