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炊飯器と防衛戦

【前回までのあらすじ】


・炊飯器の群れが町に迫る

・クロのテンションが上がる

「皆サマ、敵の群れがレールガン【ハリケーン】の射程距離に入りまシタ。まずは我の方からご挨拶させていただきマス。」


ウォーリーは、巨大な重火器を片手で軽々と持ちあげ、はるか地平線の向こう・・・まだ肉眼では目視するのも難しい距離にいるジャーモンキーの群れに発射した。凄まじい衝撃波が発生し、外壁の上で敵を待ち構えていた傭兵たちにどよめきが走る。双眼鏡を覗きながら、すぐ隣に立つランスが言った。


「おお、ナイスショットだな、ウォーリー。今ので100匹ぐらいは死んだんじゃないか?」


「94匹の破壊を確認しまシタ。ランスさんが、我の腕を改造してくださっタおかげデス。」


ウォーリーが持っている銃「ハリケーン」は、もともと彼の腕だったレールガンである。庭に転がしてあったのをランスが改造してサイボーグ体のウォーリーでも撃てる銃にしたのだ。


「しかし、連射できないからな・・・うまくすれば、これだけで殲滅できそうなモンだが。」


ウォーリーが天井に固定されていた頃は大型の発電機から電力が供給できたのでレールガンの連射も可能だったのだが、今は独立したサイボーグ体である。もともと省エネ設計のサイボーグ体では発電量が足りず、せいぜい10分に1発撃つ程度の電力しか供給できない。ウォーリーはハリケーンを背中にぶら下げると、火力の高い20ミリ機関銃を両手に一丁ずつ構えた。人間が使う際は地面に固定する必要がある機関銃でも、ウォーリーの力なら軽々と持ち歩くことができる。


「大丈夫デス。ランスさんの作ったイカしたガンが山ほどありますカラ。お祭りみたいなもんでございマス。」


それを聞いたランスはニヤリと笑って、自分も愛用の大きなマシンガンを構えた。


「祭りか、違いねぇ!こんなに銃職人冥利につきる祭り、めったにねーな!」


すぐ近くで、ハルとガイが迫撃砲の設置をしていた。手早く作業を進めるハルを、ガイが慣れない手つきで手伝っている。


「こんなにたくさん炊飯機が手に入ったらすごいよね・・・ほとんど壊しちゃうんだけどさ。がんばって町を守って、美味しいご飯を炊こうね!」


「アニキ・・・今ごろ何してるんッスかね・・・。絶対、なにかをたくらんでると思うんッスけど。」


ナナは頭の上にシロを乗せて、右手にはロケットランチャー、左手にはガトリングガンを持っている。背後には未使用のロケットランチャーとガトリングガン用の弾薬が山のように積まれていた。手にした武器はどちらもナナ本人より大きく見えるし、実際にマッチョな男が両腕で抱えるような武器だ。それを軽々と持ち上げ、じっと地平線の向こうを見ている。


「おとーさん、おそいな。・・・っていうかこのぶき、ゆびがひきがねにとどかない・・・じょうずにうてるかなぁ。」


あたりはとても静かだった。耳を澄ますと少しずつ少しずつ、大地を揺らす騒音が近づいてくる。ギャーギャーという獣の鳴き声と、ガチャガチャという金属がぶつかるような音。地平線が銀色の波が現れて、気がつくとあっという間に銀色が大地を染めていた。目を凝らしてよく見れば、銀色の波のしぶき1つひとつが炊飯機の怪物であることがわかる・・・それほどの大群が、いつの間にか肉眼で判別できる距離まで接近してきていた。


次の瞬間、銀色の波の先頭付近で、大爆発が起きる。かなりの数の炊飯機が、バラバラになってはるか上空まで吹き飛んでいく。治安維持部隊が有事に備えて町の周辺に埋設していた大型の爆弾が使用されたのである。そしてこれが、戦闘開始の合図になった。


「ファイアインザホォォォォォーーーーール!」


ランスの低い、だがよく通る声が響いた。機銃に榴弾、ミサイル、レーザー、プラズマ弾。ありとあらゆる火器が火を噴き、敵の群れに降り注ぐ。凄まじいまでの火力に5000の炊飯機の群れはその進行速度を遅らせ、後退すらしているように見えた。


特にナナ、ウォーリー、クロの火力は常軌を逸している。ナナは文字どおり雨のようなガトリングの弾幕を展開しつつ、次々と空になったミサイルランチャーを廃棄し、新しいランチャーを掴んでは的確に敵の密集している場所に命中させていた。ウォーリーは赤熱した機関銃の砲身を流れるような動作で新品と交換し、ほとんど途切れることのない制圧射撃を繰り出している。クロはもうちぎれんばかりにシッポを振りながら、常識外れの火力でプラズマ弾をばら撒き続ける。


そんな彼らの姿を見て他の傭兵や治安維持部隊の面々も負けていられるかと気合を入れ直し、持てる最大限の火力を発揮する。


戦況は今のところ完全に人間たち優位に展開している。炊飯機の群れは一定の距離から町に近づくことを許されず、次々と倒れていった。このまま守り切れれば・・・人間たちが引き金を引きながら願う中、冷静に危機を察知しているものがいた。クロである。


