レイあらわる
【前回までのあらすじ】
・重機の群れに町が潰されちゃう!
・何台かをハッキングして進路を変えよう
・あっあっ
「今ので5台です。ハッキングした重機の進路変更を開始します。」
俺とナナ、それからマキちゃんは順調に重機の車体から車体へ飛び移り、次々とハッキングしていった。充分な台数がハッキングできたし、俺の下半身は暖かな液体でしっとりと濡れている。
「じゃあ、おりよーね!いくよおとーさん!」
ナナが俺を担いだまま重機を飛び降り、そのまま地面を走っていく。重機は時速30〜40キロで走っているが、ナナは俺を軽々と持ち上げたままそれ以上の速度で走る。すると間もなく、俺たちがハッキングした5台の重機が大きく進路を変え始めた。
「誘導を開始しています。ウォーリー、クロ、進路を変えない不届きな重機がいたら排除なさい。」
重機の多くは俺たちの狙い通り進路を曲げていくが、数台の重機が進路を維持して直進してきた。まるで俺とナナを追いかけるように数台の巨大なダンプカーとコンクリートミキサー車が背後に迫る。ナナに担がれたまま前を見ると、はるか先の方に乗ってきたトラックと、その荷台に乗って大きな銃を構えるウォーリー、その足元で楽しそうにシッポを振るクロが見えた。ウォーリーが手にしているのは愛用のレールガン【ハリケーン】。強力なパワーと引き換えに大量の電力を必要とする使いどころの難しい武器だが、今はその【ハリケーン】から数本のケーブルがトラックのエンジンに伸びている。トラックのエンジンから電力を供給することにより、ある程度の連射が可能になるのだ。
「我のおちんちんとレールガンは大きいですヨ・・・。」
俺達の頭上を極超音速の弾丸が衝撃波とともに通過し、背後のダンプカーをミニカーのように吹き飛ばした。見事な破壊力を誇るレールガンだが、あまり経済的とは言えない。たった1発撃たれただけのダンプカーが、回収しても鉄くず程度の使い道しかないほどにボロボロになってしまうからだ。
続いて俺達の頭上を、緑色のプラズマ弾が横殴りの雨のように飛んで行き、コンクリートミキサー車に片っ端から命中していく。いつものように凶悪な、クロのプラズママシンガンだ。撃たれた数台のコンクリートミキサー車は横転したり、コントロールを失って横滑りしたところで他の車と衝突し、次々とクラッシュする。
頭の上を次々とプラズマ弾とレールガンが過ぎ去っていく。ナナがウォーリーたちのいるトラックの前で立ち止まり、振り返った時には直進している重機は1台もなかった。生きている重機たちは狙い通りに方向を変え、土煙を上げて走っていく。重機の群れに町を踏み潰される事態は避けられたようだ。
「ふぅ・・・これで一安心かな?」
俺が長い息を吐くと、ナナが俺の袖を引っ張った。
「どうした?」
「あのね、ランちゃんからでんわ。」
ナナは身体に通信機能が内蔵されているので、ネコを使わなくても自由に電話ができる。ランスさんたち狙撃のために高台にいるので、シロを使ってナナに電話をかけてきたようだ。ナナが口を開くと、ランスさんの声とナナの声が交互に発せられる。腹話術でも見ている気分だ。
「聞こえるか、ナナ。
きこえるよ、ランちゃん。みんなにきこえるようにしてるよ。
おう、そうか。じゃあこのまま話すぞ。
いいよ。みんなきいてる。
治安維持部隊の斥候から連絡があった。重機の群れを追い立てているヤツの正体が分かったそうだ・・・いや、違うな。何かはよくわからんのだが、彼らが言うには追い立てているのは『精霊』だそうだ・・・。」
「精霊?マキちゃんみたいな?」
マキちゃん以外にもAIがいるってことか?いや、AIは物理的に重機を襲うことなんてできないから、AIではないけど精霊っぽい何かなんだろうが・・・。
その時、走っている重機の群れの最後尾で爆発が起きた。ショベルカーの残骸が空高く飛び上がり、回転しながら落ちてくる。突然の事態に驚いて固まっていると、爆発で起きた煙の中から強い光・・・光としか形容できない何かが飛び出し、高速でこちらに向かって飛んで来る。これは・・・一体なんだ?
