ガチな初恋
【前回までのあらすじ】
・スキャニャー作成中
・ウォーリー、女性とお茶
・アナタを愛しているからデス
「~~~~~~~~~~~!お聞きになりまして!?ご主人様、今のをお聞きになりまして!?『アナタを愛しているからデス。』ですって!きゃー!」
マキちゃんのテンションが上がりすぎておかしなことになっている。ちなみに『アナタを愛しているからデス。』の部分はウォーリーのモノマネで、しかもけっこう似てた。注意したいところだが、俺も呆気にとられて何も言えない。しかし告白された女性の反応は軽いものだった。
「あははっ!ありがと。お世辞でも嬉しいよ。」
「お世辞ではございまセン。我は嘘などつけませんノデ。」
「さっきまで130%に脚色した話をしてたくせに~?」
「ぐヌヌ。」
改めて女性を見る。座っているのでよくわからないが、身長2メートル近いウォーリーと並んでいても違和感のない、スラリと背が高い美人だ。傭兵かハンターだろうか、荒野に溶け込みやすそうな薄い茶色の戦闘服を着ていて、健康的に焼けた肌。長い髪を後ろでまとめてして、いかにも実用重視といった格好をしているのがわかる。寛いでいるが、立ち振舞いにスキがない・・・きっと戦闘経験の豊富な人なんだろう。
「それじゃ、わたしはそろそろ行くさ。またよろしくね。」
「名残惜しいデス。お気をつけて良い狩りを、ミリィサマ。」
女性はウォーリーから長い長方形のバッグを受け取ると、颯爽と歩いて行った。なるほど、ランスさんの店のお客さんに、商品を届けてたってところか。じゃあ今のやり取りは、ただの世間話みたいな感じなのかな?そう思ってウォーリーの方を見ると、彼はじっとしたまま微動だにせず、去っていく女性・・・ミリィさんの方を見ていた。
あれ、これ・・・ガチなやつじゃん・・・?
すると、俺の脳内にマキちゃんではない、別の声が響いた。レイだ。目を閉じると瞼の裏に、マキちゃんがレイに抱きつかれている姿が表示された。
『あやしーのです。レイもここ数日、ずっと観察していたです。』
『えっそうなの?』
『レイ・・・こんなおもしろそうなこと・・・早く教えてくださいな。』
『ごめんなさい、マキ姉さま。』
『いやいや、君たちウォーリーのプライベートを侵害しすぎでしょ!』
『あら、ではご主人様はレイからの報告をお聞きにならないのですね?』
『聞きたいです。仲間に入れて下さい。』
レイはふふんと得意気に鼻を鳴らしてから、説明を始めた。
『えーとですね、まずあの女性はミリィ様です。ランス銃砲店の常連で23歳。女性ばかりのハンターチーム『ファイヤーアント』のリーダーをしている方です。』
『女性ばかりのチーム?そういうのもあるのか。』
『はいです。主に身寄りのない子どもや野盗から助けた女性で構成されたチームだそうで、メンバーは現在20名。普段は住居を兼ねた大型の装甲車に乗り、中型~大型の重機を追って移動しながら生活しているです。ここ半年はこの町の周辺でナマモノの活動が活発なので、このへんで生活しているらしいです。』
『この町の人じゃないのか・・・。それはちょっとハードル高そうだね。会えなくなりそう。』
『でもでも、ランスさんの銃を愛用しているので、どんなに期間が開いても3ヶ月に1回はこの町に来ているようです。ウォーリーとはお店で知り合い、今日のように銃を届けるついでに世間話をする程度の間柄です。』
『レイ、あなたから見てどのような感じですか?つまりその・・・脈はありそうでしょうか?』
マキちゃんの質問に、レイは首をかしげた。
『ううーん。あまり正確に生体情報を読み取ったわけじゃないけど・・・ドキドキしているような兆候はなかったです。弟と喋っている感じとでもいうか、男として見られていないというか・・・。レイはマキ姉さまにこんなにドキドキしているのにです!』
レイは唐突にマキちゃんの胸に頭をグリグリと押し付け始めた。
