美人秘書
【前回までのあらすじ】
・ユニオンに乗り込んだ
・ウォーリー忍んでます
・おすすめの動画があったら教えてくだサイ
「後部ハッチを開きます。お気をつけください。」
マキちゃんのアナウンスが響き、俺たちが乗る兵員輸送機の後部ハッチがゆっくりと開いていく。ハッチが開ききると、そこには3人の人間が立っていた。真ん中に立っているのはピシッとスーツを着込んだ若い男。男から一歩下がった左右に銃を持った兵士が1人ずつ立っている。様子を伺っていると、スーツの男がこちらに進み出た。
「ポッチ少佐、任務お疲れ様でした。そちらの方が例の?」
ポッチ少佐・・・?え、この軍人リーダーそんなカワイイ名前なの?思わずポッチの顔を見ると、チラリと殺気のこもった目線を向けてきた。名前をいじられるのは嫌らしい。ごめんよポッチ。
「ああ、これがターゲットの男だ。この場で引き渡せばよいか?」
「はい、それで問題ありません。あとはこちらで引き受けます。・・・部下の皆さんはどうされました?」
「全員生きておる。詳細は後で報告書を読め。それよりさっさと連れて行くがよい。予想通り、こいつは不死人だから注意しろ。」
ポッチに促されて、若い男が俺の前に歩み寄った。高圧的な態度に出られるかと思ったが、意外にも低姿勢で右手を差し出してくる。
「初めまして、私はユニオン政府特務課のマックと申します。わざわざご足労頂いて申し訳ありません。」
「ご足労っていうか、ほとんど拉致されて来たんですけど・・・。えっと、あの、この後すぐ、偉い人と話せますますます?」
やっぱり知らない人と話すのは緊張する。スーツ着てネクタイをビシッと締めてる人とか怖いし。
「はい、不死人の方はすぐに総統のところにお連れすることになっています。すぐにご案内させていただきます。」
「なッ・・・総統⁉︎総統だとッ⁉︎」
ポッチが信じられないといった様子で顔を引きつらせている。
「え、なに?総統って相当偉いの?そうとうだけに。」
「ユニオンの最高指導者だッ!この田舎モノめッ!」
ポッチは渾身のギャグを華麗にスルーして怒鳴りつけた。ほら、なんか簡単に偉い人に会えたじゃん。背後の何もない空間から「クッソくだらないデス」と震える小声で呟く声がした。おいウォーリー、ちょっとウケてないでちゃんと姿を消してろよ・・・。
ヘリポートでポッチと別れ、マックと名乗る若者と兵士2人にエスコートされてビルの中に案内される。当然、ウォーリーも姿を消してついてきているはずだ。エレベーターに乗ると、マックは突然深々と頭を下げた。
「手荒いお招きとなったようで、大変申し訳ありませんでした。」
「え?ああ、いや、はい、そうですね、はい。」
「不死人の方と予想されましたので、粗暴な軍人をお迎えに行かせることになってしまったのです。というのも、不死人の方は・・・なんというか、乱暴な方が多くいらっしゃるのですよ。」
「え?そうなんですですですか?」
「はい。どうも冷凍されて最近目覚めた不死人の方は、もともと犯罪者である場合が多いらしく・・・。目覚めた人間の3割は不死であるのをいいことに、野党やギャングとして好き放題やっていると聞きます。」
ああ、やっぱり俺みたいに冷凍刑を食らった人間が目覚めて出てくるケースがあるのか。こんにちは犯罪者です、どうもすみません。
「なななななるほど。・・・ん?もう7割は?」
「4割の方は普通に生活しているところを発見されます。このユニオン本部でもたくさん働いていらっしゃいますよ。残りは気が狂っていらっしゃるケースですね。見つかっていない人が多いはずなので正確な数はもっと多いと思うのですが・・・。野生の機械に代わるがわる食べられ続けて発狂されてるケースが多いです。大型重機に丸飲みされて、何十年も延々と消化と再生を繰り返していたという方もいました。同じ不死人の方に捕まって奴隷のような扱いをされていたケースや、寄生型の機械に身体を乗っ取られて、寄生機械の大繁殖を招いた方もいました。不死といっても、肉体的な強さは我々と変わりませんので捕まってしまうと大変ですね。」
なにそれこわい。俺が淡々としたホラー話を聞かされて震え上がっていると、エレベーターが停止してドアが開いた。
「さぁ、そのまま廊下をまっすぐにお進みください。私がこのフロアに立ち入ることは許可されておりませんので、ここで失礼させていただきます。」
エレベーターを出て、1人で進む。といっても近くに透明になったウォーリーがいるはずだが。赤いカーペットが敷かれた広い廊下は、とても美しく手入れが行き届いている。壁にヒビや汚れもなく、何千年も前のビルとは思えない。いくつか花瓶に花が飾ってあるのを見かけたが、花びらがガラスが何かで出来ていて、しかも時々光っていたので俺の知ってる花じゃないのは間違いなかった。
廊下の先には開けっぱなしになっている大きなドア、その先は広い執務室のようだ。中にいるのは2人。
ひとりは男性。背が高く、胸板も厚い。立派なヒゲに彫りの深い顔立ち。50歳ぐらいだろうか、腕を後ろで組み、いかにも威厳に満ちている。これが総統だろう。
もうひとりは女性。黒いスーツにタイトなスカート、抜群のスタイルと凜とした立ち姿。長い黒髪を後ろでまとめていて、スッと鼻筋の通った美しい顔を引き立てている。こっちは秘書さん、言わずもがなの美人秘書だな。
『ご主人様、美人秘書という響きにあらぬ妄想をかき立てられるのは後にしてくださいな。』
『そんなことしてないし!してたとしても、ある意味しょうがないし!っていうかしてないし!』
マキちゃんといつもの神経接続漫才をしている場合ではない。俺は珍しく先手を打つべく、自分から総統の前まで進む。
「どどどどどどうも、あなたが総統ですか?」
だが総統は俺のことをチラリと見て言った。
「まぁ、表向きはね。・・・それでは、私はこれで失礼します。」
そして、美人秘書に一礼すると、そのまま出て行ってしまった。部屋には俺と美人秘書の2人きり。なにこれ。
「めっちゃテンション上がりますネ?録画しまショウか?」
耳元でウォーリーがささやいた。お前はいいから黙って忍んでろ。その時、美人秘書がいつの間にか小さなナイフを取り出して、右手に持っていた。
「え、え、え、え、え、な、な、な、な、な、なになになになになになに」
美人秘書で2人きりでナイフ。
なにか分からないけど怖い・・・そしてちょっと興奮する・・・とか言ってる場合じゃない。すると美人秘書は突然、右手のナイフで自分自身の左手を深く突き刺した。血が飛び、床にこぼれる。
「新しすぎるプレイ・・・ちょっとこれはドン引きデス。」
だからお前は黙って忍んでろってば。美人秘書は穴が開いた自分の左手を、見せつけるようにこちらに向けた・・・その傷口が、みるみるうちにふさがっていき、数秒も待たずに傷は消える。そして驚いている俺に向けて、その美しい唇から言葉を発した。
「初めまして、私はあなたと同じ旧文明の人間。今はユニオン・サリーと呼ばれているわ。どうぞよろしく。」




