レーザー破壊式原子スキャナ
「それで・・・スマートニャンをどうやって量産するかが課題だ。」
レイ再生し、ネコに入れてから数日。
荒野に放ったレーダーウサギ部隊だが、何度も野盗や野生のナマモノを見つけた以外はこれといった発見ができずにいた。レイもずいぶん集計データの操作に慣れたらしく、今ではほとんどの作業を自動化して、普段はマキちゃんを追いかけ回して過ごしている。今も俺の横でホログラムのマキちゃんにレイがべったりと抱きついていた。
「マキ姉さま〜!今日もお美しいです〜!」
「ありがとう、レイ。でもいい加減少し離れてくれないと別の領域に隔離しますわよ。」
「いや〜ん!つれないお姉さま〜!そこがなんだかゾクゾクするです〜!」
そんなレイを見て俺もエドもかなりゲンナリしていたが、一番ゲンナリしていたのばマキちゃん本人だろう。ちなみに部屋を覗きに来たウォーリーが「オウ・・・これがYURIの世界・・・ナァルホド・・・」と興味深そうにつぶやいていた。
さて、エドに作ってもらったスマートニャンのプロトタイプ、つまりレイのボディ・・・ボディというかネコだが・・・は非常に快調だ。ホログラムも鮮明に表示できるし、動作に支障も見られない。スマートニャンのハードウェアとしては全く問題ないと考えていいだろう。次の課題は「どうやってこれを量産するか」である。
電話ネコはプラズマライフルの木で無尽蔵に生成できるが、スマートニャンはそうはいかないのだ。
というのも、プラズマライフルの木で生成できるのは、プラズマライフルの木に最初からデータとして存在している物品だけだからである。現在のスマートニャンは、生成した電話ネコを手作業で改造している。しかも改造には、入手が難しいサイボーグのパーツを使っている。スマートニャンも、その改造に使う部品もプラズマライフルの木では生成できない。どうにかして量産する方法を考える必要があるのだ。
「エドは何かいいアイディアある?」
「うーん・・・そうですね。入手しやすいパーツで同じ機能が実現できるか試してみましょうか・・・。でも、うーん・・・。」
頼れる弟子(7歳)でも解決策が思いつかないのであれば、これは難問だ。俺の弟子、俺よりすごいし。あ、そういえば、ずっと前から試そうと思ってたことがある。
「ねぇマキちゃん。」
「はい、なんでしょうかご主人様・・・ちょっ、ちょっとレイ、離れなさい。」
「ふへへ〜おねえさまいいにおい〜」
「AIに匂いなんてしないでしょう。とりあえず隔離させていただきますわね。」
「ああマキ姉さま・・・隔離なんてそんな興奮オフゥ」
レイのホログラムが消滅し、マキちゃんが乱れた衣服を整える。珍しく頭を抑えて大きなため息を吐いていた。
「えっとさ・・・プラズマライフルの木にデータをアップロードして、好きなものを生成させることはできないかな?」
「私もその可能性を検討しておりました。結論から言えば、可能ではあります。ただし、現状では難しいと言わざるを得ません。」
「どういうこと?」
マキちゃんが手をかざすと、彼女の隣にプラズマライフルの映像が浮かんだ。
「これはプラズマライフルの木にもともと保存されているデータのひとつですが、非常に膨大で精密なのです。原子ひとつひとつというレベルで全てデータ化されているのですわ。」
「それはスゴイな・・・。あり得ないぐらい精密だね?」
「その通りですわ。一般的に物体を自動生成する装置でも、ここまで精度の高いデータを求めるものはございません。しかし、プラズマライフルの木においてはこの精度のデータが必要になるのです。」
「え、そうなの?っていうか、プラズマライフルの木ってどうやって武器とか兵器を作ってるの?」
