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ぼっち弟子

【前回までのあらすじ】


・天才少年エド登場

・エド、マキちゃんからお茶に誘われる

・おちんちんがついているのデス

「ご主人サマ、非常にかわいらしいお客サマをお連れしまシタ。」


エドはウォーリーに案内されて、ランスの家の奥まった部屋の前にやってきた。ウォーリーの呼びかけに、女性の声で「どうぞお入りください」と返事が返ってくる。ひどく緊張して喉がヒリヒリと痛んだ。お腹の調子も悪い。


「失礼しマス。エドサマ、どうゾ中へ。」


ウォーリーに促されて部屋に入る。男の人がひとり、こちらに背を向けて座っていた。部屋の中には小さなベッドがひとつ、あとは男の人が座っているイスと、その前にある小さなデスクがあるだけの恐ろしく殺風景な部屋だ。女性の声がしたが、部屋の中に女性らしき姿はない。エドは湧き上がる緊張を理性の力で頭の中から追い出し、カラカラの喉でどうにか挨拶の言葉を絞り出した。


「はははははははじめまして・・・。ボクはエド、ハンターの息子の、エドですですです・・・。」


ものすごくキョドってしまった。やっちゃった。恥ずかしさで、顔が真っ赤に染まるのがわかる。そんなエドに背中を向けていた男が、座ったままゆっくりと振り返った。想像よりずっと若い男だ。しかしこの男は、間違いなく神のごとき天才、このロボットやネコたちを作った人間・・・。エドは雷に打たれたように硬直し、無表情な男の顔から目が離せない。そしてその男はついに、ゆっくりと口を開いた。


「よよよよよよよよよよよよよよく来たねねねねねねねねねねねねね。ままままままぁまあまぁまぁまぁリラックスクスクスクスクスクスして・・・。」


「ヤッパ、めちゃくちゃ親近感ありマス。」


ひとしきり男が挙動不審な動きを見せた後、2人は向き合う形で腰を下ろした。ウォーリーがエドのためのイスと小さいテーブル、それから簡単なティーセットを出してくれる。


「えっとそのあの、よく来てくれたね、エドくん。わざわざ来てもらったのはね、あのその・・・えっと、あの、アレなんだよ・・・あの・・・キミ、ネコをハッキングしたでしょ?それであのあのあのあのあの・・・。」


「ご主人様、話が下手すぎて進まないので私が代わりますわ。」


突如、何もない空間に美しいメイド姿の女性が現れたので、エドは驚いてイスから落ちそうになった。見れば、ついさっき自宅のディスプレイに現れた人・・・いや、聖霊だ。


「せせせせせ聖霊様・・・!」


「私はこちらのクソヘタレクソ野郎のご主人様にお仕えするメイド型アンドロイド、マキと申します。以後お見知りおきをお願いいたします。」


「エエエエエエエドです、よよよよよよろしくお願いいたしますますますますます」


「あらあら、なんだか出会った頃のご主人様を思い出して親近感が湧きますわね。」


「デショ?デショ?」


用もないのに部屋に残っているウォーリーが首をカクカクして同意する。


「それはさておきエド様。突然で恐縮ですが、ご主人様の弟子になる気はございませんか?」


「ええええ⁉︎ででででで弟子⁉︎」


ネコを捕まえて中身を覗いた件で怒られたり罰せられたりすると思っていたにも関わらず、いきなり弟子にすると言われたエドは衝撃を受けた。弟子?願ってもないような、得体が知れなすぎて恐ろしいような・・・。


「はい、ご主人は、共にネッコワークを拡大し、世界に広めていくための戦力となる方を探しておいでです。ある程度の能力を持った方を探すため、ネコにハッキングを仕掛けた方にコンタクトを取ろうと待ち構えていたのですわ。もっとも、そんなことをしようと試みたのはエド様が初めてですけどね。」


「そそそそそれは・・・ででででででもももも・・・。」


「お金のことでしたらお給料をきちんとお支払いしますし、もちろんエド様はまだお子様でらっしゃいますので、ご両親に相談された後でお決めになってくだされば結構ですわ。なんならご両親をお連れいただければ、また詳しい条件についてお話しさせていただくこともできますし、ご主人様を引きずってこちらからお伺いこともできますわ。」


両親のことなんて関係ない。もともと家を追い出されるところだったのだから。給料までもらえて、しかもネコにまつわる超技術を学ぶことができる!もはやエドにとって断る理由などまったくなかった。


「あああああのボクボクボク、親とか友達から嫌われてててててて・・・。」


だがエドは了承の言葉を発する前に、なぜか自分のことを話していた。親から疎まれて、首都に追い出されようとしていたこと。自分の夢を誰からも理解されず、陰口を叩かれ続けたこと。夢中になってやり遂げたロボットの改造は、両親を気味悪がらせただけだったこと・・・。なぜそんなことを話したのか、自分でもわからない。初めて自分を認めてくれ、あまつさえ仲間に誘ってくれた人たちに、自分のことを知って受け止めて欲しかったのかもしれない。きっとそれは天才少年が初めて見せた、他人への甘えだった。


こんなことを話してどうなるというのだろう。せっかく弟子にしてくれるといってくれた人たちにも気味悪がられるだけではないか。一気に話してしまった後、エドは急に心配になった。目頭が熱くなり、不安が心を支配していく。だがしかし、黙って話を聞いていた美しいメイドはどこまでも優しい目でエドを見ていた。それだけでエドは救われたような気持ちになった。


「それは、お辛かったですわね・・・。ご主人様、エド様には実家を出て、私たちと一緒に暮らしていただいた方が・・・って・・・あの・・・。」


マキちゃんが振り返ると、彼女の主人は滝のような涙と鼻水を顔じゅうに垂れ流し、声を殺して泣いてる。さすがのエドもドン引きするほどの受け入れっぷりであった。


「すむ・・・。いっしょ、すむ・・・エド、もう、うちのこ・・・。」


「な、なんでカタコトで話してらっしゃるんですか・・・。」


「ご主人サマ、ボッチ系の話に弱いデス。ベンジョメシ、弱点。」


ここまで他人に同情され、全力で受け入れられたことなどない。エドはもう、心に決めていた。この人の弟子になりたい。この人の役に立てるように力を尽くしたい。しかし、嬉しさや安心感、色々な慣れない感情が湧いてきて、言葉が出てこなかった。こんな体験は、天才少年にとって初めてのことだ。今日は初めてのことばかり起きる、すごい日だ。ボクはこの日のことを一生忘れないだろう。エドはそう思ったが、もっとも衝撃的な人生初体験はこの後に起こった。ガチャリと部屋のドアが開き、自分と同じ年頃の少女・・・もちろんナナだ・・・が入ってきたのだ。


「おとーさん、きょうのおしごとおわったよー!・・・ってあれ、めずらしいね、おきゃくさん!こんにちは!」


その少女が入ってきた瞬間、部屋が春の光に包まれたように感じた。銀色の髪、白い肌、透き通った大きな目と、弾けるような笑顔。世界の全てが遠ざかり、少女と自分だけが残った。そして、自分の意思とは無関係に、腹の底から声が出た。


「ででででででででででで弟子にしてくださぁーーーーーーい!」

エド編、次で終わりです。

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