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伝説、あらわる

【前回までのあらすじ】


・美人秘書かと思ったら偉い人だった

・しかも旧文明の人間だった

・ウォーリーもドン引き、ナイフざっくりプレイ

「いきなり血を見せてごめんなさいね。でもこれが旧文明の人間だって証明するいちばん簡単な方法なのよ。」


サリーと名乗った美人秘書は、ハンカチでナイフと手に付いた血を拭いながら言った。ナイフを突き刺した左手にはもう、まったく傷跡も残っていない。俺と同じように、ナノマシンによる再生が行われた証拠だ。


「サリー?ユニオン・サリー?この首都を作った人?本人?」


軍人リーダーのポッチがそんなこと言ってた気がする。しかしあれは3000年も前って言ってなかったっけ?


「ええ、そうよ。私がユニオン・サリー、この街の本当の支配者。あなたと同じく不老不死だから、表向きはさっきの男のような代役を立てているけどね。もう知っているようだけど、私がこの世界を3000年かけて人間が主役の世界に変えてきた。首都と呼ばれているこの街も、元は警備システムが稼働し、野生の機械が住み着いた危険な場所だったのよ。それを私が1人で、時に仲間を率いて戦い、人の住める場所にしていったの・・・長かったわ。」


「まじっすか・・・。」


3000年とかさすがに壮大すぎてピンとこない。


「まぁ座ってちょうだい。別に私の話をするために来てもらったわけじゃないわ。聞きたければもちろん話してあげるけど。」


サリーは部屋の中ほどにある応接スペースの1人掛けソファに腰を下ろした。俺もおずおずとサリーに向かい合う形で座る。サリーはまとめていた髪をほどき、脚を組んでゆったりと座った。綺麗な長い黒髪を下ろした彼女は10台後半ぐらいに見えるが、その尊大な態度と見た目のギャップに違和感がある。ナノマシン持ちにはよくあることだ。サリーと向かい合う形に座ると、脚を組んでいるサリーのタイトなスカートの裾に思わず目がいってしまう・・・落ち着け、これは明らかな罠だ。あっそんな堂々と脚を組み直して・・・あっあっ


『ご主人様、髪をほどいたのも脚を組んでいるのも、会話の主導権を握るために女の武器を使った策略ですわ。簡単に転がされれないでくださいまし。』


『わわわわわわかってるよ・・・。それより周辺にトラップとかないよね?』


『今の所、怪しいものは検知しておりません。・・・ステルス中のウォーリーがサリー氏のスカートの前で熱心に監視していますが。』


『普通にアウトだからやめろって言っといて・・・。』


なにしてんだあいつ。たぶん人間用のサイボーグボディと接続したせいだと思うが、どうも最近のウォーリーはおかしい。俺がウォーリーの身体についている人工性器の撤去について考えていると、サリーが話を始めた。


「さて、こちらから話したいこともあるけど、まずはそちらの聞きたいことから始めましょうか。わざわざお呼び立てしたのはこちらだものね。」


「えっえっえっえっえっと・・・。」


やっぱ緊張する。美人秘書だし。とはいえ冷凍から目覚めて初めて会えたナノマシン仲間、しかも3000年前から活動している人だ。色々と聞きたいことがあるが、一番最初に聞きたい質問は決まっている。


「そっそっそっそっそうだ、サリーさんは・・・」


「サリー、でいいわ。」


「さっさっさっさっサリー・・・は、知ってるの?この世界が、どうしてこう・・・機械と生き物がごっちゃな世界になったか・・・って理由を?」


「いいえ、知らないわ。もちろん、いくつかの仮説は立てているけどね。私が500年の冷凍睡眠から目覚めた時・・・あ、一応言っておくけど、私は犯罪で冷凍刑にされていたわけじゃないわよ・・・。そう、私が目覚めた時、もう世界はこうなっていたわ。」


