ネコ、売れる
【前回までのあらすじ】
・プラズマライフルの林で護身用のロボットを作って売ろう
・物騒なネコロボット「シロ」が誕生
・不審者がンナーされる
「ランちゃんランちゃん、かたぐるましてー!」
言うが早いか、ナナはランスさんに飛びついた。ランちゃん呼ばわりされた、このあたりでは有名な銃職人のランス氏は、「しかたねーな、まったく、ナナはしかたねーな、ホントによぉ」といつもの重低音ボイスで答えつつ、デレデレしながら肩車してやっている。片手で野盗に狙撃銃をぶっ放していた渋いおじさんはどこにいったんだろう。
「とーさん・・・もう、なんていうか・・・祖父、ね・・・。」
ハルが生暖かい目で見ていた。
「でも待って・・・ナナちゃんの祖父がとーさんってことは、つまりナナちゃんの父親とアタシが夫婦ってこと・・・それって・・・それって・・・。」
ハルが薄っすらと顔を赤らめて、俺の方を見る。俺はというと、ウォーリーと一緒に生成した大量のネコをランスさんの店に並べていた。ネコたちは機能を停止しているので、見た目はまるでぬいぐるみである。武器が並んだランスさんの店に並べられたネコ・・・異様な光景ではある。
「ねぇねぇにーさん、そういえば前にガイと勝負して勝ったよね?」
「ん・・・?ああ、そうだっけ。そうだね。」
発掘対決だったっけ。なんだかうやむやになっていたけど。
「あれって、にーさんが勝ったら、アタシはにーさんのもの、って言ったよね?」
「そそそそ・・・そうだっけっけっけ?」
『ご主人様、久々にキモいですわ。』
「だから、アタシはもうにーさんのもの・・・。でも、アタシが勝手に言ってるだけだもんね。にーさんは、アタシのこと・・・その・・・欲しく、ない?」
ハルがそっと俺に近づき、潤んだ瞳で俺を見た。ふわりとハルの匂いがする。
「いや、欲しくないなんて・・・そんなことは、ないよ・・・というか欲しいというか欲しいというか欲しいというか」
その時、9匹ほど並べたネコが一斉に俺を見た。機能停止しているはずなのにじっと俺を見て、ゆっくりと口を開く・・・すべてのネコがまったく同じ動きだ。9匹分の牙がチラリと覗き、シロに粛清された変質者の死体が脳内にフラッシュバックする。むろん、マキちゃんのしわざに違いない。
「ちょちょちょ・・・気分が悪くなったから、外の空気を吸ってくるね・・・。」
俺は逃げるように外に出た。
「もう・・・にーさんの意気地なし。」
ハルの呟きを聞いたのは並んだネコたちと、作業を淡々と続けるウォーリーだけである。
「ハル様、ヘタレなご主人サマですカラ、時間を置くといいかもしれまセンよ。3500年ぐらイ。」
外に出た俺は、その足でプラズマライフルの林に向かった。店にネコを並べただけでもそのうち売れていくだろうが、それだけでは押しが弱い。ここはひとつ、とっておきの宣伝を打ってみようと思う。
「よーしマキちゃん、例のプランを実行するぞ。準備はいいか?」
「・・・。」
「マキちゃん?・・・マキちゃん?」
「・・・ご主人様は、やっぱり、そばに置くなら生身の女性がいいですわね・・・?」
「・・・はい?」
「いえ、なんでもございません。生身かどうか、なんて関係ありませんわね。いつも毒を吐きまくっている私、所有物に過ぎない私が望んでいいことではありませんでしたわ。」
「・・・?よくわかんないけどさ。マキちゃんが一緒にいるのは当たり前だと思ってるし、これからもずっと一緒にいるものだと思ってるよ?なにか問題ある?」
「いいえ、ご主人様。これからも未来永劫、さえないクソダサ根暗クソ野郎のご主人様にお仕えさせていただきますわ。私以外にそんな苦行に耐えられる者は存在しませんもの。」
なんだかわからないが、マキちゃんがご機嫌になったので安心した。他の誰にも分からないだろうが、俺にはクールで無表情なマキちゃんの口角が0.2ミリぐらい上がってるのがわかる。伊達に400年も一緒にいるわけではない。
