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ネコVS炊飯器

【前回までのあらすじ】


・炊飯器が攻めてきて町がヤバイ

・主人公が主人公らしく遅れて登場

「ンナー」


間延びした鳴き声とともに、俺の両肩に乗っていた2匹のネコが飛び出した。向かう先はもちろん、荒野を埋め尽くすジャーモンキーの群れだ。そして、その2匹を追いかけるように、無数の影が外壁の上、俺たちの頭上を飛び越えていく・・・その正体は、俺がプラズマライフルの林で生成してきたネコの群れだ。総勢1000匹。たった4000足らずの炊飯器の出来損ないを殲滅するには十分すぎる数である。


ネコたちは数メートルはある外壁を軽々と飛び越えて、次から次と荒野に飛び込んでいく。傭兵たちも治安維持部隊の人も銃を撃つ手を止め、みな一様に口をぽかんと開けて頭上を飛んでいくネコを見ている。


「な、な、な、な・・・・なにこれ⁉︎にーさん、なんなのこれ⁉︎」


ハルはあまりの事態に呆然と立ち尽くしていたが、ようやく我に返って口を開いた。


「なにって・・・ネコ軍団だよ。かわいいでしょ、ネコ軍団。」


「かわ・・・かわいい、けど・・・こんな・・・アタシたちは命がけで戦ってるのに、こんな・・・。」


「うわーかわいーねー!シロ、おともだちがいっぱいだよー!」


「ンナー」


ナナとシロは気に入ってくれたようだ。しかしそれ以外の人間はみな、どうすればいいのかわからず混乱している。


「まぁ見た目に緊張感がないのは認める。でも、先入観を捨ててよーく見てくれ。」


ネコたちは常に2匹以上で行動し、1対多の状況でジャーモンキーと戦っていた。1体の敵に対して同時に他方向から飛びかかって攻撃し、1匹が嚙みつかれれば他のネコがすぐに攻撃してこれを助けた。確実に1匹ずつ仕留めることに専念し、ネコと炊飯器が入り乱れる戦場でも的確に連携して戦っているのがわかる。


「なんだか、すごくチームワークがいいみたい・・・。」


「ハル様、お褒めに預かり光栄ですわ。チーム戦闘のプログラムは、私が作成させていただきました。」


マキちゃんが出てきて、自慢気に胸を張る。プログラムの質を追求したせいで遅くなったのは黙っておこう。


「戦闘中に得られた情報を私にフィードバックすることで、連携攻撃を常に最適化しています。こうしている間にも、刻々と戦績が向上していますわ。」


よく見ると、なるほど炊飯器に噛み付かれるネコが減っている気がするし、さっきまで何度も攻撃してやっと倒していたのが、炊飯器の背面あたりをひと嚙みするだけで仕留めるようになっている。急所の情報を共有したのだろう。


「ネコさんカワイイですネ。しかしこう乱戦でハもう撃てまセン。もう1発、【ハリケーン】をぶっ放しておけばよかったデス。」


ウォーリーが残念そうに言った。みるみるうちに動いている炊飯器の数が減っていく。すでに勝敗は決していた。あとは1匹も逃さずに仕留めるだけだ。


「がんばれーネコさんたちー。」


ナナは応援しながら、空になったロケットランチャーの山を整理している。早くも後片づけモードだ。クロは背中のプラズママシンガンを出したまま寝そべって、完全にくつろいでいる。マジでめちゃくちゃ撃ったわー楽しかったーという声が聞こえてきそうなくつろぎっぷりだ。ウォーリーに至っては使っていた機関銃をバラして掃除を始めていた。君たち、切り替え早すぎじゃないかな。


傭兵たちと治安維持部隊の人たちはまだ状況についていけず、ぽかんとしたままネコと炊飯器の大戦争、というか一方的な虐殺を見つめていた。特にランスさんとその横のおっさん、「ここは俺たちオヤジの見せ場だぜ。ケツの青いガキどもは、俺たちに譲ってさっさと逃げな」とか言ってカッコつけてた2人はすごく居心地が悪そうにしている。もうちょっと早く来てあげればよかった。なんかすみません。