あまりにも当たり前に使いすぎて気にしたことがなかったが、そもそも生きた木が金属製の高度な武器を実らせてる時点でおかしいのだ。一体どういう仕組みなんだ。しかしなんでも知っていると思っていたマキちゃんは、俺の質問に対して首を横に振った。
「・・・わかりません。外部から操作は可能ですが、どのようなテクノロジーで物体を生成しているのか、その仕組みはまったくの謎です。おそらくはナノテクノロジーの一種だと思いますが・・・。」
「マジすか。」
ハルが聞いていたら、「これが自然の力だよ」と全力でドヤ顔しただろう。マキちゃんでも解析不能のテクノロジー。テクノロジーっていうか、自然の力か。驚く俺をよそに、マキちゃんが説明を続ける。
「仕組みが分からないため、こちらも精度の高いデータを用意する必要がございます。しかしこの精度のデータを作るには、生成したい物体を用意した上で特殊な方法でスキャンし、原子レベルでデータ化しなければなりません。」
「そんなスキャナ・・・あんの?」
「ございません。少なくとも知る限りでは。」
うーん、スキャナか。何か手がかりがあれば・・・と考えていると、部屋の入口が開いてネコが入ってきた。レイだ。マキちゃんの電子的隔離から抜けだして物理的に接触しにきたらしい。するとネコ・・・というかレイ・・・が口を開いた。
「あの・・・スキャナ、心当たり、あるです。」
皆が一斉にネコのレイを見た。プレッシャーを感じたのか、ネコはドアの外に引っ込んだ。
「レイ、こちらにおいでなさい・・・もう隔離したりしませんから。」
するとものすごい勢いでネコがエドに体当たりをかまし、ホログラムのマキちゃんに人間姿のレイが体当たりをかました。エドとマキちゃんが同時にひっくり返った。
「マキねえさま〜いいにおいです〜!」
「だから、匂いなんてしないでしょう・・・いいからその心当たりというのを話してくださいな。」
マキちゃんが身体を起こしてレイの頭を撫でる。いつも完璧にセットされているマキちゃんの髪が乱れていてちょっと新鮮だ。レイはとろけそうな表情で続きを話した。
「えっと、レーダーウサギたちが町から50キロの地点に洞窟を発見したです。」
「洞窟?」
「はい。洞窟の中はレーダーの探査が届かないので、レーダーウサギが中に入って調査したです。町から50キロしか離れてないですから、なにか隠れていたら危険です。・・・あ、マキ姉さま、撫でるのやめちゃイヤです。」
「はいはい。」
「それから?」
「レーダーウサギ、死んだです。その後、3体追加で入りましたけどみんな死んだです。」
「えっ。なにこれ怖い話?怪談とか苦手なんだけど・・・。」
「死ぬ直前のレーダーウサギ、みんな頭から尻尾まで順に、高エネルギーの探査波を浴びてます。これは物体を破壊して検査する【レーザー破壊式原子スキャナ】の特徴に酷似しているです。」
「ウサギたちは何かにスキャンされたせいで死んだと・・・いうこと?」
レイはグリグリとマキちゃんの胸に頭を押し付けてから「そです」と答えた。なるほど、それはかなり有力な情報だが・・・。
「ご主人様、確かに求めるスキャナが手に入りそうですが、かなりの危険が予想されます。レーダーウサギは戦闘能力は低いですが、危機回避能力は決して低くありません。それが4体も連続で破壊されたとなれば・・・」
「確かにそうだね。うーん・・・しかし・・・。」
もしスキャナが手に入れば、あらゆる物体をプラズマライフルの木で無限に増やせるようになる、ということである。これはネッコワークの普及にとてつもない威力を発揮するはずだ。
「よし、行こう。その洞窟に。」
「はぁ・・・そうおっしゃると思いました。ご主人様はご自身の欲望のためなら、どんな危険も無視して前進される方ですもの。」
呆れたようにため息をつくマキちゃんに、しかし俺は突っ込まずにはいられなかった。
「それ、マキちゃんが言う!?」