「ごっごっ500年・・・たった500年で、こんな世界に?」


「そうよ。明らかに自然にこうなったわけではないわね。何か未知の現象が起きたのよ。とにかく私が起きた時は、もっとひどい世界だったわ。人間は機械のエサとして逃げ隠れながらひっそりと暮らし、わずかに残った人間同士で安全な住処や食料を求めて殺しあう。私は最初、自分が地獄に落ちたんだと本気で信じたくらいよ。」


「そっそっそっそっそんなに・・・。」


何と言っていいのかわからなかった。サリーはきっと俺には想像もできない地獄を経験し、その地獄と戦ってきたのだ。ねぎらう言葉とか称賛の言葉を口にしようと思ったが、やめた。最近ポッと出てきた俺に言えることなんて多分なにもない。


「そっそっそっそうだ、他の人は?冷凍されていた他の人もこの街に?」


「ええ、いるわよ。今は314人の旧文明人がこのユニオン本部で働いているわ。あなたが315人目ね。」


サリーが貼り付けたような笑みを浮かべて放った一言にひっかかる。


「・・・ん?俺はここでは働かない。今住んでる町でやることがあるんだ。」


「やること・・・電話を普及させたり、旧文明のネコ型自立兵器を量産することかしら?それは許可できないわね。」


サリーの顔から表情が消えた。


「ユニオンの管理下にない無計画なテクノロジーの普及は許さない。」


「なっなっなっそれはなんで?」


「さっきも言ったでしょう、私は地獄を見たと。この世界が地獄と化した原因はハッキリとはわかっていない。でもこれだけは確かよ。この世界がこうなったのは、何らかのテクノロジーが暴走したせい。あれほど栄華を誇った旧文明を一瞬で地獄に変えるようなことを、また繰り返させるわけにはいかないわ。」


「なっなっなっ・・・でも、でもたかが電話だよ?電話が普及したからって世界が壊れたりはしないでしょ?」


「電話が発展し、情報ネットワークが発展すれば、絶対に管理しきれない情報の交換が起こるわ。地域ごとの情報格差がなくなり、あらゆる情報が共有されていく。それはあっという間に人々の知識レベルを引き上げ、いずれ旧文明のように高度なテクノロジーを産む土台になるでしょうね。」


「ぬっ・・・ぬぬ・・・。」


俺が言葉に詰まっていると、サリーは畳み掛けるように続けた。


「この世界は私が守る。そのためには、勝手な技術革新を許可してはいけないの。世界を地獄に変えた謎の現象や大量破壊兵器、文明を終わらせる技術は山ほどあるわ。今のように人々を情報から隔絶し、新しく産まれるテクノロジーを管理していれば、危険な技術が産まれても最悪の事態になる前に止めることができる。人々は身近に野盗や野生の機械という共通の敵がいるから、町同士の小さな争いも少ないし、人々は町ごとの小さな単位で団結しているわ。そもそも国という概念すら希薄なのよ。そうなるように私が管理したからね。だから大きな国同士の対立も起こり得ないし、国同士の対立がなければ、戦争も起きない。戦争がなければ危険な技術が産まれる可能性は限りなく低くなるわ。」


「ぬ・・・ぬぬぬ・・・。」


「技術の管理は人類全体を守り、存続させるために必要なことなのよ。」


「だ、だ、だ、だからって、町の人を皆殺しにするのはやりすぎなんじゃ・・・。」


「いいえ、便利な技術というのは麻薬みたいなものよ。1度でも経験してしまえば、2度とそれがない生活には戻れない。あなたが作った電話ネットワークを破棄しても、それを経験した町の人の中から同じようなものを再現する人が必ず出てくるでしょうね。」


「ネッコワークです。ネッコ、ワーク。」


「・・・はい?」


「だから電話ネットワークなんてつまらない名前じゃなくて、ネッコワーク。」


「・・・そう、ネッコワークね。」


「ネッコワーク。」


ここでちゃんと押しておかないと、せっかくのネーミングが台無しになりそうだ。いや、それどころじゃないのもわかってるけど。


「とにかくその・・・ネッコワークね。ネッコワークとそれを知る人の抹殺は人類のために必要なことなのよ。どうしてもというなら、数名だけならあなたの大事な人たちを助けることもできる。ユニオン本部で外界から遮断された生活をしてもらうことになるけどユニオンの敷地は広大だし、同じように生活している人がたくさんいるから辛い生活ではないはずだわ。むしろ危険な外界での生活よりよっぽど安全で文化的よ。」


