狙撃
「もうそろそろッスよ・・・オレの情報によれば、このあたりが人型ロボットの群れがよくいる狩場ッス。」
運転席のガイが、ハンドルを操作しながら言った。俺たちは今、ハルの家のジープに乗って、町から20キロほど行ったところにある山岳地帯に来ている。周囲は相変わらず草の1本も生えていない荒野である。山岳地帯と言っても巨大な岩山が左右にそびえ立っているだけで、茶色く乾燥した風景なのは荒野と変わらない。岩山の間を通り抜けるように走っているのでとても見通しが悪く、いきなりナマモノが飛び出してくるんじゃないかと不安になる。
助手席の俺がなんとなく振り返ると、いつものように座席に立って周りを警戒しているハルと、車のふちに頭を乗せて景色を眺めるナナとクロが見える。2人とも車が新鮮なのか、飽きずに黙って車外の退屈な景色を眺めていた。
「なんにもないところだね・・・?ホントに、このあたりに人型ロボットの群れがいるの?」
いつものボロマントを風にはためかせながら、ハルが言う。
「間違いないッス。ほら、この端末を見てください。」
ガイは右手でハンドルを握りながら、左手でタブレット型の端末を掲げた。地図が表示されていて、設定されていた目的地がこの周辺であることがわかる。
「これ、ハンターの友達から貸してもらった端末ッス。この端末のとおりに行けば、必ず人型のロボットの群れを見つけられると言われてます。」
ハンターが仕事で使っていた端末だろうか。狩場の情報が入った端末なんて、ハンターにとってはお金に変えられないほど大切なものに違いない。そんな大事なものを貸してくれるなんて、よほどガイは信用があるらしい。見直したぞ。
「それはすごいな。そのハンターの友達とガイは、付き合い長いのか?」
大事な仕事道具をポンと貸してくれる相手だ。きっとガイと長い付き合いの親友なんだろうな。
「いえ、酒場で3回ぐらいカードをやったことがあるだけですね。名前もよく覚えてないッス。」
「「えっ?」」
俺とハルの声が重なる。
「・・・じゃあ、どうやってその端末、貸してもらったんだ?」
俺の質問に、ガイは得意になって答えた。
「簡単ッスよ!ヤツはオレにカードで負けまくったせいで、払いきれないぐらい借金があるんです!その話をチラつかせたら、すぐ貸してくれましたよ!」
なんだか急激にゲンナリしてきたぞ。嫌な予感がプンプンする。振り返ると、ハルがさっきよりも熱心に周りを警戒しているのが見えた。
「どうしたんスか、2人とも・・・なんだか静かになっちまって。おっと、急なカーブッスね。」
見通しの悪いカーブに差しかかり、車が大きく減速した。次の瞬間。チュンッ!と風をきる音がしたかと思うと、運転席のガイの頭の上に、いつの間にか後部座席にいたはずのナナが乗っていた。ガイの目の前に手を伸ばし、何かをつまむようなポーズのまま止まっている。
・・・ナナの指先をよく見れば、うっすら白煙を上げる弾丸がつかみとられている。
「えへへー!だんがんキャッチしちゃった!」
ナナが得意気に笑い、マキちゃんのよく通る声が響いた。
「ナナが狙撃を妨害しました。皆様、頭を低くしてください。」
何者かによる突然の狙撃。それは極めて正確で、冷静な攻撃だった。1発目を妨害されたと理解するが早いか、すぐに2発目が発射され、ジープが大きく傾く。タイヤを撃たれたのだ。カーブ中にバランスを崩した車体は遠心力に従い、カーブの外側に向かって横転する。
だが、ナナの方も負けてはいない。ボディガード用アンドロイドとして作られたナナは、このような状況でこそ真価を発揮するのだろう。車がまさにひっくり返る瞬間、その小さな手でハルとガイを左右に抱え上げてジープを飛び出した。おとーさん、ごめんね、という呟きを残して。物理法則に従って、俺の身体は車外に投げ出される。シートベルトって大事だよなぁ。スローモーションに見える視界。クロが自立兵器らしい滑らかな動作でジープを脱出しているのが見えた。
マキちゃん・・・やっぱり保護優先順位・・・おかしくない・・・?身体が岩山にぶつかる衝撃。視界が暗転する。
「ご主人様、受け身くらいとってくださいな。」




