ネコ、あまる
【前回までのあらすじ】
・ネコ大勝利
・炊いてやるのよ。ホカホカのご飯をね!
「それにしてもにーさん、このネコたちどうするの・・・?」
町を囲う外壁の外側、無数に散らばる炊飯器の残骸から少し離れた場所に、950匹のネコが整然と並んでいる。ネコたちは微動だにせず、ビシッと並んで次の命令を待っていた。まるで軍人・・・いや、軍ネコか。
炊飯器やモグラの残骸は、町の人々の手で回収作業が行われていた。これらの残骸を売ったり、あるいは作り直してちゃんとした炊飯器にすれば、今回の戦闘に参加した人たちに十分な報酬が出せるだけでなく町の予算がかなり潤うことになるという。特にモグラの残骸が珍しいものなので高く売れるそうだ。ハルと一緒にモグラの回収作業を見学していると、ランスさんがやってきた。
「あのモグラ・・・お前さんが1人でやっちまったようなモンなんだから、要求すればたぶん、お前さんのモンになるぞ?」
「え?そうなんですか?」
見覚えのある金髪の美女がいつの間にか近くに来て話に加わった。
「ええ、もちろんです。狩ったナマモノは狩った人のもの・・・この町でもっとも基本的なルールですから。ツチモグラはすべて、炊飯器も3000体相当はあなたに所有権があります。といっても自力での回収も大変ですから、あとで収益金を分配するのが一般的ですが・・・どうしますか?」
この人はランスさんに熱い視線を送っていた門番の美人さん・・・たしか名前はエリスさん・・・だ。若いのにこの町の治安維持責任者らしい。
「あんなデカイもの貰っても困りますから・・・。炊飯器も家にあるので間に合ってます。ねぇ、ランスさん?」
「欲のないヤツだな、お前さんは。というわけだエリスさん、カネは町のために使ってくれ。」
「え、ええっ・・・!ほ、本当にいいんですか?ものすごい額になりますよ!?」
「いえいえ、あのモグラには良い思い出がないので・・・。」
さて、そんなことより目下の課題はこのネコの山である。生き残ったネコたちをどう扱うか、考える必要がある。
「ご主人様、少し綺麗にして模様を付け直せば、お店で販売可能な品質になりますわ。ただし、在庫として置いておく場所は今のところ候補がありませんので、検討する必要があります。」
「950匹だもんなぁ・・・雨ざらしで屋外に置いてもいいけど・・・。」
今回、戦闘のために生成したネコは全て同じ模様である。濃い緑色で、軍隊をイメージしてみた。このままでもいいが、売るなら模様にバリエーションを持たせる必要があるだろう。
「にーさん、言いづらいんだけどさ・・・。」
「お?なあに、ハル?」
「最近、ネコの売り上げが落ち着いてきてるんだよね・・・。小さい町だから、ブームの勢いで一気に欲しい人が買っちゃったんだと思うの。今回の騒動で人気が出て、また少し売れるとは思うけど・・・950匹は、ねぇ・・・。」
そうだった。最近はネコ自体の売り上げと並んで、ネコ用の首輪やクリーニング用品の関連グッズ販売、メンテナンスサービスなどが売り上げを伸ばしていた。ハルはこの町だけでネコを売ってもすぐ売り上げが頭打ちになると最初から予想していて、事前に準備を進めていたのだ。できる子!おかげで店はますます盛り上がっているが、ネコ自体の売り上げは勢いを失いつつある。
「今までは需要に応じて生成してたからなぁ。倉庫なんて必要なかったもんなぁ。」
「最終的には、プラズマライフルの林に埋設して、木の養分にすることもできますが・・・そんなことをするクソ人でなしクソご主人様ではないと信じておりますわ。」
俺だって、町のために大活躍したこの子たちを土に返したくはない。それにしても、さっきから頭の中で何かが引っかかっている。この騒動が起きる前、なにかをやろうとしていた気がする。なんだっけ?
「・・・そうだ、ネットだ。ネットを作ろう。」
俺の突然の呟き。ハルとマキちゃんが怪訝そうな顔で俺を見た。
「ご主人様、あまりにも長かったネット依存から急に切り離されて、頭がおイカれあそばされたのですね。大丈夫です、マキはいつまでもお側におりますわ。」
「わ、わ、わ、私もいるよ!」
マキちゃんの鉄板ネタも、ハルが照れながら乗っかってくると新鮮だ。なんか俺も照れる。しかし、もちろん俺の頭がイカれたわけじゃない。それどころか冴え渡っていると言ってもいいぐらいだ。俺は今、ネコを使ってこの世界に広大なネットワークを構築する妙案を思いついたのだから。
ネコをこうして・・・ああして・・・うん、いける・・・いけるぞ!
うまくすれば、冷凍前のような楽しいネット世界が作り出せるかもしれない。いや、きっとそうなる。歯ごたえのない木とかサイボーグへのハッキングしかできない世の中とおさらばするのだ。こんにちはハッキング天国!動画投稿サイト!巨大掲示板!ブログ炎上!
素晴らしい思いつきに、思わずニヤニヤした笑みが浮かんできて止まらない。そこに、さっきまで炊飯器でキャッチボールしていたナナとウォーリーがやって来て、言った。
「おとーさん、ナナもいるよ!」
え、なに、さっきのヤツまだ続いてたの?ナナは無邪気な笑顔で俺に抱きついてきた。天使か。
すると、ボール代わりの炊飯器をもてあそびながら、ウォーリーが俺を見た。
「特に言いたくナイですが、乗っからないといけない空気を検知しまシタので一応申し上げマス。我もお側におりマスよ。一応ネ。」




