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重機狩り

「アニキ、重機狩りにいきませんか?」


久々にガイがやってきたと思ったら、開口一番そう言った。ちなみに俺が首都に行っている間ガイは遊んでいたわけではなく、襲撃者を警戒して家を出れなかったハルと電話でやりとりしながら、ネコの店の副店長としてがんばっていたそうだ。ガイにはいつも地味にお世話になっているので、そのうち菓子折りでも持って行かないといけない気がする。


「重機狩りってなに?」


「重機狩りは重機狩りですよ。何メートルもある野生の大型重機を狩るんです。」


なんだかよくわからないレジャーがきたぞ。物騒な響きだけど安全なのか?


「なんか危なそうな遊びだなぁ・・・。どっか遠くまで狩りに行くの?」


「いえ、それがなんと、大きな重機の群れが町の近くまで来てるそうなんですよ。こんなことはめったにないんで、今から腕の立つ人間が集まって狩りに行くんです。アニキも行きましょう!絶対楽しいですよ!」


「俺、腕が立たない人間なんだけど・・・。」


ガイにゴリ押しされ、俺たちはいつものトラックで町を出た。運転手はウォーリー、助手席にガイ。荷台にはハル、ランスさんにナナとエド、それからシロとクロのケモノコンビ、最後に俺。マキちゃんは言うまでもなく俺と一緒なので、要するにフルメンバー、トラックの荷台がいっぱいである。ランスさんはナナとエドに両サイドを挟まれてご満悦のご様子だ。


「おじいちゃん、その銃大きいね。」


「おうエド、ちょっと持ってみるか?ほらよ。」


「うん・・・おぁぁぁっ!つぶれる!潰れるよこれ!」


「がっはっはっ!男は筋肉だ!筋肉をつけろよ!」


いつの間にかランスさんを「おじいちゃん」と呼ぶようになったエドが巨大な狙撃銃の下敷きになっていると、それを見ていたナナが片手で軽々とその銃を持ち上げてみせた。


「ランちゃん、これかっこいい!こんどナナにもつくって!」


「がっはっは!ナナにはもっとデカイ銃が必要だな!任せろ!」


「わーい!やくそくだよー!」


「ちょっととーさん!ナナには銃よりももっとフリフリした洋服とかカワイイ靴のほうがいいわよ!」


「ハルおねーちゃん、それもほしいー!」


「でしょー⁉︎」


ナナに飛びつかれてデレデレするハル、それを片目で見ながら犬のクロがのんびりと寝そべり、そんなクロの頭の上でネコのシロが昼寝している。まるでピクニックにでも出かけている感覚である。


荒野を走るトラックは俺たちだけでなく、見渡すと何台ものトラックやジープが同じ方向に走っていく。荷台の人たちはみんな楽しそうで、これは要するに一種のお祭りみたいなものだと理解した。


「皆サマ、そろそろ重機の群れが見えて参りまシタ。ご準備くだサイ。」


運転席のウォーリー(マキちゃんに3時間ほど土下座した結果、去勢は免れた)が荷台に呼びかけると、クロがシロを頭に乗せたまま立ち上がり、はるか前方を見ながらシッポをぶんぶん振り始めた。狩りの始まりに興奮しているらしい。ウォーリーがトラックを停車させると、一緒に走っていた他の車も次々と停車して人々が降りてきた。はるか地平の彼方で大きな土煙が上がり、銃声や爆発音が小さく聞こえてくる。すでに狩りを始めている人たちもいるようだ。それぞれ持ってきた銃や爆弾の準備をしていると、見覚えのある金髪の美人が部下らしき人を引き連れてランスさんのところに駆け寄ってきた。あの人は確か治安維持部隊の・・・誰だっけ。


