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ネッコワーク誕生

【前回までのあらすじ】


・ネコ、あまる

・そうだ、ネコを使ってああしてこうして・・・

「よしネコ軍団あらため、ネコ通信チームよ。町に散らばれ!」


炊飯器による洪水事件から数日。俺は950匹のネコを町に放った。このネコたちには、俺が3日間寝ないで作り上げたプログラムが仕込んである。計画はきっとうまくいくに違いない。


「つまり、アニキは、ネコを歩く通信機に改造したってことッスか?」


町に散っていくネコを見送りながら、ガイが言った。


「ちょっと違うかなぁ。正確には、あいつら1匹1匹を、歩く無線ネットワーク機器に改造したんだよ。」


俺の自作プログラムをインストールされたネコたちは町に繰り出し、常にお互いの位置を一定の間隔に保ちつつ適当にノラネコとして生活するようになっている。先日の連携攻撃で気づいたのだが、ネコは半径500メートルほどの高速な無線通信が可能だ。そのネコを、それぞれ500メートル以内の間隔で町中に隙間なく配置したらどうなるか。


例えば、俺から遠く離れたところにいるナナにデータを送るとする。俺は1番近く、自分から500メートル以内にいるネコにデータを送る。そのネコは、500メートル以内にいる別のネコにデータを送る。データを受け取ったネコは、さらに別のネコにデータを送って・・・という具合にデータのバケツリレーを繰り返し、最終的にナナの近くにいるネコからナナにデータを送ればデータがナナに届くというわけだ。ネコを町中に隙間なくきっちり配置できれば、ネコの電波が届く限りエリアにいる限り自由にデータを送ることが可能になる。ネコはさながら歩く電話基地局だ。


つまりこれはネコを利用した無線通信ネットワーク・・・いわば・・・「ネッコワーク」・・・だ。・・・うん、ネーミングはまた後で考えよう。暫定でネッコワーク・・・無線ニャン・・・ニャンターネット・・・ニャイファイスポット・・・いや、やっぱり「ネッコワーク」と呼ぶことにする。


ネッコワーク用に改造された通信ネコは、常に町中のどこでも通信ができるようにするため、電波の穴を埋めるように移動しながら生活する。もし事故や故障で数匹のネコがいなくなっても他のネコがすぐ穴を埋めてくれるし、通信量が多い経路を見つければ、そこに複数のネコが入って通信速度を維持できるように位置を最適化する。動的にネットワーク構成を変更できる極めて優秀な情報通信インフラなのだ。他にも通信相手を特定する技術とか、通信データを暗号化しつつ高速に圧縮する技術とか、ネットワーク全体を管理しつつ権限を集中させない方法とか、俺の持てる技術を可能な限りねじ込んでやった。楽しかった。


「私がプログラムを書いた方が早かったと思いますが・・・。ご主人様のクソオタクっぽい楽しみを奪うのは無粋ですわね。」


なんだよ、俺だって500年の経験で編み出した並列分散思考プログラミングができるから、常人の100倍ぐらい早いんだぞ・・・マキちゃんの1/10000ぐらいの速度かもしれないけど・・・。生身でAIとプログラミングの早さを競うのがそもそもの間違いだし、楽しかったからいいんだ。マキちゃんにプログラムを見てもらう時にゴミを見るような目を向けられながらバグを次々と指摘されると、正直ちょっと興奮するし。


「マキちゃん、ネコの配置状況を出して。」


「はい、ただいまの配置状況は、予定の95パーセント。完全な最適化まで、あと5分ほどと予想されます。」


目の前にホログラムで、町の地図が表示される。無数に動き回る小さな点はネコで、色付きで表示されているのが無線通信可能なエリアだろう。よしよし、実に順調だ。


さて、今俺はガイを連れて、町の南端にいる。そして今ごろ、ナナが北端にいるはずだ。俺の足元には、ネコのシロ。ナナから少しの間借りている・・・もちろん、今回のテストのためだ。


「シロ、ナナに音声通信を開始。」


「ンナー・・・ニャニャニャニャニャニャ・・・ニャニャニャニャニャニャ・・・」


シロには俺の作った追加プログラムがインストールしてある。それは、ネコを電話代わりに使うためのプログラムだ。ニャニャニャニャニャニャとやかましく鳴くのは、呼び出し音である。少し待つと、シロの口からナナの声が聞こえた。


「もしもーーーし!おとーさん、きこえるー?」


「おおナナ、すごくクリアに聞こえるよ。」


「すごいねぇー!ほんとにおはなしできちゃった!」


実験は成功だ。ちなみにナナはネコを使わずに話している。高級アンドロイドであるナナの身体には、最初から無線通信モジュールが搭載されているのでネコは必要ないのだ。・・・それにしてもネコの口からナナの声がするのは変だ。ネコが喋ってるようにしか見えない。ランスさんあたりの声でやったら相当に気持ち悪いかもしれない。


「すげぇ・・・これ、無線じゃないんですよね?ハンパねぇ・・・ハンパねぇッス。」


背後で黙って見ていたガイが驚いた。ガイが言うところの無線というのは、この世界では一般的なトランシーバーである。ちなみにトランシーバーはトランシーバードッグというナマモノを改造して作る。穴を掘って群れで生活するナマモノで、死ぬまで夫婦で添い遂げることで有名らしい。通信はこの夫婦の間でしかできないし、電波もそれほど遠くまで飛ばないので使いどころが難しい通信手段だ。


「まぁ、まだ今は音声通話しかできないけどな。これからどんどん発展させていこう・・・!」


ネッコワークが普及すれば、その先にあるのは爆発的な情報技術の革新だ。たくさんのウェブサイトができて、サーバ・クライアント型のシステムができて、クラウドサービスができて、それからそれから・・・興奮を隠せない俺をよそに、ガイはなんだか元気がない。


「どうした?なにか問題あった?」


「アニキ・・・オレの異名、覚えてますか?」


「ん・・・?『ケーブル剥がしのガイ』ってヤツ?」


ガイは静かにうなずき、思い切ったように言った。


「これ、せっかく通信するのにケーブルの出番なくないッスか⁉︎」

今日はもう1話投稿します。

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