「UFOデス!初めて見まシタ!めっちゃテンション上がりますネ!」
なぜかウォーリーが喜んでいる。光は俺たちのすぐ近く、地面から10メートルほどの高度で止まった。
「ご主人様、謎の光から未知の信号が発信されています・・・解読不能です。」
皆どうしていいか分からず、しばらくそうして光を見ていた。すると光は徐々に収束していき、そこに現れたのは1人の人間・・・女性だった。
ぴったりとした白いボディスーツでスタイル抜群の身体を包み、顔は神秘的な・・・どことなくマキちゃんに似た雰囲気の整った顔立ち。白い肌に赤い瞳が浮かび、長い髪が生きているようにゆっくりと揺れている。なにより、何の音も風も出さず、静かに空中に浮いているのが不思議だった。なるほど精霊である。
「ワォ!すごい美人がピチピチのボディスーツを着て登場デス!最高画質での映像記録を開始しマス!」
誰も言葉を発せずに立ち尽くす中、ウォーリーの歓喜の叫びが荒野に響く。すると精霊はそっと手を開き、無造作にこちらに向けた。
「みんな、にげて!」
ナナが叫ぶと同時に、激しい爆風があたりを吹き飛ばす。トラックが横転し、乗っていたウォーリーとクロごとおもちゃのように転がっていった。いつの間にかナナが俺の前で両腕を広げ、プラズマ防壁を展開している。おかげで俺は無傷である。マキちゃんが出現し、精霊を睨みつけた。
「ご主人様、これは防御に特化したナナと対極の存在、攻撃に特化した高度な戦闘用アンドロイドです!」
「なんだって!?それってかなりヤバくない?」
「現在の優勢指数45%。少なくとも全員無事に帰ることは難しいレベルの敵です。とにかく逃げることを第一に考えましょう。」
その時、初めて精霊が口を開いた。
「逃がさない。」
感情のこもらない言葉。そのあまりの冷たさに、全身から冷たい汗が吹き出すのが分かった。『精霊』はニヤリと笑い、続けて言葉を発する。
「重機の群れでプラズマ燃料を補給していたら、思わぬ収穫だ。さあ、レイと闘い、糧になれ。」
レイと名乗ったアンドロイドは、再び光そのものとなった。これは全身から強力なプラズマパルスを放射しているのか?ナナも同じように身体の各所からプラズマパルスを放射しているが、パッと見でわかるほどケタ違いに出力が高い。もし見た目通りのパワーを持っているとすれば、こちらが使えるどんな攻撃も通用しないし、あちらが触れたものは全て破壊されるだろう。しかも見る限り、相手は自由に空を飛べるようだ。逃げ場もない。
次の瞬間、光の塊・・・レイが目の前から消えた。と同時に、ナナが飛び出して光の塊を受け止めている。とても人間の目では追えない速度の攻防。ナナも手からプラズマを放射し、高密度なエネルギーの衝突が土の地面を溶かしている。
「おとーさん・・・っ!にげて・・・っ!」
ナナの口から悲痛な声が漏れた。ボディガード用に作られたうちの子。普段は子どものようなナナだが、こと戦闘においては冷静な状況判断ができるように高度な戦闘用アルゴリズムが搭載されている。そのナナが逃げろと言っているのは・・・相当にヤバい。ナナが真っ当に戦って勝てない可能性が高いということだ。今まで出会った中で最強レベルの敵である。
ナナに敵を抑えてもらい、その間に逃げる。それがベストで唯一の選択肢なんだと頭では理解できた。理解はできたが、俺の足は動かない。そんな俺を察して、マキちゃんが声を出す。
「ご主人様、ここにいてはナナの邪魔にしかなりません。お気持ちは分かりますがお逃げください。」
「うう・・・うん・・・いや・・・」
俺がマゴマゴしていると、レイはナナに弾かれて距離をとった。光が薄くなり、また人の姿が現れる。
「良い・・・いいぞ、お前。さぁ、闘いを続けよう。来い!」
「わるいやつ!ナナがやっつけちゃうんだから!」
ナナ。俺にできることは本当に何もないのか?仮にも父親を名乗る人間が、ここで娘を置いて逃げるのか?よく見るとナナの両手は人工皮膚が剥がれ、人工筋肉が露出している。明らかにレイの攻撃力がナナの防御力を上回っているのだ。
このままではナナは死ぬ。殺されてしまう。俺はどうしたらいい?
その時、突然ものすごい衝撃波が発生して吹き飛ばされた。しかも1度ではない、数発の衝撃波がレイを中心に巻き起こり、そのたびに俺は吹き飛ばされた。
ゴロゴロと転がり、何かにぶつかって止まる。頭を上げると、そこには煙を吐くレールガン【ハリケーン】を片手で構えた大男が立っていた。
・・・ウォーリーだ。
彼は油断なく【ハリケーン】を構えたまま、真っ赤なアイカメラで射抜くように敵を見て・・・そして、言った。
「ピチピチスーツを最高画質で撮影にきまシタ。」




