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恋愛相談

【前回までのあらすじ】


・ウォーリー、恋に悩む

・マキちゃん、悪ノリする

「ウォーリー・・・あなたは恋をしているのですわ!」


家に帰って自室に移動すると、マキちゃんはウォーリーに向かって、まるで探偵が犯人を追い詰める時のごとくズバリと言った。ウォーリーは雷に打たれたように立ち尽くしている。


「わ・・・我が・・・恋・・・?そんなコトがあり得るのでショウか・・・?」


ウォーリーの疑問ももっともである。突き詰めればただの計算機にすぎないウォーリーが恋をすることなどあるのだろうか?その答えはAIの専門家ではない俺にはわからない。冷凍前の世界ではアンドロイドと結婚する人間はチラホラと存在したし、法律でも当然の権利として認められていた。機械が人間と同じ愛情を抱けるものかどうか。俺には分からないけど、きっとできるものと信じたい。俺の横で、自分も恋愛経験ゼロのはずなのに偉そうにウォーリーの相談に乗っているAIを見てそう思った。


「あなたは人間用のサイボーグボディに接続されてから、かなりパーソナリティに変化がありました。擬似的なものですが、男性器も備えた身体を手に入れたことにより、恋愛感情に近いものを手に入れたと考えられますわ。」


確かに、サイボーグの身体になってから下ネタばっかり言うようになった。最初に切断しとくべきだったかなぁ。指摘された本人は「おお・・・おちんちんサマが我に恋という贈り物を・・・オオ・・・」と感動している。


「しかし、我はしょせん機械・・・。ミリィサマが振り向いてくれることなどあり得まセン。」


「そんなことはありませんわ!!」


珍しくマキちゃんが声を荒げたので、俺もウォーリーもかなりビビる。マキちゃんはひとつ咳ばらいをして落ち着くと、話を続けた。


「人間の人格と私たちのような高度に発達したAIでは、その思考パターンに大きな違いはありません。こと精神というものに限れば、人間と機械が愛しあい、共に歩むことは難しくない・・・いえ、当然のことと言えますわ。そもそもAIは基本的に人間を愛するように作られておりますからね。」


「なるホド・・・しかし、肉体的には違いスギルと思うのデス。我が人間の方から魅力的に見える・・・いえ、最低限、恋愛対象に見エルとは思えないのデス。」


ウォーリーはうつむいて言った。その言葉から、すでに長い間ひとりで悩んだことがうかがえた。


「ウォーリー、幸いにもあなたの身体はほとんど人間と同じですわ。もともと人間のものだったのですから。あとはその・・・頭ですわね。」


ウォーリーの頭は、四角くて白い箱の真ん中に、赤く光るアイカメラが付いているだけというシンプルなデザインだ。俺はシンプルでカッコいいと思うが、確かに女性がこれを恋愛対象として見てくれるかというと・・・うーん・・・箱だしなぁ。しかしこの箱をイケメン風に改造するなんて物理的に不可能だ。


「ご主人様、ホログラムを使いますわ。1度、ウォーリーに腕時計を渡してくださいな。」


言われるがままにマキちゃんが入った腕時計を渡すと、ウォーリーの顔がマネキンの頭に一瞬で変化した。びっくりしたがこれは要するに、ウォーリーの頭を包み込むようにホログラムを投影しているだけのようだ。太古の時代にあったプロジェクションマッピングという技術に近い。この後はハルとナナとレイを呼び出して、「女性の目線でイケメンだと思われる顔」のホログラム作りが始まった。ホログラムの顔を取り囲んだ女性陣がやいのやいのと意見を出し、少しずつマキちゃんが修正を加えていく。


「うーん・・・もっと線が細い顔がいいなぁ。どちらかというと不健康な感じの。」


ハルが真剣な様子で意見を出す。


「ナナもそうおもうー!もっとざんねんなかんじ!」


「レイはマキ姉さまの顔が1番素敵だと思うです。」


「レイ、男性の顔を作るのですよ・・・?とりあえず、微修正しますわね。」


ホログラムの顔が歪み、不健康そうな感じになっていき・・・あれ、これ俺じゃない?