「それでは、例のプランを実行しますわ。プラズマライフルの木にコマンドを送信。」
しばらく待つと、林の中から1匹、また1匹とネコが出てきて俺の前に整列する。どのネコもすべてシロと同じ機種、同じ装備。模様だけランダムに生成するよう工夫したので、マダラ模様やシマシマ模様、緑や赤青黄色など、多種多様な見た目のネコが出てきては整列していく。その数は全部で40匹になった。これで準備は完了だ。
「よーしお前たち、手はずは分かってるな。散開!」
俺の合図で、ネコたちは一斉に町へ散っていった。あとは待つだけだ。
効果はすぐに現れた。
翌日、ウォーリーと一緒に店番をしている・・・というかお客さんと話すのが怖いので、陰からウォーリーの仕事を見学していると、店にネコが入ってきた。この前、町に放った40匹のうちの1匹である。ネコに続けて、見知らぬ若い女性が入ってくる。
「あら、このお店・・・有名な武器の店じゃ・・・?」
「いらっしゃいマセ。ネコをお求めでスカ?」
「え・・・この子、売り物なの?」
ネコたちにやらせたことは簡単だ。町で好きに過ごすこと。もし興味を持った人間がいたら、店に誘導すること。作戦は成功し、続々とネコに吸い寄せられたお客が来ては、ウォーリーの巧みなセールストークにかかって買っていく。特に自衛に気を使ってほしい、若い女性が多く引っかかる。狙い通りだ。俺?俺は見てるだけだよ。知らない人と話すの嫌じゃん。若い女性とかマジ無理。
ネコは1匹5万ボル。原価はタダみたいなものだし、たくさんの自衛が必要な人に使ってほしいので安くしたいが、安すぎるとぞんざいに扱われそうなので少し高く、でも誰でも手が届きそうな価格にした。少し高いかと思ったが続々と売れていき、わずか10日で50匹は売れた。町で見かけたネコを気に入ってそのまま買う人も多いので、町に放つネコは適度に補充している。
すでに順調すぎるほど順調だったが、さらに売れ行きに加速がつくことになる。町中で強盗事件が起きたのだ。
銃を乱射する過激な集団による犯行だったが、事件はあっという間に解決した。しかも死傷者ゼロ。人に命中する寸前の弾丸をすべて近くにいたネコが代わりに受け、強盗団はわずか数秒で近くにいたネコたちに鎮圧された。もちろんネコはダメージを負ったがどれも死ぬほどではなかったし、強盗団も多少のケガだけで、死者もなく無力化された。なるべく武器と衣服だけを破壊するようにネコに教えておいた成果だ。治安維持部隊が駆けつけた頃には、全裸で震える強盗団と、それを囲む野良ネコの群れという謎の絵面ができあがっていたそうな。
この活躍は瞬く間に噂になり、ランスさんの店の前にはあっという間に長蛇の列ができるようになった。これでは銃器を買いに来たお客さんに迷惑なので、ナナとウォーリーに頼んで庭の空きスペースに掘っ建て小屋を作ってもらい、そこでネコを販売するようになった。店員はガイとハル・・・俺?俺はだってほら、オーナー的な、なんかそういう・・・アレじゃん?人と話すの怖いじゃん?
ネコの販売開始からわずか1か月。すでに販売したネコは1000匹を超え、俺はあっという間に金持ちになった。町中でネコを見かけるようになり、治安がとても良くなったそうだ。また、発掘中の事故や、野盗やナマモノに襲われて亡くなる人も減ったらしい。
「アニキ、マジでハンパねぇッス。一生ついて行くッス。」
「いやいや、ガイのアイディアのおかげだよ・・・マジで。」
「にーさん、そろそろ店員を増やそうよ。アタシたちだけじゃ限界だよ。」
「ああ、今、ランスさんの知り合いからテナントを借りる話を(主にマキちゃんが)進めてて・・・。店員も雇って、ちゃんとした店にするよ。いつもありがとうね。」
「んーん、にーさんの役に立てるならいいんだけどさ。・・・あ、でもちょっと休憩したい時はあるよ。にーさん、たまにお客さんの対応代わってくれる?」
「えーっとほら、俺はアレじゃん?オーナー的な・・・。」
「・・・。」
「知らない人と話すの怖いじゃん・・・。」