『ちょ、ちょっとレイ・・・そういうのはあとでいいですから・・・』
『あとで!?あとでならいいですか!?イヤッホホホホホホホホホホウ!言質とったですぅぅぅぅぅぅぅぅ!早く夜になれぇぇぇぇぇぇぇ!』
『そ、そういう意味ではなくてですね・・・。』
レイが相手だとさすがのマキちゃんも形無しだ。うーん、それにしても男として見られていない、か。やっぱりロボットだからかなぁ。身体は服を着てればちょっとゴツいぐらいで人間と変わらないけど、頭はそのまんまロボットだもんなぁ。
『まぁ、なんにしても見守るしかないよね・・・俺たちできることなんてないし・・・。』
『それは違いますわ、ご主人様。恋に悩む若者を応援しなくてどうするのですか。』
マキちゃんがワクワクを隠し切れない様子で言った。
『若者って、ウォーリーは3500年以上生きてるんだけど。マキちゃん、「ちょっかい出したい」って顔に書いてあるよ・・・。』
「なにを出したいデスか?こんな人通りの多い場所デ?」
「うわっ!びっくりした!」
気が付くと、ウォーリーが俺の背後に立っていた。
「ご主人様、なぜこんなトコロで光学迷彩を?覗きや痴漢行為は感心しまセン。」
「ああそうか、いやうん、なんでもないよ。対人恐怖症だからちょっと姿を消してただけだから。うん。しかしよく気づいたね。」
俺は焦りを隠しつつ光学迷彩を解除する。すっげぇドキドキした。レーザー撃たれるかと思った。
「我も多少は索敵能力がございマスので、近くで大騒ぎされれば気づきマスよ。レイの叫び声が聞こえまシタ。夜になれとかかなんトカ。」
足元を見れば、いつの間にかレイの本体であるネコが座っている。こいつから物理的に声が漏れていたらしい。
『これはうっかりです。興奮しすぎたです。』
レイのネコは俺とマキちゃんに怒られる前に近くの屋根に飛び上がり、そのままどこかへ消えていった。
「ところで皆サマ、こんなトコロで何を・・・」
「ウォーリー、何か悩んでいることはありませんか?」
ウォーリーが言いかけたところで、マキちゃんが出現して食い気味に質問を投げた。
「悩み・・・デスか?」
「そうです、仕事のこととか、恋愛のこととか、恋の悩みとか・・・」
き、切り出すのが下手すぎる・・・!思わず吹き出しそうななるが、なんとかこらえる。するとウォーリーはしばらく考える様子を見せて、それから思い切ったように言った。
「実は我は・・・故障しているようなのデス。」
「故障?」
「はい、特定の人物を視界に捉えたり、その人物について考えようとスルとAIのルーチンに異常が発生しマス。うまく考えることができなくナリ、身体の制御もうまくできまセン。ジェネレーターのあたりが暴走しているような感覚がするのデスが、チェックしても異常はないのデス。」
ジェネレーターって、心臓にあたる部分か・・・要するに胸がドキドキするってことか?そんなことあるの?
「その人物って・・・えっと、ミリィさん、とか?」
「よく分かりまシタね!さすがご主人様デス!この症状はなんなのでショウ?」
これは思ったより、ずっと重症だ・・・。普段から下ネタばかり言っているウォーリーはしかし、恋愛というものを経験するのは初めてだ。もともと人間用に作られたボディに頭部を移植したのが原因だろうか?とにかく、彼は本当に恋をしているらしい。ふと横を見ると、ホログラムのマキちゃんが口元を抑えてピョコピョコ跳ねている。耳を澄ますと、「純情・・・!ウォーリーのくせに・・・純情ですわ・・・ッ!」とつぶやいている。心から楽しそうだ。
「我は・・・どうしたらいいのデスか?」
言葉を失った俺の代わりに、ピョコピョコ跳ねていたマキちゃんがひとつ咳払いをしてから、まっすぐウォーリーを見て言った。
「ウォーリー・・・私にお任せなさい!」
なんだろう。不安しか感じない。
 




