強引なお誘い
今日から新しい章です。
「おとーさん、そらからなにかおりてくるよ?」
今日は天気が良かったので、庭にレジャーシートを広げて皆でサンドイッチを食べていた。すると空に大きな影が現れ、轟音とともに庭に降りてくるではないか。
「ご主人様、反重力エンジン式の垂直離着陸機と推測されます。クロのセンサーによりますと、登場人員は推定12名、いずれもサイボーグです。」
そう、庭に降りてこようとしているのは飛行機。それも滑走路なしで離着陸できるヤツだ。この世界で飛行機って初めて見たな。やっぱりどこかに野生の飛行機ってのが生息してるんだろうか。
「こいつは政府の兵員輸送機じゃねえか・・・。なんでこんなところに・・・?」
ランスさんが低い声で呟く。政府?そういえばガイが首都には政府があるとか言ってたような。っということは、これは首都と呼ばれる大きな都市から来たんだろうか?ランスさんに用事か?
「念のタメ、戦闘態勢をトっておきマス。」
ウォーリーが店に引っ込んだ。俺はハルとランスさん、それからエドを促して家の中に入ってもらう。外に残ったのは俺、クロ、シロ、そしてナナ。
まもなく飛行機が俺達に背中を向ける形で着陸し、後部のハッチが開いた。中から続々と人間が降りて、俺たちを威圧するようかのように飛行機の左右に展開して整列していく。全員がゴツゴツした身体の上に軍服のようなものを着ていて、プラズマライフルで武装していた。おそらく戦闘用のサイボーグだろう。11人が左右に分かれてズラリとならぶと、その真ん中を悠然と歩いてくる男が1人。同じようにゴツゴツした身体を軍服で包み、両手を身体の後ろ、腰のあたりに組んで大股に進み出る。
「ここが、デンワとかいうものを作っている男の家か・・・お前がそうだな?」
ふん、俺に用事か。偉そうな態度が気に入らねぇ!痛い目を見る前に帰りな!っと声に出したつもりだったが出なかった。偉そうな人はコワイ。とりあえずビビってしまう。
「おいそこの男、返事をしろ。政府の要請で我輩がわざわざこんな田舎まで来てやったのだぞ!」
「失礼いたしました。我が主は少々コミュニケーション能力に問題がございまして、悪気があったわけではございませんわ。ご用件はメイドの私が代わりに承ります。」
マキちゃんのホログラムが出現して俺の代わりを申し出る。偉そうな男はマキちゃんを見ると一瞬驚いた様子を見せたが、すぐにニヤリと笑った。
「なるほど、精霊か・・・。やはり貴様・・・不死人だな?」
「不死人?」
「ああ。古代文明の生き残り。どんな病気やケガもたちどころに治り、歳を取ることもない不気味な人間。そうだろう?」
マキちゃんはいつものように無表情だ。相手の質問に答えず、油断なく相手を観察している。
「皆様の目的をお聞かせ願えますか?突然の御来訪に喜ぶあまり、我が主がいつもより一層挙動不審になっておりますわ。おもてなしのご用意もさせていただきたく存じます。」
「ふん、ガラクタ人形は黙っていてもらおう。不死人の男、お前には我々と共に来い。拒否権はない。痛い目にあいたくなければ、黙って従え。」
なんとも強引なお誘い。あまりにも悪役らしすぎて逆に行ってみたくなるが、どうも俺のこと、というか俺のようなナノマシン持ちのことを知っているらしい。こうなると俺の優位性は薄い。不死身なだけで俺は強くない・・・というかものすごく弱い。ナナとクロにお願いしてこいつらを蹴散らしてもらうのは簡単だが、ここで無茶をしてランスさんたちに迷惑をかけてしまうのも避けたい。必死に考えを巡らせていると、家の窓からランスさんが顔を出した。手には愛用の狙撃銃を構えている。
「おい、その顔色が悪いのは俺の息子だ。連れて行きたかったら俺に断りを入れな。」
お、お義父さん!嬉しくなってちょっと鼻がツーンとする。そんな俺に構わず、ランスさんは引き金を引いた。弾丸はリーダーらしい男の足元に着弾し、派手に土煙を上げる。
「素直に言うことを聞けばいいものを・・・。用があるのは不死人だけだ。かまわん、総員、射撃開始。まとめて皆殺しにしろ。」
男が指示を出すと、背後に控えた兵隊達が一斉にプラズマライフルの射撃を開始した。しかし弾丸の雨は俺の目の前で弾けとび、空中に消えていく。いつの間にか俺の前にナナが出て、両腕を広げて立っていた。
「これは、高密度のプラズマ障壁・・・!こんなものを単体で展開できるアンドロイドが存在するのか⁉︎」
ナナはするどく敵を睨みつつ、プラズマ障壁を展開し続ける。ボディガード用アンドロイドの面目躍如といったところか。
「撃て、撃ち続けろ!こんな障壁、長くは持たん!・・・どうした貴様ら、撃て!」
リーダーが振り返ると、そこには持っていたはずの武器を失って、オロオロする11人のサイボーグがいた。彼らから少し離れたところに、いつの間にかウォーリーが出現し、11丁のライフルを地面に投げ捨てる。そういえばウォーリーの身体は高度なステルス戦闘用のサイボーグだった。姿を消して、片っ端から武器を奪っていったのだ。
「皆サマ、あまり質の良いライフルをお使いでハありまセンね。最高の銃器をお求めでしタラ、ランス銃砲店にご用命くだサイ。」
「なっなっ・・・なっ・・・貴様ら、何をしている!強化兵士11人もいるのだ、武器など必要ない!素手で捕らえろ!」
リーダーが顔を真っ赤にして叫んだ瞬間、しかしさっきまでアクビをしながら寛いでいたクロの背中から一瞬だけプラズママシンガンが飛び出し、まばたきほどの瞬間に11発のプラズマ弾を発射した。11人のサイボーグはことごとく胸の中心に風穴を開けられ、ほとんど同時にその場に崩れ落ちる。
「なっ・・・こんな・・・こんなことが・・・」
リーダーが踵を返して飛行機に逃げ込もうとするが、踏み出そうとした足はその場でピタリと止まる。サイボーグがマキちゃんの近くでのんびりしていたら、無事でいられるはずがない。
「身体のハッキングが完了しました。ろくなおもてなしもせずお返ししては、ご主人様のメイドとしての面目が丸潰れですわ。」
「はぁ怖かった・・・。じゃあマキちゃん、第一からね。」
「もちろんですわ。」
リーダーの身体がこちらを向き、勝手にラズィオ体操を始める。美しい体操の動きをする身体の上で、いかつい顔が青くなったり赤くなったりしていた。こうなれば俺も、緊張せずにお話できるぞ。
「ふっふっふ・・・俺たちの力、思い知ってもらえましたか?」
すると、体操しながら顔を真っ赤にしてリーダーが言った。
「お前・・・お前は何もしてないだろうが!」




