想定外
【前回までのあらすじ】
・スキャナノオロチ登場
・煙でレーザーを防いでやっつけよう
・ナナ、かわいいもんなぁ・・・
『よし、みんな、攻撃準備だ。』
準備が整った。俺とハルが一丁ずつ大型のライフルを構え、エドは身体のサイズにあった小型のライフルを構えた。そして特にマスクもゴーグルもしていないナナが、平気な顔で俺が持っているものよりさらに一回り大きいライフルを両手に一丁ずつ、二丁拳銃スタイルで構える。その後ろでは、レイのネコが気配を消して座っていた。
『ナナ、そんなに大きいライフルを2つも持って大丈夫?』
『だいじょうぶだよ、エド。ナナがまもってあげるからね。』
『ナナナナナナナナナナ。ナナナはボボボボクが守って・・・あの・・・あのアレだよ・・・』
『エド、カッコつけるならちゃんと言いなさいね。』
エドがハルに苦笑され、ナナは首をかしげている。みんながしっかりと狙いを定めたのを確認して、俺は合図を出した。
「射撃開始!」
煙が立ち込める中、異常を察知したのか、いくつかの頭を持ち上げてキョロキョロしていたスキャナノオロチ。その持ち上げた首が一つ、また一つと撃ちぬかれた。ある首は頭を撃ちぬかれて力を失い、またある首は根本がちぎれて地面に転がる。残りの頭が半分になったところで、頭のひとつがこちらを発見して首を伸ばし、口を大きく開いた。俺達に向かって赤い閃光が走る。
『レーザーがくるぞ!気をつけろ!』
俺とエド、ハルはとっさに身を隠すが、レーザーは俺たちまで届かずに空中で立ち消えた。濃いスモークのせいで拡散したのだ。作戦どおりである。レーザーを発射した頭はナナに弾丸を叩きこまれて機能を停止した。
残りの頭は3本。このまま押しきれると思った直後、スキャナノオロチは思わぬ行動に出た。8本の首の根元にある大きな身体、その身体の背面からポロポロと何かを生み出す。それはすべて、小型のナマモノだった。
『ジャーモンキー、トランシーバードッグ、ケーブルスネークにバギーボア・・・無数のクローン生物を生み出していますわ。かなりの増加速度です。』
見たことのあるものからないものまで、様々なナマモノを次々と生み出し、生まれたナマモノは群れをなして俺達の方に向かってくる。スキャンしたことがあるナマモノを片っ端から生み出しているのだろう。連射がきかない大型のライフルでは、素早く動く上に数が多い小型ナマモノの相手をするのは難しい。ハルは大型のライフルを手放し、予備として持っていた小型のプラズマサブマシンガンを乱射する。ナマモノの群れはどんどん数を増し、俺たちに迫ってきた。トラックを放置してでもクロを連れてくるべきだったと、激しい後悔が俺を襲う。
「ナナがいく!おとーさんたちは、おっきいヘビをやっつけて!」
「待て、ナナ!あぶない!」
ナナが大きくジャンプして、ナマモノの群れの直前に着地した。全身を大きく使い、ナマモノたちをなぎ倒し、蹴散らし、吹き飛ばす。ナマモノの群れはナナを突破できず、次々と倒されていく。
「ナナちゃん、すぐに終わらせるからね!もうひとつ!」
再び大型ライフルに持ち替えたハルが、またひとつスキャナノオロチの頭を吹き飛ばした。残りは2つ。急がなければ。小型のナマモノごときにナナがやられることはないと思うが、それにしたって敵の数が多すぎる。
「レイ、ナナの戦闘をサポートします。戦況のリアルタイムデータをお送りなさい。」
「はいです、マキ姉さま!」
AIのふたりも物理的に手が出ない分、全力でサポートに回ってくれている。俺もエドも必死だ。全力で引き金を引き続けると、またスキャナノオロチの頭がひとつ根本からちぎれ飛んだ。あとひとつ、あとひとつだ。
「ここはとおさないんだから!ナナちゃんパーンチ・・・ッ」
しかしナナが拳を振り下ろそうとしたその時、ピタリとその手が止まってしまう。彼女の目の前にいたのは紛れも無く生身の人間・・・ゾンビだった。
ナナはアンドロイドのため、基本的には人間を攻撃できないように作られている。AIの根幹に禁則事項として「人間への攻撃禁止」が埋め込まれているのだ。ただし例外として、「明らかな敵意を持って攻撃してくる相手」であれば、たとえ人間であろうと問題なく攻撃することができる。これはボディガード用として作られたナナのための特権である。
ゾンビは、極めて例外的な存在であった。緩慢な動き、意識があるのかないのか判然としない表情、操られているという前提知識。それらが重なり、ナナの根幹、本能にあたる部分が彼女の行動にストップをかけた。ほんの一瞬の停止。しかしギリギリの戦場において、一瞬の停止は命取りである。次の瞬間、ナナは足を、肩を噛みつかれ、それから頭上に迫る巨大な物体・・・スキャナノオロチの頭によって、地面に叩き潰された。
「ナナッ・・・うそだ!ナナ!」
「おいエド、やめろ!待て!」
気が付くとエドが持っていたライフルを投げ捨ててナマモノの群れの前に飛び出し、ナナを叩き潰したスキャナノオロチの眼前に立っていた。手を伸ばせば触れられるほどの距離。オロチの口が大きく開いて、赤く発光し始める。この距離ではいかに煙が充満していようとも、レーザーは問題なくエドの小さな身体を消滅させるだろう。だがエドは動じることなく、まっすぐに赤い光をにらみつけていた。
「ナナから離れろ・・・さもないと・・・あの・・・アレだぞ・・・ッ!」




