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録画

【前回までのあらすじ】


・スキャナノオロチをやっつけた

・スキャナを入手した

・ナナは魔性の女だった

「ご主人様、ちょっと落ち込んでらっしゃいますわね。」


夜も更けて、そろそろいつものお約束タイム・・・マキちゃんが腕時計に引っ込んで朝まで出てこなくなる時間・・・が近づいている頃。暗い自室のベッドに腰掛けた時、唐突にマキちゃんのホログラムが出現して俺に言った。部屋には他に誰もいない。ナナもエドも今では自分の部屋を割り当てられているので、寝るときはみんな別々だ。


「・・・わかる?」


「ええ、だてに400年以上おそばにいるわけではございません。考えなしにスキャナノオロチに挑み、エドとナナを危険にさらしてしまったことですわね。」


「うん・・・。」


ナナとエドを失いかけたことを思い出し、俺は震えた。


今回エドとナナが危険な目にあったのは俺のせいだ。もっと時間をかけて相手を分析し、リスクを最小限に減らす努力をすべきだったのだ。もっとたくさんの重火器を用意していれば、クロを最初から洞窟内に連れていれば、もっと効果的な作戦を立てていれば、ウォーリーを無理矢理にでも連れて行けば、今回のような事態は避けられた可能性が高い。結果として全員無事だったものの、もう少しでエドとナナを2人とも失うところだったのだ。そう考えると心の底から恐ろしいし、短絡的で楽観的すぎた自分を責める気持ちがとめどなく溢れてくる。


「今回は危なかったですわね。子どもたちの能力の高さに救われた形ですわ。危うくご主人様のせいで、かわいい娘と弟子を同時に失うところでした。」


「・・・うん。」


マキちゃんがベッドに座る俺に向かい合う形で立ち、見下ろしながら言った。自分でわかっていたことでも、人から改めて言われると辛い。ホログラムのマキちゃんには質量がないはずなのに、そのプレッシャーはスキャナノオロチ以上だ。


「スマートニャンを量産したいというご自身の欲望のために、リスクの検討が甘いままに能力が未知数の相手と戦うことを選ばれ、その結果として家族を危険に晒したのです。」


「・・・はい。」


涙が出てきた。自分が情けなくなってくる。500年も生きてきて自分の大切な家族すら思いやれないなんて、俺はとんだクソゴミクズクソ野郎だ。ベッドに座ったままうなだれる俺に対して、マキちゃんはしゃがみ込んで顔を覗き込んできた。恐るおそるその表情を見ると、しかしその顔はいつもの無表情ではなく、優しく微笑んでいる。


「ご主人様は本当に成長なされました。家族に迷惑をかけたことを恐れ、後悔して泣くなど・・・自分の欲望のままにハッキングを繰り返していた冷凍前のご主人様では考えられませんわ。」


その声色はどこまでも優しく、いつものように冷徹な響きは全く感じない。あまりにも予想外の態度に驚いて、俺の涙はピタリと止まった。


「もう泣かなくていいのですよ。今回はたまたま不測の事態が起きたのです。戦闘開始前にシミュレーションしきれなかった私にも落ち度がございますし、なにより結果的にみんな無事だったのですから。反省して次に活かしましょう。ね?」


「グスッ・・・うん、はい。マキちゃん・・・ありがとう・・・グスッ・・・。」


俺が目をこすっていると、マキちゃんの様子がおかしいことに気がついた。優しい表情を通り越してなんだかニヤニヤしている。


「マキちゃん・・・え、なに?どしたの?」


俺に指摘されるとマキちゃんはハッとして首を振り、いつものポーカーフェイスにもどった。・・・が、すぐにまたニヤニヤしはじめ、身体もなんだかモジモジしている。


「失礼いたしました・・・いいえ、なんでもございませんわ。ちょっとご主人様の泣き顔があまりにもかわいらしいので・・・うふふ・・・録画しちゃった・・・どうしましょ・・・うふふふふ・・・。それではおやすみなさいませ。」


「えっちょっ・・・なんだって?」


マキちゃんは丁寧にお辞儀をすると、止める間もなく腕時計の中に消えていった。暗い部屋を改めて静寂が包む。


「・・・なんかウォーリーみたいなこと言ってなかった?」


ひとり呟いてからベッドに横たわる。ニヤニヤしたマキちゃんが頭をチラついて、その夜はなかなか寝付けなかった。

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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