そろそろネコによるジャーモンキー殲滅も終わりかという頃、突然すさまじい地響きが俺たちを襲った。そして炊飯器の残骸で埋め尽くすされた荒野が割れて、土煙とともに見覚えのある巨大なドリルが地面から飛び出す。ランスさんが叫んだ。


「ツチモグラか!!なんてこった、戦闘の音に誘われて出てきやがった!!」


ちょっと前に俺を追いかけ回したモグラの化物だ。全長30メートルぐらいだろうか、かなり大きい。そしてなんだか懐かしい。ドリルを高速で回転させながら、足をズンズン踏み鳴らしている・・・なんか怒ってる?周りの傭兵たちも改めて銃を手に取り、顔を青くしている。


「こ、こんな街の近くに現れるなんて・・・まずいぞ、あいつにとっては外壁なんて無意味だ!町の地下シェルターに避難した人たちが食われちまう!」


「センコーダマは一時的に動きを止められるが、怒らせるだけだから使うな!俺たちの消耗した装備でヤツを殺すのは不可能だ。囮になって街から引き離すんだ!車を出すぞ!」


「おとり⁉︎興奮したツチモグラをセンコーダマも使わずに引きつけるだって⁉︎命がいくつあっても足りないぜ!」


「興奮してやがる・・・ジャーモンキーの群れを追いかけて、ここまで来たのか。こんなに生息域を離れて現れるなんて、聞いたことねぇよ・・・!!」


なんだかいろいろ聞こえてくるが、満場一致でヤバイことになったという認識らしい。しかし俺は特になにをするでもなく、外壁からのんびりと観察していた。


「せっかくにーさんのおかげで、町を守りきれたと思ったのに・・・!どうして、こんな・・・。」


ハルの口から悲痛な叫びが漏れた。


「にーちゃん、いくらなんでもこいつはネコじゃどうしようもないだろ。さぁ、ここは俺たちに任せろ。お前さんのトラックを借りるぜ。あれくらいスピードが出るマシンなら、ひょっとして興奮したツチモグラを町から引き離して、生きて帰れるかもしれねぇ。」


ランスさんとおっさん傭兵も、再び目に力を宿して俺を見る。俺はなんと言っていいかわからず、おずおずとモグラを指差した。


「あの・・・あれ・・・。」


そこには、全身をくまなくネコに群がられたモグラがいた。危険なドリル部分を除き、それ以外の部分はびっしりとネコに覆われている。身体をよじってネコを振り落とそうとしているがまったく効果がなく、ネコたちはモグラの身体に取りついて、淡々と攻撃を加える。・・・あ、モグラの前足がもげた。ドリルの回転も止まったぞ。・・・ん、っていうかアレ、もう死んだんじゃないか。ボスっぽく登場したわりにあっけなかったな。


ランスさんたちを見ると、見たことがないほどの無表情で死んだモグラを見ていた。なんかすみません。


こうして俺たちは町の防衛に成功した。今回の戦いは「ネコ大戦争」として長く語り継がれることになるのだが、それは俺達の知るところではない。


町を守った小さな戦士たちは、ネコ同士でじゃれ合ったり、炊飯器の残骸をボールのように転がしたり、はたまた巨大なモグラのドリルをすべり台にして遊んでいる。残数950匹。被害は本当に少なかったと言っていい。大勝利だ。傭兵たちも治安維持部隊の人たちも見た限りでは無事のようだ。ただ、全員もれなく夢でも見ているかのように、うつろな目でネコたちを眺めているが。


さて、この後はどうしようかなと考えていると、ハルが動き出した。自分の顔を両手でパシンと叩いて気合を入れ、階段から外壁を降りていこうとする。


「ハ、ハル?どこいくの?」


「にーさん、決まってるじゃない。炊いてやるのよ。ホカホカのご飯をね!」

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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