レイ再生される
【前回までのあらすじ】
・友情パワーでレイを撃破
「にーさん、あったよ。たぶんこれじゃない?」
ハルがボロ雑巾のような何かを掴んで俺のところに持ってきた。そのボロボロの物体は元々の原型をまったく留めていないが、確かによく見ると俺の探していたアンドロイドの中枢ユニットのように見える。
「おお、きっとこれだ。ありがとう。」
「ううん、でもそれ・・・使えるの?」
「マキちゃんも最初は似たようなものだったから、いけるんじゃないかと思うんだけど。」
「ええ・・・そうなの?」
レイを撃破した後、町の人たちは俺たちが破壊した重機の残骸を回収をしたり、進路を変えた重機たちを追いかけてさらに狩りを続けようと楽しそうに走っていった。ネッコワークを利用して付近にいた人たち(当然だが、町の人はみんなネコを連れている。電話普及率はほぼ100%だ)にお礼を一斉送信したら、「町の人間が町の人間を助けるのは当たり前だろ」「いちいち礼なんかいらねぇ」「ネコかわいい」という声が次々と返ってきた。本当に良い町だと思う。ウォーリーの言う友情パワーというのもまんざら嘘ではない。
レイの残骸はもうほとんど原型を留めていなかったが、どうにかAIが格納されている中枢ユニットの回収に成功した。といっても全くの無傷というわけではないので、完全なAIのデータが回収できるかどうかはやってみないとわからない。
「コイツは第13機密兵器研究所ってところから指令を受けてきたって言ってた。ということは・・・」
「そこを発見すれば、私のボディが手に入る可能性が高い、ということですね。」
俺の言葉にマキちゃんが割って入る。
「違うよ・・・いや、そうなんだけど・・・。また同じようなアンドロイドに襲われたら大変じゃん。情報を少しでも集めておかないと・・・。」
「それにしても今回のボディは惜しかったですわ。ほとんど私の理想に近い形状でしたもの。せめて修復可能なレベルで機能停止させられればよかったのですけど。」
「友情パワーが強すぎて木っ端微塵デス!今のは『デス』と『DEATH』をかけた洒落でございまシテ・・・」
「ゆうじょうパワー、すごい!」
ウォーリーとナナが楽しげに話に加わる。ナナは両手の人工皮膚が損傷したので、肘から先を包帯でグルグル巻きにしていて痛々しい。それを見たエドが泣きそうな顔でナナに駆け寄った。
「ナナ、ナナ!怪我したの⁉︎ああ、かわいそうに・・・痛くない?」
「いたいけど、(痛覚信号を遮断できるから)へーきだよ。エドはしんぱいしなくてだいじょうぶ。あと3655びょうでなおるし。」
「・・・やたら正確な上に治るの早いね⁉︎」
そこへランスさんとガイが並んで歩いてくる。
「なかなかの狙撃だったな、ガイ。その若さで大したモンだと思うぜ。」
「オレが1発命中させる間に、ランスさんとハルさんが5発ずつぶち込んでましたけどね・・・。」
「がっはっは!銃職人とその娘だからな!がっはっは!」
いつの間にかみんな集まってワイワイしている。それにしてもナナが直接対決して勝てない相手って、俺にはかなり衝撃だったんだけど・・・俺以外に気にしている人はいないらしい。なんなのみんな、戦闘民族か何かなの?
「ご主人様はチキりすぎですわ。友情パワーでどんな敵でもイチコロですもの。」
「マキちゃんまで何を言ってんの・・・。あ、ボディが手に入る可能性が出てきたから機嫌がいいのか。」
「うふふふふ・・・早く帰ってレイの残骸からAIを回収しましょう・・・うふふふ・・・。」
そんなわけで俺たちは重機狩りを切り上げて町に戻り、またそれぞれの日常に戻っていく。俺は自分の部屋で、改造中のネコが乗ったテーブルに向かっている。これは現行の「電話ネコ」をスマートフォン・・・いや、「スマートニャン」に改造する実験中のものである。俺がユニオンに行く前は、ホログラム投影デバイスをうまく組み込めないという技術的な課題が解決できずに詰まっていたところだった。頭部を分解してバラバラのまま放置していたはずだが、今はしっかり組み立てられている。
「ホログラムの課題は、とりあえずサイボーグの残骸から精度の高い投影デバイスと小型ジェネレーターが手に入ったので換装したら解決しました。とりあえずですけど。」
エドがメガネをクイっと持ち上げながら説明してくれる。俺がユニオンでグズグズしている間に、1人でここまでやってしまったらしい。俺の弟子すごいな。師匠って呼びたいぐらいだ。
「すごいな、エド!」
「エド様、素晴らしい成果を出されましたね。ご主人様にも見習ってほしいですわ。」
俺たちに褒められ、頭をクシャクシャ撫でられたエドが、顔を耳まで赤くして照れていた。かわいい弟子。
「しかしこんなに作業を進めるなんて・・・楽しいからって、俺がいない間こればっかりやってたんじゃないだろうな?ちゃんと睡眠と運動したか?」
「ご主人様、心配ありませんわ。午後はほぼ毎日、ナナと遊びに出かけていたようです。2人っきりで・・・ふふふ。」
「いやいやいやいやいやせせせせせせ先生、ちがくてちがくてちがくてですね・・・」
いっそう顔を真っ赤にして否定する弟子。かわいいけど娘はやらんぞ。
