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そうだ首都、いこう

【前回までのあらすじ】


・政府の軍人さんが乗り込んできた

・返り討ちにした

・主人公なにもしてない

「ツギは、フォークボールを投げマス。」


ウォーリーが大きく振りかぶると、手に持っているボール状のモノから情けない声が響いた、


「やめろ!喋る!なんでも喋るからやめてくれ!」


ウォーリーがボール代わりに持っているのは人間の生首。軍人のリーダーサイボーグから引っこ抜いたものである。ここに来た目的などを丁寧に質問しても答えてもらえなかったので、思い切ってナナとウォーリーのキャッチボールにボールとして付き合ってもらっている。ちなみに頭には軍人らしく小型の自爆装置が埋め込まれていたが、ナナがすぐに気づいて無効化してくれた。ボディガード用アンドロイドのナナは、爆発物を敏感に感知できるらしい。うちの子はなんでもできる。


「ねぇウォーくん、はやくなげてよぉー!」


「めっちゃ落ちマスよ、我のフォークボール。」


「ばっ・・・やめろ!喋ると言ってるだろうが!」


さすがの軍人も、アンドロイドとロボットの超高速キャッチボール大会には耐えられなかったらしい。しぶるナナを説得してキャッチボールを中断してもらい、軍人さんの生首をそのまま俺の部屋のテーブルに乗っけて質問を再開した。テーブルの周りには俺とランスさんとハル。他のメンバーは庭でキャッチボール大会を(もちろん、普通のボールを使って)続行するらしい。子どもに聞かせて大丈夫な話になるか心配だったのでエドもキャッチボールに行かせたのだけど、うかつにナナのボールをキャッチして死んだりしないか少しだけ心配だ。


「で、あんたたち誰で、何しに来たの?」


「我々はユニオン国軍のサイボーグ部隊だ。この町で『デンワ』を普及させた人間を探し出し、連れ帰れという指令を受けた。」


「ゆにおん?」


「自分がいる国の名前も知らんのか・・・。まぁ貴様らのような田舎者の一般人は、国という大きな単位を意識することもないだろうがな。」


前に「国」という言葉がハルに通じなかったのでそういう概念がないのかと思っていたのだけど、そういうわけではないらしい。この世界の人間の大半は生まれた町から出ないで死ぬと聞いたし、国とか惑星とか知らずに一生を終えるのが普通なのかもしれない。やっぱり通信網もないこの世界で、首都とこの町みたいな田舎では得られる情報に大きな差がありそうだ。


「まぁいいや。俺を連れて帰るつもりだったのか・・・じゃあなんで皆殺しとか言ったの?」


「貴様は不死人だろう。殺しても死なんから問題ない。」


「でも、軍人さんがいきなり無関係の民間人を皆殺しにしていいの?」


「・・・ふん、どのみちこの町はまもなく消滅する。近いうちに、ユニオン国軍の手によってな。」


「なんだって?なんで?」


「さあな。詳しくは知らん。」


「わかった、次は全力のストレートを投げてもらおう。ナナ!ナナちゃんちょっとー!」


「ま、待て!本当に知らんのだ!おそらくはデンワというもののせいだ。あのような新しい技術はユニオン政府によって厳格に管理される。今までも何度か似たような理由で消滅した町があったはずだ。」


なんで電話が普及すると町が消滅させられるんだろう。まるで意味がわからない。わからないが、とりあえずこのままだと俺のせいで町が消滅させられるらしい。俺はハルとランスさんの方を見た。2人とも突然の話に困惑している。ランスさんが渋い声で言った。


「ユニオン国軍とやり合うとなりゃあ、こないだみたいにニャンコだけで勝つってのは難しいだろうな・・・。あっちの戦力は底なしだ。」


「にーさん、どうしよう・・・。電話のサービスをやめたら見逃してくれるのかな?」


「うーん・・・。『技術を管理してる』っていってたよね。電話の技術というか、電話っていう概念そのものを人に知られたくないんだとすれば、難しいと思う。電話を知っている人全員、つまり町の人たちを皆殺しにする気なんじゃないかな・・・。」


