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エドと日常

【前回までのあらすじ】


・エド、ヘタレハッカーの弟子になる

・ナナのかわいさにエドがやられる

「いただきまーーーーす!」


今朝もいつもと同じように、ナナの元気な挨拶で朝食が始まった。食卓にはランスさんとハルとウォーリーが横に並び、その向かいにナナとエド、それから俺が座る。テーブル下にはクロとシロだ。ウォーリーはなにも食べないが新聞を片手にみんなと話をしたり、片付けを手伝ったりしながら過ごしている。ナナはちゃんとご飯を食べる。食事は最高級アンドロイドには当たり前に搭載されている機能である。食べたものはもちろん出るが・・・食事中なので説明は割愛する。


「それにしてもアタシ・・・この食卓を見ていると母性的な何かに目覚めそうよ。この子たち、私が知らない間に産んだんじゃないかしら・・・?」


並んでご飯を食べているナナとエドを見ながら、ハルが言った。こうやって見ていると2人は兄妹にしか見えない。まぁ、エドは明らかにナナを意識していて、チラチラとナナのことを見ている。それも含めて微笑ましい。


「そんな、ハルサマ・・・。我と夫婦ニなりたいだなんテ、照れますネ。」


「なんでアンタが父親ポジションなのよ!」


ウォーリーがナナのコップに牛乳を注ぎながら言い、ハルがツッコむ。これも最近ではすっかりお決まりのパターンである。足元ではクロが何かの金属片をかじり、すでに食べ終わったシロがクロの背中に乗っかってうたた寝している。


エドを住みこみの弟子にすると決めた後、まず俺はエドの両親に話をつけに行った。エドの言うとおり、彼の両親はとにかくエドを自分たちの手から離せればいいと考えているのが丸分かりで、なんの問題もなく話は済んだ(もっとも、話をしたのはほとんどマキちゃんだったが。知らない人とか怖いし)。


次に俺は、ランスさんの家を出ていこうと提案した。あくまで俺は居候としてハルの家に住んでいるわけだし、今ならどこに住んだって困らない程度のお金はある。というかお金の使い道がなくて余っているぐらいだ。だがランスさんに話をしたところ、


「なんで出て行く必要がある?部屋は余ってるし、引っ越すのだって面倒だろ・・・。なんならハルをヨメにやるから、ずっとウチに住め。そうだそうしろ。」


と重低音ボイスで引き止められた。そのランスさんはというと、コーヒーをすすりながら、穏やかな目で食事中のナナとエドを見ている。完全なおじいちゃんの姿がそこにあった。おじいちゃんっていうほどランスさんは歳を食っていないのだが。この町では15〜20歳ぐらいで結婚して子どもを産むのが一般的で、ランスさんは15歳のハルという娘がいるが、まだ35歳だ。見た目はマッチョで渋くてもう少し上に見えるが、とても若い。


というわけで俺たちは引き続きランスさんの家に住み、賑やかに暮らしている。


「冷凍前だったら、他の人間と住むとか信じられなかったな・・・。」


思わず口から漏れた言葉にマキちゃんは、


「ご主人様は成長なされたのですわ。人と住めるようになるのに500年かかるとか、あり得ないぐらい成長が遅くていらっしゃいますけど。」


と言った。そうか、俺は成長したのか。


「私以外に話し相手がいないご主人様もそれはそれでよかったですが、今のご主人様はとても良いと思いますわよ。」


「そうなの?そう思うなら、もう少し優しくしてよ。」


「その言葉、そっくりそのままお返ししますわ。」


さて、朝食が済むと、いつもそうしているように、みんなはそれぞれの仕事を開始した。


ハルはネコの店に行き(ガイも同じ店で働いている)、ランスさんは銃を作る作業を始め、ウォーリーは店番をしながらランスさんを手伝う。ナナとクロとシロはプラズマライフルの林に向かい、俺はエドを連れて自分の部屋に行った。部屋の中心には最近運び込んだ大きめのテーブルと、その上に機能停止したネコ。そこら中に工具やら電子部品やらが散乱している。


「さあエド、今日こそネコにホログラムの表示機能をつけるぞ!」


「はい、師匠!」


俺たちが今取り組んでいるのは、電話ネコ(店で販売しているネコをこう呼んでいる)に、画面を表示させる機能をつけることだ。今のネコは通話機能が付いているが、それだけである。操作方法は飼い主が呼びかけることによる音声操作しかないし、電話以外にはなにもできない。ネコにホログラムを表示する機能、つまり俺の腕時計についているような、マキちゃんやその他の情報を空中に表示する機能を付けられたら、これは間違いなく普及するはずだ。つまり、いまやっているのはスマートフォン・・・いや、スマートニャンの開発である。


