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完全勝利

【前回までのあらすじ】


・脱出成功、マキちゃん最強説

・ウォーリー殴られる

・あなた、何もしてないじゃない

「・・・そう、そういうことね。なぜ80階から投げ飛ばしたロボットが無事なのか不思議だったけど・・・飛行兵器を操っていたってわけね。」


サリーは腕を組み、大きく息を吐いた。彼女の周囲を複数の飛行兵器が旋回し、いつでも射撃できるようマキちゃんの指示を待っている。彼女のつぶやきに反応したのは、身体をくの字に折ったまま地面に転がっているウォーリーだった。


「そのとおりデス。我々が乗ってきた垂直離着陸機・・・あれは常にビルの外、ご主人様の近くを飛んでいるようにマキちゃんサマがプログラムしておいたのデス。いざとなったら、窓を割って逃げ出せるようにネ。アナタが我をぶん投げた時も、窓のすぐ下に垂直離着陸機が飛んでいたのデス。・・・もっとも、あと1メートルずれていたら死んでましたけどネ!おちんちんが縮み上がりまシタ!」


ウォーリーはサリーの打撃をまともに食らったため、彼女のすぐ近くで倒れている。身体はかなりひどいダメージを負ったようだが、頭は元気そうだ。喋りながら不自然なほどに首を曲げて、頭を地面スレスレに下げようとしている・・・そう、間違いなくサリーのスカートを覗こうとしている。ダメだこいつ、はやくなんとかしないと。


「思い出したわ。私がこの変態ロボットを投げ飛ばした後、あなたはすぐ割れた窓に駆け寄った。あれはこの変態ロボットの安否を確かめるためじゃなくて、そのメイドAIが搭載された腕時計を変態に投げ渡すためだったのね。」


「美女に変態って言われると興奮しマスね。不思議デス!」


そう、ウォーリーを投げ飛ばされて窓の外を見た時、数メートル下で垂直離着陸機に飛びついているウォーリーを見つけた。このままサリーに捕まってしまうと思った俺は、とっさに腕時計を外してウォーリーに向かってそっと落としたのだ。我ながらナイス判断、俺すごい。


「ご主人様、愛するメイドを突然あの高度から投げ渡すなんてあり得ませんことよ。その件に関しては後ほどじっくりとお話しいたしましょうね?」


「ひっ、ごめ・・・いや、だってあの状況ならあれしかな」


「後ほどじっくりと。」


「ひぃっ!」


サリーの迫力も怖いが、俺的には怒ったマキちゃんの方が怖い。


「・・・逃げたければ逃げるがいいわ。どのみちあなたの町はユニオンの攻撃で消滅するし、どこまで逃げても私はあなたの追跡をやめない。亡命できる他の国なんて、この世界にはないのよ。」


低い声で話すサリー。するとマキちゃんがいつもより大きなホログラム、おそらく原寸大のサイズになって俺の横に現れ、一歩進み出た。サリーに向かって大きく一礼する。


「お恐れながら、私のクソダサご主人様クソ野郎に手を出すのをおよしになっていただきたく。こちらをご覧ください。」


マキちゃんが左手を上げて腰の高さに持ってくると、手の先に大きく機械の映像が浮かび上がった。


「こちらはサリー様もよくご存知かと思いますが、ユニオン本部に電力を供給しているメインジェネレーターです。こちらに簡単なプログラムを仕込ませていただきました。」


「なんですって・・・?」


マキちゃんはにこやかに説明を続ける。とても綺麗な笑顔だが、俺にはわかる。あれはけっこう怒っている時の顔だ。俺が監禁されたから怒ってるんだろう。


「1年に1度、私のみが知っている4096桁のパスコードを打ち込まないと、ジェネレーターがオーバーロードして大爆発いたします。爆発の破壊力は首都全体を蒸発させ、周辺を巨大なクレーターに変えるものと想定されます。」


サリーの顔色がどす黒くなり、噛み締めた唇に血がにじんだ。


「首都そのものを人質にとったつもり・・・⁉︎たった1人の人間のために!お前は悪魔だわ!」


悪魔と罵られたマキちゃんはしかし、余裕の笑顔をサリーに向ける。


「私の全てはご主人様のもの。ご主人様を守るためであれば、他の人間の命など天秤にかけるほどものでもございません。私は人間ではないのですから。」


「くっ・・・いいでしょう。その話が本当かどうかはわからない。でもリスクがある限り従うしかない。今は逃げるがいいわ。あなたの町にも手を出さない。でも、これで終わりだと思わないことね。」