さて、まずはレイの中枢ユニットからAIデータを回収する作業だ。回収したボロボロのユニットからデータを取り出したら、それを入れるための入れ物が必要である。俺は事前にハルから預かっていた箱を取り出し、蓋を開ける。中には割った板チョコのような、黒くて四角い小さな板がびっしりと並んでいる。これは前にモノリス遺跡を発掘した際に手に入れた大量のAIチップである。売れば大金になるものだが、お金は余っているのでそのまま取っておいたのだ。こんなに早く活用できる日がくるとは。
「なるほど、AIチップを増設して、ネコの性能をアップ・・・高度なAIが搭載できる器にするわけですね。」
察しのいいエドが、静電気防止機能が付いた電子工作用の手袋を付けながら言った。
「そういうこと。幸いにもネコをバラしたら空きスロットが3つもあったから、ガッツリ増設しよう。」
「これで処理性能も記憶容量も格段にアップしますね。こんなに贅沢に新品のAIチップを使えるなんて夢みたいです・・・!」
AIチップの増設作業は比較的簡単だし、そもそもエドのほうが俺より上手だし、おまけにやってみたそうにウズウズしていたので任せることにする。俺はほとんどゴミクズみたいなレイの中枢ユニットにデータサルベージ用の針のようなコネクタを何本か突き刺し、愛用の小型端末に接続する。暇なときに組んでおいた、いくつかのお手製サルベージプログラムを実行して、中枢ユニットを壊さないように優しく優しく状態を調べていく。
「オーケーベイビー・・・カモンカモン・・・ビンゴ!」
「ご主人様、暇だからといって映画に出てくるハッカーのマネはよしてくださいな。」
プログラムの結果が返ってくると、かなり深刻な状態であることがわかった。データの損傷が激しく、このままではAIとして機能しない。AIの記憶データを巻き込むように壊れているので、単純な情報だけを回収するのも難しいようだった。
「これは、無理かな・・・。」
「いいえご主人様。人格データを復旧しましょう。人格データが復旧すれば、人間の脳と同じように芋づる式に記憶が復旧する可能性がありますわ。」
「・・・どうやって?」
「私とウォーリー、それからナナの人格データからサンプルを抽出します。そしてレイの人格データの破損部分と置き換えるのです。」
「ええ・・・それってほとんどレイを作り直す感じ?」
「生まれ変わらせる、と言って欲しいですわね。私たちの姉妹になるのです。」
マキちゃんがやたら積極的だ。たぶんレイの記憶にボディの入手が絡んでいるせいだろう。たぶんっていうか絶対そうだ。
その後、マキちゃんが行う作業としては前例がないほど長い12時間という時間をかけ、レイの再生作業が行われた。AIに関しては俺が手伝えることがないので、俺はただ椅子に座ってぼーっとしていただけである。夜になりエドを寝かすと話し相手もなく、マキちゃんに話しかけたら無言で「邪魔するな」という視線を送られたのでとにかく座って待った。深夜にウォーリーがちらりとドアの隙間からこちらをのぞいて、「放置プレイ・・・フゥームナルホド」と言い残していなくなった。おい待て、暇なら話し相手になってくれ。おーい。
「お待たせいたしました。ご主人様、レイの再生が完了しましたわ。」
マキちゃんがそう言ったのは、すっかり夜が明けて、朝の光が差し込む時間になってからだった。メガネが半分ずり落ちた状態のエドが起きてきて、「おふぁようございます」と寝ぼけたあいさつをした。
「レイのマスターをご主人様に書き換え済み。記憶データは今の所破損がひどいため、特に手を入れていません。AIを起動してから様子を見ましょう。」
「よし、やってくれ。」
「AI起動シーケンスを開始します。」
マキちゃんが言うと、ネコがピクリと反応した。座った姿勢から動かないが、さっきまでと異なりどことなく命が宿ったような、生きているような感じがする。ほどなくネコの目がカッと開き、その前に女性のホログラムが表示された。
「おはようございます・・・レイは誰?ここはどこ?」
レイのホログラムは目を開けると、キョロキョロと辺りを見回している。その様子からは、明らかに記憶が失われていることが見て取れた。俺はなるべく優しい声でレイに話しかけてみる。
「やあレイ、おはよう。わかってると思うけど君はレイ。俺は君の主人だよ。」
「はじめまして、ご主人さま。あの、あの、レイはなぜボディがないですか?ここはどこですか?」
「ここは俺の家、でもって今日から君の家だよ。ボディが壊れたから、とりあえずネコの中に入ってもらってるんだ。」
レイはアンドロイドの時より髪が短く、肩ぐらいまでしかない。そのせいか幼く見える・・・ん、これ違うな。もっと他に原因があるぞ。
「あの、ご主人さま・・・なんだか、ホログラムのボディに違和感があるです。なぜでしょう。」
「ああ・・・えっと・・・。」
明らかに、胸が小さくなってる。アンドロイドの時はかなりの大きさ・・・マキちゃんより大きいぐらいだったのに。こんなデザインの変更ができる犯人は1人しかいない。
「・・・マキちゃんさん?」
マキちゃんはぷいっと俺から顔を背けた。やりやがった。やりやがったぞこのメイド。自分より小さいサイズに改造しやがった。胸泥棒だ。
「レイは、なにかあるべきものがなくなったような喪失感を感じるです・・・なぜですか?」
正直に言ったら、AIでもショックを受けるものだろうか?それともホログラムだから簡単に直るのか?俺が返答に詰まっていると、突然部屋のドアが開いてウォーリーが入ってきた。
「ワォ!かわいい新入りさんデス!・・・なんと!大きなおっぱいはどこに置いてきたのデスか⁉︎」