彼の知覚センサーは正確に敵の残存戦力をカウントしていた。戦闘開始から15分、残りは3511体。すでに1500ほど葬っている。素晴らしいペースではあるが、このままでは攻め込まれるのも時間の問題だ。なぜなら、クロの武器はもうすぐ使い物にならなくなる。背中のプラズママシンガンは火力も高く高性能だが、15分も続けての連射は想定されていない。普通のマシンガンだってマガジン1つ分も続けて連射すれば危険なほど高温になるのだ。プラズママシンガンは加熱による暴発を防ぐため、間も無く強制冷却モードに入ってしばらく操作不能になるだろう。他のメンバーも同様である。ナナはあっという間にロケットランチャーを撃ち尽くし、今はガトリングガンだけで戦っていた。ウォーリーの機関銃ももうすぐ弾切れになり、火力が一段も二段も落ちる他の武器に持ち変える必要がある。傭兵や治安維持部隊の人間たちも同じく、弾を撃ち尽くすころのはずだ。なにせ前回の洪水の3倍の敵をすでに仕留めているのだから。だが敵はまだまだ限りなく、荒野のはるか向こうまで埋め尽くして不気味にうごめいている。


間もなく、クロの予想通り背中のプラズママシンガンからの銃撃が止まり、あらゆる操作を受け付けなくなった。冷却が終わるまで、向こう10分は攻撃はおろか背中に収納することもできない。ふと横を見ると、ナナもガトリングガンを地面に放っていた。弾切れである。少し離れたところで、ハルがプラズマライフルのリロードをしているのが見えた。そのハルの真上に、今まさに飛びかかろうとしている1台の炊飯機。クロは自分の主人(にしたいといつも思っている)が襲われるところを見て、柄にもなく焦った様子をみせた。


「ハルおねーちゃん、そろそろだめみたい。」


ハルに飛びかかろうとしていた炊飯機は、瞬間移動のごときスピードでハルの前に移動したナナが腕をひと振りすると、バラバラになって壁の下に落ちていった。


「ありがとう、ナナちゃん。あなたも弾切れね。まさかこんな数の群れだなんて・・・信じられないわ。」


「ぼちぼち壁に取り付くヤツが出始めやがった・・・マズイな。」


ランスが悔しそうに顔を歪める。ハルとガイ、それとナナとウォーリーの顔を順番に見て、覚悟が込められた低い声で言った。


「若い連中は逃げろ。ここは俺たちオヤジ連中が抑える。お前たちは町と心中するには若すぎる。」


それを聞いた、名も知らぬ年かさの傭兵が豪快に笑いながら同意する。


「そうだそうだ!ここは俺たちオヤジの見せ場だぜ。ケツの青いガキどもは、俺たちに譲ってさっさと逃げな!」


「とーさん・・・でも・・・。」


「ハル、早くしろ。ためらっている時間はない。・・・幸せに・・・幸せになるんだぞ。」


ランスは優しい目をハルに向け、ポンと彼女の方を叩いた。ハルはなにかを言おうとするが、言葉が出てこない。この戦況は覆せない。その現実に押しつぶされそうになる。


その時、すぐ近くで大きな音が響いた。なにか大きなものが落ちてきたような、ズンッという音。ハルは音の方に目をやる。


「なんだよマキちゃん・・・『この服のパワーサポートを全開にして思いっきりジャンプすればカッコよく登場できますわよ』とか言って・・・超怖かったんですけど。サーカスの人間大砲みたいに飛んだんですけど!」


「ちゃんと前を見て綺麗に着地すれば間違いなく格好よかったはずです。ご主人様は私の想定より350%ほどヘタレでしたわ。クソダサヘタレご主人様クソ野郎ですわね。」


「あんなん誰でもビビるって!!着地の時、両ヒザが逆関節のロボみたいになったよ・・・治ったけど・・・。」


「じゃあいいではないですか。なんですかあの情けない声は。『あひょえぇぇぇぇぇぇぇ』って。『あひょえぇぇぇぇぇぇぇ』って・・・うふふふ。」


「やめて!俺の叫び声を録音して何度も再生するのやめて!」


いつもの漫才。彼の周りでは、なにがあってもいつも通り。すべて大丈夫な気がしてしまう。だから意気地なしでカッコよくもないはずの彼に、こんなに惹かれるのかもしれない。


「にーさん!待ってたよ!!」


自称天才ハッカーは、バツが悪そうにハルの方に向き直った。その両肩にはなにかが乗っている・・・ネコ?


「待たせたね、ハル!もう大丈夫だ。100万人力の援軍を連れてきたよ。」


「援軍って・・・その・・・ネコ?」


「そうだよ。さあ炊飯機ども、この百獣の王たちの咆哮を耳にして、ただの小動物に過ぎない自分たちの身の程を思い知るがいい!」


自称天才ハッカーは、外壁の向こう、荒野を埋め尽くす怪物たちをするどく睨みつけ、断罪するかのように指差す。そしてハルの耳に、百獣の王の猛き雄叫びが響いた。


「ンナー」

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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