3人の間に沈んだ空気が漂う。するとテーブルの上の生首がニヤリと笑い、急に高圧的に喋りだした。


「ようやく自分たちがなにをしでかしたか理解したようだな!最初から大人しく言うことを聞いていればいいものを!!今さら命乞いしても無駄だぞ!ユニオンの偉大さをその身に感じで死にゆくがよいもがが」


うるさかったので、手近に転がっていた俺の洗ってない靴下を口にねじ込んだ。やっぱりあとで生首キャッチボールに再チャレンジしてもらおう。


「ご主人様、いかがされますか。とはいえ取れる手段は限られていると思いますが。」


マキちゃんのホログラムが出現する。クールで美しい横顔からは焦りも困惑もまるで感じない。たぶん考えていることは同じだ。俺は自分の考えをきっぱりと宣言した。


「うん、行こう。首都に。」


いつも冷静なランスさんが顔に戸惑いの色を浮かべて言う。


「おいおいにーちゃん、マジか?敵の本拠地に乗り込むなんて正気じゃないぜ?」


「ユニオンは技術に関心があるようですから、電話を普及させた俺自身はそうひどい扱いをされない・・・と思います。たぶん。それに、この町を守るためには武力で抵抗してもダメそうです。直接話をつけに行くのが一番でしょう。」


ハルは心配そうな表情を浮かべて「アタシも」と言いかけるが、言葉をグッと飲み込んだ。ハルは賢い。自分が同行しても役に立たないばかりか、場合によっては俺の足かせになっていまうことを理解しているのだろう。


「ハル、心配しないで。すぐに終わらせて、必ず無事に帰ってくるから。わかった?」


ハルは俺に黙って飛びつくと、胸のあたりに顔を押し付けたまま小さな声で言った。


「・・・うん、わかった。まってる。」


そうと決まればさっそく出発だ。町への攻撃が始まるというのだから、あまりのんびりしてはいられない。


「よし、マキちゃん行こう。」


「お待ちくだサイ。」


いつの間にかウォーリーが近くに立っていた。彼の頭は豆腐みたいな四角い箱に赤いカメラがひとつ付いているだけ。表情というものがないので何を考えているのかまったく読めないが、その声色からいつもと違う真剣なものを感じた。


「どうした、ウォーリー。」


「我を同行させてくだサイ。」


沈黙が俺たちを包む。俺とマキちゃんだけで行くつもりだったが、確かにウォーリーを連れて行くのはアリだ。彼は高度なステルス機能が使える上に、射撃の能力も高い。仮にウォーリーを連れて行った後で町にトラブルが起きても、ナナとクロ、シロが残っていればなんとかしてくれるだろう。


「・・・よし、わかった。ウォーリー、一緒に来てくれ。」


「やった!必ずお役に立ってみせマス!」


皆に見送られながら、俺とウォーリーは軍人たちが乗ってきた飛行機に乗り込んだ。ハルとエドが心配そうに、ナナが自分も行きたそうにこちらを見ている。同行したがるナナを説得するのはかなり大変だったが、さすがに子連れで行くわけにもいかないだろう。ハッチが閉まり、飛行機が飛び立つ。


「それにしてもウォーリー、お前がそんなに同行したがるなんて意外だったよ。」


「そうデスか?我もご主人サマのお役に立ちたいといつも思っているのデスよ。」


「・・・そっか・・・ありがとう。」


目頭が熱くなるのを感じていると、マキちゃんが出てきてボソッと言った。


「ウォーリー、成人向け動画を販売しているお店に寄る時間はありませんわよ?」


ウォーリーの身体がビクッと反応する。


「・・・ナンノコトデショウカ。」


「お店に来るお客様から聞いたのでしょう。首都には成人向け動画を販売している店がたくさんあると。・・・寄りませんからね。」


ウォーリーは俺を見て、それからがっくりとうなだれた。


「ご主人サマ、用事を思い出したノデ帰ってもいいデスか?」

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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