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ラッキーセブン

【前回までのあらすじ】


・ウォーリー、イケてるメンズになる

・愛するあの人がピンチ

・吊り橋効果に期待

「まもなく戦闘領域に入ります。皆様パーティーのご準備を。」


マキちゃんの言うとおり地平線の向こうから銃声が聞こえ始め、空気に硝煙の匂いが混じってきた。ナナが俺の足元で巨大なライフルに弾丸を装填し、クロは何度か背中のプラズママシンガンを展開したり引っ込めたりして具合を確かめている。トラックの荷台から身を乗り出して双眼鏡を覗くと、地平線の向こうに大きな車両と、それに群がるように並走するバギーや見慣れない人型の機械が見える。レイが言っていたパワードスーツというヤツだろうか?


「レイ、あのでっかいバスみたいのが『ファイアーアント』の移動式拠点っていうヤツかな?」


「そです。無限軌道式の大型装甲車両、中で生活もできる世界で唯一のカスタム装甲車、通称『アリノス』だそうです。」


「アリノス・・・蟻の巣?」


アリノスは金属の装甲で全面を覆われた巨大な車両である。2階建の観光バスを縦に2台つなげたような大きさで、見た目は地面を走る電車と言ってもいいかもしれない。移動方法にはタイヤではなく悪路でも走行性の高いキャタピラを採用しているが、今は激しい攻撃にさらされて足回りにかなりガタがきているようだ。ほとんど停止しそうなスピードでノロノロと逃げるアリノスに、たくさんのバギーや身長2.5メートルほどの人型ロボットが群がって銃撃を加えている。アリノスの方も車両の側面に取り付けられた機銃や屋根に顔を出している狙撃手が弾丸をバラまいているが、50名からなる野盗の集団を追い払うだけの火力は持ちあわせてはいないようだ。


「あの人型ロボットがパワードスーツってやつか・・・後ろを追いかけてくるの、あれ戦車じゃない?」


「はいです。戦車が2両、装甲車が2台にバギーが20台、それからパワードスーツが3体。なかなかの大所帯です。」


「戦車が主砲を使わないのは、おそらくファイアーアントの方々を生け捕りにするためでしょうね。メンバーが全て女性というのは有名ですから。」


マキちゃんの推測は胸クソが悪くなるものだが、たぶん当たっているだろう。アリノスの足を完全に止めてから、取り囲んでじっくりと攻めたてるつもりに違いない。その時俺の覗く双眼鏡の先で、戦車の主砲がこちらを向くのが見えた。


「おいおい・・・あれヤバくない?」


「おとーさん、だいじょうぶだよ。ナナがいるから。」


「ええ?いやだって戦車の主砲だよ・・・?」


遠く戦車の主砲から爆炎が上がり、砲弾が超高速で飛来する。ヤバいと思った次の瞬間、ナナがトラックの運転席の屋根に飛び乗って手を一振りすると、砲弾が逸れて20メートルほど離れた地面が爆発した。爆音で鼓膜が震え、耳鳴りが頭に響く。もう1台の戦車も同じように主砲を発射するが、やはり砲弾は命中せずに地面をえぐるだけだ。屋根の上のナナが振り返って笑顔を向ける。


「ね、こうやってプラズマでだんどうをかえたり、ばくふうをさえぎればいいんだよ。ナナすごい?」


俺がカクカクと首を縦に振ると、ナナは嬉しそうにエヘヘと笑った。そうか弾道を変えればいいのか。俺も手からプラズマが出せるようになったらやってみよう。ところでどうやったらプラズマって出るの?腕立て伏せ?


俺が呆けていると、ナナが巨大なライフルを構えた。明らかにナナ本人より大きなそれは、ランスさんがナナのために作った専用の武器だ。大型重機を仕留めるために使われる対戦車ライフルの弾丸をナナのプラズマ放射でさらに加速し、通常の10倍以上の弾速で射出する。その貫通力はウォーリーのレールガンに匹敵し、ほとんどどんな装甲でもこれを防ぐことは不可能だろう。グリップやトリガーの大きさはナナの手にフィットするように細かく調整されているため、大きな銃本体に反して持ち手の部分は普通の大人では扱えないほど小さい。高度な火器管制システムが搭載されているナナにはスコープも必要ないため装着されていないし、その大きさにも関わらず地面に固定するアタッチメントもない。まさにナナのために作られた、ナナのための銃。言いかえれば、孫バカおじいちゃんが作った孫娘専用の銃である。その銃は「ナナに幸運を」という願いを込めて、【ラッキーセブン】と名付けられた。


「あったれー!」


ナナが引き金を引くと、激しく大気が震えて世界が一瞬無音になった。これ、生身の人間の近くで連射されたら確実に耳が逝くな・・・。弾丸はまだはるか地平の彼方にいた戦車に直撃し、主砲部分をもぎ取ってはるか上空に吹き飛ばした。残った車体から炎が吹き出し、一瞬の後に爆発する。一撃で戦闘不能である。もし前回のスキャナノオロチ戦で【ラッキーセブン】が完成していれば、まるで苦戦することなく一瞬でケリがついていただろう。いや、洞窟が崩れてたかもしれないが。


「我も負けてはいられまセン・・・!」


ウォーリーは運転しながら巨大なレールガン【ハリケーン】を片手で窓の外に出し、引き金を引いた。生身の人間には到底不可能な力技だ。衝撃波でトラックの強化アクリル製フロントガラスにヒビが入る。弾丸が命中したもう1台の戦車は派手に横転し、それから爆発した。2台の戦車が壊滅して遠距離砲撃の危険が去ると、荷台から通信ネコたちが次々と飛び降り、トラックと並走しながらバラバラに分かれて地面を駆けていく。中にはシロを頭に乗せたクロの姿も混じっている。どうやらあのまま戦うつもりらしい。


「レイ、運転を代わってくだサイ。我は行かねばなりまセン。」


「ん、わかったです。とっとと行ってくるです!」


レイのネコに運転席を譲り、ウォーリーはトラックを走らせたままドアを開けてトラックの屋根の上、ナナの隣に素早く登った。まっすぐにアリノスの方を見つめる彼の横顔は、どこまでもイケメンでアゴがとがっている。


「ミリィサマ・・・今すぐ、このイケメンが参りマス!」

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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