スキャナノオロチ
【前回までのあらすじ】
・スキャナを取りに来たよ
・ゾンビ化したウサギがいたよ
・レーザーなんて遅すぎて目を閉じてても避けられるさ
『いた・・・なんか超デカイのがいるよ、マキちゃん。』
暗くジメジメした洞窟の中を慎重に進んだ俺は、ほどなくして大きな空間を発見した。真っ暗な空間の奥に、巨大な何かが横たわっている。ナノマシンが矯正してくれる目をじっと凝らすと、長い首が何本も生えた、大きなトカゲ・・・いや、ファンタジーな言い方をするとドラゴン・・・いや、8本ぐらい首があるからヤマタノオロチか・・・の姿が、見えてきた。俺が両腕で抱えても少し余るぐらいの太さがある首を何本も生やした、全長が20メートルはありそうな巨大ナマモノだ。今は眠っているのか、すべての首を地面に横たえたまま動かない。
『これは・・・なんだろ。頭がたくさんあるトカゲ?マキちゃん、わかる?』
『サリー動物記に、酷似したナマモノの記載がありますわ。』
『サリー動物記』とは、マキちゃんがユニオンからパクってきた文書データの一つである。手書きのノートをスキャンしただけの大量の画像ファイルであるが、この世界のナマモノを広範囲にわたって調査した記録が詳細かつ大量に記録されている。著者は誰であろう、ユニオン創設者のサリー本人だった。結構かわいい丸文字で書いてあるし、「シャワーあびたい」「ビール飲みたい」「調査隊にイケメンがいなくてテンション下がる」などの記載が満載で、ユニオンを作り上げた伝説の人物である本人を知る者としては見てはいけないものを見た感じがする。
『これは・・・【スキャナノオロチ】と推測されます。』
『すきゃなのおろち?』
『はい、8本ある頭はすべてレーザー放射型対象破壊式スキャナを搭載しており、あれにスキャンされると原子レベルで分解されます。』
『ええ・・・凶悪じゃん。じゃあレーダーウサギをやったのはアイツで間違いないね。』
『はい、しかしスキャナノオロチの本当に恐ろしいところはそこではありません。スキャンして破壊した対象のデータを改変して、まったく同じ姿のゾンビを生み出すのです。』
『ゾンビ?産む?』
『サリー動物記にはそう記載されていますが、正確ではありませんわね。先ほどレーダーウサギを見てわかったように、種子のような器官を埋め込んだ対象のクローンを生成するようです。そのクローンをゾンビと呼んでいるのですわ。』
『あの黒い器官ね。いきなり触手が生えてきてビビったけど。』
『あの器官でクローンを操り、仲間をここまで連れてこさせて捕食するようですね。クローンそのものを種子として、子孫を増やすこともできると考えられますわ。』
『操るとか怖いな。・・・生身の人間も操られるのかな?』
『記録によれば、生身の人間のクローンはうめき声を上げてフラつきながら襲ってくるようになるそうですわ。サリー氏の調査隊もかなりの隊員がゾンビに変えられ、スキャナノオロチの討伐は不可能と判断して放置したと記録にあります。』
『なにそれこわい。レーダーウサギはゾンビ化してもちゃんと歩いてたのに。』
『ナマモノと生身の人間では、操るにしても勝手が違うのでしょう。いずれにしても大変危険な相手ですわ。いかがしましょう?』
一番いいのはマキちゃんにハッキングして無力化してもらうことだが、残念ながらスキャナノオロチのコネクタの位置は不明だ。やるとしたら自力で調べるしかないが・・・あれに接近するのはかなりヤバい。安全にスキャナノオロチを狩る方法を考えていると、俺達の会話を聞いていたエドから通信が入った。
『師匠、先生。ボクのリュックにいくつか薬品が入ってますけど、これを使えばこの洞窟をいっぱいにできるほどの煙が出せますよ!』
『煙・・・おお、なるほど。濃いスモークの中ではレーザー放射型のスキャナは使えないってことか。』
『それに、今日は実弾系の大型ライフルをいくつか持ってきてます。煙幕で相手のスキャナ攻撃を防ぎつつ、遠距離から大型ライフルで攻撃するのはどうでしょうか?』
『よし、それでいこう!』
『ご主人様、今日はエド様へのおんぶに抱っこっぷりが半端じゃないですわ。』
『ええ・・・だって、俺の弟子頼れるし・・・。』
俺は一度洞窟を戻ってエドから2種類の薬品が入ったビンを受け取る。本来は塗装を剥がしたり金属の種類を確認するために使う試薬らしいが(俺はよく知らない。エドは何でも知っててスゴイ。7歳なのに)、混ぜあわせると尋常じゃない量の煙が出せるんだそうだ。すぐにスキャナノオロチがいる広間の前に戻り、薬品を地面にぶちまけた。すぐにモクモクと煙が発生し、ただでさえ暗くて見えにくい視界がほとんどゼロになる。
『・・・これ、こっちからも攻撃できなくない?っていうか、ものすごく煙いんですけど。せきこむのを必死に我慢してるんですけど。』
『ご主人様、皆様がいらっしゃいましたわ。』
完全に視界がゼロになったころ、突然俺の手に何かが渡された。どうやら暗視ゴーグルの類らしいので、手探りでなんとか装着すると、煙の世界が一転、クリアな視界が広がった。
『師匠、ゴーグルの調子はどうですか?』
エドが小声で話しかけてきた。
『おお・・・よく見える。すごいな、コレ。』
本当にクリアに見える。どれくらいクリアかというと、エドとハルが俺と同じゴーグルを付け、さらに大きめのフィルタが装着されたガスマスクをつけているのまで見える。あれ、このゴーグルもマスクも、最初から俺に渡してくれれば良くない?っていうかマスク、俺の分がなくない?
『師匠、本当にマスクなしでも平気なんですね・・・マキ先生の言うとおりでした。すごいです!』
『ま、まぁな・・・(ものすごく喉がイガイガするけどな)。』
『なぜかナナはマスクもゴーグルもいらないって言うんですけど・・・』
『ああ・・・美少女だからかな。』
『そ、そうなんですか。ナナ、かわいいもんなぁ・・・。』
『(なんで納得してんだお前)』