「ランスさん、少々よろしいでしょうか?」


「ん、エリスさんか。なにかあったか?」


そうそう、エリスさんだ。ランスさんにホの字の。


『エリス氏の脈拍及び体温が上昇していることをご報告させて頂きますわ・・・ふふふ。』


『ふふふ・・・そんなこと言っちゃあ野暮だよマキちゃん・・・ふふふ。』


ニヤニヤしながら観察している俺たちのことを知ってか知らずか、エリスさんは深刻な表情で話を続ける。


「今回の重機の群れですが、通常のエサ場を求めての移動とは事情が異なります。」


「・・・どういうことだい?」


「どうやら何かに追い立てられて逃げてきたようです。」


「追い立てられる・・・だと?大型重機の群れが逃げるなんて、普通じゃないぜ?正体は分かっているのかい?」


エリスさんは黙って首を横に降る。綺麗な金髪が太陽の光でキラキラと輝いているが、対比するようにエリスさんの表情はとても暗かった。


「現在、斥候部隊が群れの最後尾に向かっていますが、今回の群れは50台を越す巨大なもののため列が長く、なかなか追い立てているモノにたどり着きません。」


「50台の大型重機の群れが逃げ出すなんて、相当な化物だぜ。そいつの正体がなんにせよ、このまま群れの進路が変わらないと町に被害が出る可能性が高いな。」


「その通りです・・・。ランスさん、ネコ使い氏には前回の洪水のように、ご協力頂きたく・・・。」


エリスさんは深々と俺達に向かって頭を下げた。ちょっと待て、ネコ使い氏って俺のことか。いつの間にそんな異名がついたんだ・・・?


「我々の力が足りないばかりに・・・いつも頼ってしまって、申し訳なく・・・」


エリスさんが心底申し訳なさそうに頭を下げたまま話すので、俺の呼び方を訂正するタイミングを逃した。このままだと俺の呼び方が「ネコ使い氏」とかいうわけわからんヤツで定着してしまう。するとランスさんがそっとエリスさんに近づき、彼女の肩に力強く手を置いた。


「顔を上げてくれ、エリスさん。アンタたちがいつも命をかけて町を守ってくれているのは良く知ってる。もっと自分たちの仕事を誇ってくれていいと思うぜ。それに、町の人間が自分たちの町を守るために力を貸すのは当たり前のことだろ?」


エリスさんは顔をあげて、ランスさんの目をしっかりと見た。その瞳はうっすらと潤んでいるが、先ほどまではなかった力に満ちているように感じた。ランスさんの言葉は彼女の心にしっかり届いたようだ。俺はもう完全に呼び方を訂正してもらうのを諦めた。俺は空気が読める子なのだ。はーいみんな、ネコ使い氏だよこんにちは!。それにしてもただのレジャーが町の存亡の危機になってしまった。この町、存亡の危機多くない?


「それじゃあ、どうするッスか?重機を狩るのをやめて、その『化物』だけをみんなで攻撃するとか?」


話を聞いていたガイが言う。すると突然、マキちゃんが皆の中心に出現した。


「皆様、突然失礼いたします。ネコ使いに仕えている『精霊』のマキと申します。」


マキちゃんの出現に、エリスさんや近くにいた治安維持部隊の隊員さんたちが驚愕する。俺はマキちゃんの「ネコ使い」呼ばわりに驚愕する。マキちゃんさんは訂正してくれてもよくないですか?


「現在群れを追い立てているものの正体がなんであれ、このままその『化物』のみを討伐しても町は危険にさらされます。89%の確率で重機の群れは停止も進路変更もせず、町を踏み潰していくと予想されますわ。」


「そんな!じゃあ精霊様、あたしたちはどうしたらいいですか?いくらなんでも50台もいる重機を全部狩るなんてできるわけないし・・・。」


マキちゃんの出現で言葉を失っているエリスさんに代わってハルが質問すると、マキちゃんはニッコリと笑って言った。


「ご安心ください。我が主人、ネコ使いに素晴らしい作戦がございますわ。」


え?ないよ?

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