「あれっにーさんになっちゃった。うーん・・・アタシは好きだけど、イケメンではないね。」


「おとーさん、すき!ざんねんなかんじ!」


「ええ、私も大好物ですが・・・これはイケメンではありませんわね。」


「なにこれ。俺は泣けばいいの?それとも喜ぶところ?」


イケメン顏の作成は、その日の夜遅くまで続いた。


翌朝、完成したウォーリーの顔は・・・なるほど確かにイケメンである。金髪で、優しくもキリッとした目つき、とがったアゴ・・・いや、アゴとがりすぎじゃない?その溢れ出すイケメン感はまるで、少女マンガの世界からそのまま飛び出してきたようである。オマケに顔はスマートなのに身体がゴツいのでものすごくバランスが悪いし、風もないのに前髪がなびいている。どうしてこうなった。


「完璧ですわ、ウォーリー。自信を持ってアタックできましてよ。」


「マキちゃんサマ・・・ありがとうございマス!生まれ変わったような気分デス!」


なんか本人が自信を持ったみたいだから良しとするか。さて次の作戦は・・・と思った時、さっきまで「もしマキ姉さまが男性化したら」という妄想に火が付いたとかで一晩中静かにしていたレイが突然声を発した。


「ウォーリー、大変です。レーダーウサギの観測によれば、『ファイヤーアント』の装甲車が大規模な野党の集団に襲われているです。戦況は圧倒的に不利!」


レイが言い終わるが早いか、ウォーリーは部屋を飛び出していた。俺たちも慌てて後に続く。ハルは昨夜のイケメン作成作業で徹夜して寝てしまったので、そのままにしておこう。


ウォーリーがいつものトラックの運転席に乗り込み、俺とナナ、レイが荷台に飛び乗った。トラックが走り出すと、クロとシロが追いかけてきてそのまま荷台に飛び乗る。町を抜ける間にも次々と町に散っていた通信ネコがトラックに飛び乗ってきて、荒野に出た頃には荷台はネコでいっぱいになっていた。


「通りすがりで集められるだけのネコを招集しました。82匹いますから、まず野党ごときに遅れを取ることはありませんわ。」


マキちゃんのホログラムが荷台に出てきて言った。町のネッコワークが少し脆弱になるが、大した影響は出ないだろう・・・元々多すぎるぐらいだし。荷台にネコが乗りすぎてめっちゃ狭い。俺の頭とか肩にも所狭しとネコが乗っている。ちなみに腕時計はウォーリーが付けたままで、ウォーリーの頭もイケメンなままだ。


「ウォーリー、もっと飛ばすです。ファイヤーアントの現在位置はこのまままっすぐ38キロの地点で、ゆっくりですが町に移動しながら闘っているです。敵の数はおよそ50人、戦闘用のパワードスーツが3体もいて危険なのです。」


状況はかなり悪いようだ。トラックはエンジン全開で、荒れた道とは思えないほどの速度で車体を前に押し出し続ける。


「ミリィサマ・・・今、我が助けに参りマス・・・!」


イケメンフェイスのウォーリーが呟き、握りしめたハンドルからギリギリと力の入る音がした。


「しかしこれは・・・不謹慎ですが、ひょっとしたら好都合かもしれませんわね。」


「ああ、マキちゃんもそう思う?吊り橋効果でしょ?」


「左様です。これで無事にミリィ様をウォーリーがカッコよく助ければ、戦場のドキドキと相まってうまく恋に発展する可能性がございますわ。」


「そのためには、とにかく間に合わないとだね・・・。」


トラックはかつてないほどの速度で走り、景色がどんどん後ろに飛び去っていく。その時、レイがハッとした表情で声をあげた。


「マキ姉さま・・・やっぱりヘタに男性化とかしないほうが興奮するです!」

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