「やっぱりアイカメラを交換して、カメラ兼ホログラム投影デバイスにするのが妥当かな?」


「はい師匠、それなら見た目にも変化がなく、使う人にも違和感を与えないと思います。ただ、今までのカメラの性能をグレードダウンさせずに搭載するのはなかなか難しいですね・・・。」


エドと俺はすぐに打ち解けた。はじめはその生い立ちに同情しただけだったが、7歳とは思えない論理的な話し方、オタク気質、知らない人間が苦手なところなど、とても他人と思えないほど気があったのだ。マキちゃんにそういうと、


「ご主人様とエド様の精神年齢は、とても近いのかもしれませんわね。」


と、とても優しい声で言われた。どういう意味だ。


エドと俺の仕事は午前中まで、と決めている。俺たちはどちらもひどいオタク気質なので、一度夢中になると寝ないで何日も作業に没頭してしまう。俺はそれでもいいのだが、エドはまだ7歳。彼にはもっと色々な経験、運動、睡眠が必要である。それに、いくらこの町の人たちが新しい技術への順応が早いとはいえ、スマートニャンを登場させるにはもう少し時間を空けたほうがいいに違いない。まだこの町は、電話が普及して日が浅いのだから。


というわけで午後からは仕事をせず、日替わりでいろいろなことをして過ごしている。


ある日はランスさんの仕事の手伝い。ランスさんは「ああ!?俺の仕事は遊びじゃねーんだぞ!?」といいながら、ものすごく嬉しそうにエドを作業場に入れてくれる。エドもランスさんにはすぐに心を許したようで、熱心に質問して、見学して、簡単な作業を手伝っている。


またある日はハルの仕事場で見学。エドは若い女性店員さんたちにとてつもなく可愛がられ、カチカチに緊張していた。羨ましいが、俺だったら緊張で吐血している自信がある。


そのまたある日はウォーリーと店番。ウォーリーは楽しそうにエドと話し、ときどき愛読している雑誌の服を着ていない女性が掲載されたページを見せてはハルに怒られていた。


「しかしハルサマ、我とエドサマにはおちんちんがついて」


「うるさい!もぐわよ!」


別の日には俺とマキちゃんと3人で、町を散歩した。俺はまだまだ町に詳しくないし、エドもあまり出歩くタイプじゃないので町に詳しくないのは同じだ。皆で町をブラブラして新しい店や名所を発見し、電話が使われる様子なんかを見て楽しむ。


他にも、マキちゃんを先生にして、プログラミング講座を開くこともある。マキちゃんがエドをゴミを見るような目つきで見たり、「こんなこともお分かりにならないのですか・・・生身の脳というものは、なんというかとても残念ですわね」みたいな毒を吐きまくってエドを精神的に追い詰めるんじゃないかと心配したが、そんなことはなかった。むしろマキちゃんは今までに見たこともないほどに優しく、そして丁寧に教え、ヒントを出し、正しい学びに向けてエドを導いた。おかしいな、俺のプログラムを見てくれる時と全然違うぞ?


そして今日は、ナナとクロ、シロを近所の空き地に集めて、皆で追いかけっこである。シロは運動に興味がないのか、俺の近くで寝転んでいる。


「エドーーーーーーーーー!いっくよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


「ナナ!クロ!待って!なんでそんなに速いの!?」


みんな子どもらしく走り回り楽しそうだ。もっとこういう時間をとってやらないとな、と思った。あ、クロとナナが全力で追いかけっこをはじめたようだ。肉眼で捉えるのが困難になっているし、軽くソニックブームみたいな衝撃波が飛んでくる。座って見ていた俺の足元に、吹き飛ばされたエドが転がってきた。


「おおエド、生きてるか?致命傷には気をつけろよ?」


「ううう・・・師匠・・・今、いったいなにが・・・?」


エドは混乱しているようだ。実はエドにはまだ、ナナが人間ではないことを教えていない。そのうち勝手に気がつくと思ったのだが、ナナのアンドロイドとしての完成度が高すぎて意外と気付かれない。今も突風か何かで飛ばされたと思っているようだ。俺はエドを起こしてやり、近くに落ちていた黒縁メガネを渡す。


「ケガはなさそうだな・・・大丈夫か、痛いところはあるか?」


「師匠・・・あの、ボク、変なんです・・・ナナを見ていると、なんだか胸がドキドキして・・・」


「お、おお・・・。そうか。」


「気がつくと、ナナのことばかり考えているんです。こんなこと、今までは絶対になかったのに。ボク、ロボットにしか興味がなくて、ロボットのことしか考えずに生きてきたんです。いつか作ってやろうと思ってる『人間みたいなロボット』のことで頭がいっぱいだったのに、今はナナのことで頭がいっぱいに・・・どうして変わっちゃったんだろう。」


「・・・いや、別に変わってないんじゃ、ないかな・・・。」

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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