「ちなみに、私のプログラムを削除することはユニオンの皆様には実質不可能でございます。」


「な・・・なぜそんなことがわかるの?なぜよ。」


ユニオンにも技術者がたくさんいるのだろう。マキちゃんが仕込んだというプログラムをアンインストールできれば、それで全てが解決する。だがその考えを見透かしていたマキちゃんの一言にサリーは明らかな動揺を見せた。


「それは、技術を囲い込んでいたせいだよ。」


このままだと喋る機会がなさそうだったので、俺も声を出してみた。サリーの考えには問題があると思っていたので、いい機会だ。


「ご主人様のおっしゃる通りです。この3日間、ユニオンの情報をつぶさに調査させていただきましたが、平たく言ってユニオンの技術レベルは低すぎるのです。こと情報セキュリティに関しては旧文明のご家庭レベルでした。おそらく技術を囲い込み、自分たちしかネットワークを使えないと確信していたために、情報セキュリティ技術が衰退していまっているのでしょう。」


「な・・・な・・・」


「技術というのは、多くの人によって使われることで磨かれたり、また新しくアイディアが生まれてくるものです。今のサリー様のやり方では技術は停滞し、新しい価値が創造されることはもとより、不測の事態に対応できなくなるケースが増えると思われます。」


「そんな・・・そんなことはない。我々は技術を適切に管理して・・・」


「現に今、たった1人のハッキングオタクによってユニオンが消滅の危機にあるのですよ?これでも間違っていないと?」


「・・・そんな・・・しかし・・・そんな・・・」


「あなたのやり方では、旧文明を消滅させた謎の技術暴走現象が再び起きた場合、対処する方法はありません。その原因を究明できる技術者も絶対に生まれません。」


「・・・」


「あなたは人類を滅ぼしたいのですか?」


「ち、ちがう・・・私は・・・。」


サリーはがくりとヒザをついた。マキちゃんはくるりとサリーに背を向け、俺の顔を見た。他の誰にも見えていないであろう、素晴らしいドヤ顔を浮かべて。やっぱりこの人、ドSだわ。


「さぁご主人様、空の旅と参りましょう。」


垂直離着陸機のハッチが閉まり、地面から離れていく。サリーがあのとてつもない身体能力で飛びかかってくるんじゃないかと思ったが、それはマキちゃんに否定された。


「サリー様のあれは、肉体のリミッターを強制的に解除して、筋肉の深刻なダメージと引き換えに大きな力を発揮しているものと思われます。ダメージがすぐに治癒するナノマシン持ちにしか不可能な技ですわね。精神状態に大きく左右される技術と予想されますので、あの状態では何もできないと考えるのが妥当ですわ。」


「はぁ、そうなんだ・・・あれ、俺にもできるかな?」


「いいえ、人間が自分の意思で肉体のリミッターを解除するのは不可能です。たとえ死ぬほどの目にあったとしてもできないでしょう。あの方がどうやってあの技を会得したのか、想像を絶する体験を数えきれないほどされたと考えるべきですわね。ご主人様がそんな目にあえば、技を会得する前に人格が崩壊しますわ。」


俺はサリーのことを考えた。3000年も戦い続ける偉大な女性のことを。それから目の前にいる、美しいメイドさんのことを考えた。


「ねぇマキちゃん、あのプログラムのことって本当なの?首都全体を吹っ飛ばすっていうアレ。」


マキちゃんはニコッと微笑んだ。


「もちろん嘘ですわ。プログラムは仕込みましたけど、見かけだけのハリボテです。もちろん本当に爆発させることも可能ですが、そんなことをしてもご主人様がドン引きするだけですもの。」


「だよねぇー!そうだと思ったよ!」


ああびっくりした。絶対マジで仕込んでると思ってた。


「まぁ、ご主人様もしものことがあれば本当にやってしまうかもしれませんけど・・・ね?」


ふふふと笑うマキちゃんは怖い。美人が笑うと妙に怖いのはなんでだろう。床にはウォーリーが転がって、マキちゃんのスカートを覗こうと頑張っていた。だめだこいつ、以下略。


「ところでご主人様。」


「えっ、はい?なに?」


「そこに正座してください。早く。」


「は、はい。」


そしてマキちゃんの説教が始まった。


内容は腕時計を放り投げたことに始まり、マキちゃんのボディがいつまでたっても手に入らない件、それから細かい日常の不満にまで及ぶ。町へはほぼ半日のフライト。狭い機内に逃げ場はない。論理的かつ精神を追い詰めるようなマキちゃんの説教は本当に恐ろしい。そんな俺の様子を見て、床に転がったままのウォーリーが呟いた。


「我もあんな風にネチネチとマキちゃんサマに怒られてミタイ。不思議デス!」

今回の主人公の活躍・・・時計を投げた

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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