「むむむ・・・。」


『ご主人様、ぐうの音も出ないほどに論破されつつありますが大丈夫ですか?少しは良い所を見せていただきたいのですが。』


マキちゃんに発破をかけられて何か言おうとするが、なかなか言葉が出てこない。きっとこの人は、俺の想像もできないような恐ろしい体験を山ほどしてきたのだ。俺が何を言ったところで無駄のような気がしてきた。それでも世話になった町を俺のせいで消滅させられるのは絶対に避けたい。冷や汗をかきながら言葉を探していると、サリーは突然前方に右手を伸ばし、自身のスカートの前、空中のなにかを掴んだ。・・・あれは、まさか。


「さて、まだ会って間もないけど、あなたは自分のことを頭がいい人間だと思っているわね。電話のネットワーク・・・ネッコワークを短期間で普及させた手腕からもそれが分かるわ。この状況でもまだ自分の要求を通すために、何かができると信じている。・・・でも残念ね。この部屋に入った時点であなたにできることは何もない。もうあなたは詰んでいるのよ。」


サリーが手に力を込めると、何もなかった空間にウォーリーが出現した。サリーに肩を掴まれていて、その肩からメキメキという金属の悲鳴が聞こえる。身体に強烈な力が加わったせいで、光学迷彩が消失したのだ。


「イデデデデデデデ・・・スカートの中を覗いたのは謝りマス。人工筋肉が潰れてメインフレームに歪みが生じる程のパワーデス・・・!光学迷彩の維持が不可ノウ!」


どういうことだ。あのサイボーグ並の力はなんだ?俺たちのような旧文明の人間は身体を改造することができない。機械を埋め込んだりしようにも、ナノマシンがたちどころに生身の肉体を修復してしまうからだ。にも関わらず、サリーは生身の身体でウォーリーの頑強な身体を捻り潰そうとしている。


「この部屋には、無数のセンサーや監視カメラが設置してあるわ。このロボットがいたことは、最初からわかっていたのよ。」


「アダダダダダダダダ・・・ホントに痛いデス!悪いのは我ではなくて、おちんちんなのデス!お仕置きするならおちんちんにお願いしマス!」


「そして、私は本当に・・・本当に無数の地獄を、戦場をくぐり抜けて来たのよ。人間の限界を超えられるほどのね。」


サリーがウォーリーの肩を掴んだまま立ち上がり、大きな窓に向かって投げ飛ばす。信じがたいことに、身長2メートルを超し、体重も100kg近いはずのウォーリーが地面と平行に10メートル以上の距離を飛んでいき、窓をぶち破ってビルの外に落ちていった。ここは80階ほどだったか?この高さから落ちたら、さすがのウォーリーも無事では済むまい。


「なッ・・・ウォーリー!嘘だろ!」


部屋に外の風が強く吹き込み、サリーの黒髪を激しくなびかせる。俺は割れた窓に駆け寄って、窓の外を見た。地面はどこまでも遠く、はるか彼方に地上の町が広がっている。


「・・・ウォーリー・・・。」


すぐに背後から強い力で室内に引き倒され、サリーが俺の身体を片足で踏みつけた。女性らしい華奢な身体からは想像できない、ものすごい力だった。


「悪いけど、ナノマシン持ちの人間を気絶させるのは大変なの。だから一度、頭を粉砕させてもらうわね。また後でお話しましょう。」


サリーが右手を大きく振りかぶった。どういう仕組みか分からないが、あの怪力で殴られたら俺の頭なんて熟れたトマトみたいに潰れてしまうだろう。だがその時、俺を踏みつけているサリーを下から観察することで、素晴らしいことに気がついた。


「・・・ビシッとしたスーツだけど、結構かわいい感じのパンツなんだ。これはウォーリーの冥土の土産にぴったりな」


拳が振り下ろされ、そこで俺の意識は途切れた。

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