狩人
キリが悪いので今日はもう一話更新しときます。
「そうっスね・・・この町には、ツクリモノのロボットを扱ってる職人っていないんですよ。なにせコーキューヒンですからね。首都まで行けば絶対売ってますけど。まぁ発掘するか、ナマモノを狩るしかないんじゃないッスか?」
ロボットを売ってる店とか知らない?とガイに聞いてみたところ、こんな答えが返ってきた。ガイはここのところ毎日ハルの家に顔を出しては、特になにをするでもなくブラブラと過ごして帰っていく。ハルに会いに来てるのかと思ったが、本人が言うには、どうも俺に会いに来ているらしい・・・俺にそういう趣味は・・・ないんだけど・・・。
「ご主人様、脳内物質の大きな乱れを検知しました。グレートウォール戦以来の恐怖を感じてらっしゃいますが、どうかしまして?」
「いや、なんでもないよ・・・なんでも・・・。」
それより色々と気になるキーワードが出てきたぞ。
「ガイ、首都ってなに?」
「首都ッスか・・・まぁ、大きな街ですよ。むちゃくちゃ人がいて、モノリス遺跡みたいな建物がいっぱいで、空飛ぶ乗り物とか飛んでて、それからセーフがあって、偉い人がルールを決めたりしてるッス。」
「セーフ?」
「ご主人様、僭越ながら『政府』のことかと。」
「ああ政府ね・・・政府があんの⁉︎」
「そッスよ?そんで首都にはなんでも売ってるッス。ちなみにこの町から首都に行くなら、ジープでまっすぐ行って何もなければ1ヶ月ぐらいッスかねぇ・・・。オレも、子どものころにじーちゃんの仕事で連れてってもらったことがあるだけッス。あの時は100人ぐらいの武装したキャラバンについていったんですけど、途中で超でかいロードローラーに襲われて大変だったッス。とにかく超でかい街ですよ。死ぬまでにもっかい行きてえなぁ。」
首都か・・・そのうち行ってみよう。ひょっとしたらこの町ではわからないことも、首都に行けばサクサクわかっちゃうのかもしれない。トラクターが襲ってくる理由とか、俺に何が起きたのか、とか、その他もろもろ。話が脱線してしまった。俺は今、適当なロボットが欲しいだけなのだ。もちろん、庭先に転がしてある上半身だけのロボット、ウォーリーをどうにか動けるようにするためである。
はじめは壊れたウォーリーに下半身と電源を取り付けてやればいいと思っていたのだが、話はそう簡単ではなかった。まずウォーリーはでかい。でかすぎる。下半身なしで重量が1トンもあるので、生半可な下半身では耐えられない。仮にちゃんと動ける下半身を付けたとしても、それでは大きすぎて室内に入れない。それに彼の両腕には大型のレーザー砲と超電磁砲という、店番をするのに最も必要ない重火器が2つも装備されている。今のボディでは店番をするどころか、客に戦争でも始めると勘違いされかねない。
「にーさんにーさん、例のプラズマライフルの林でロボット作れないの?クロだって、プラズマライフルの木から作ったんでしょ?」
いつの間にかハルが隣に座って言った。今、俺たちはハルの家の庭にある、簡素なテーブルセットに座っている。陽射しが強いのでパラソルが必須だ。横に目を向けると、ナナとクロが元気に追いかけっこしているのが見えた。こらナナ、垂直に15メートルぐらいジャンプするのやめなさい。ご近所の人が腰を抜かしてるぞ。
「できれば、ちゃんと人間と同じような手足があるロボットがいいんだよね。アンドロイドみたいに精巧で、見た目が人間そっくり!っていう必要はないんだけど・・・。プラズマライフルの木からはバリバリの兵器っぽいものは作れるんだけど、店番できそうなデザインのロボットは今のところ作れないんだ。」
「じゃあ、やっぱり狩りか発掘ッスね。ハンターの友達に、人型ロボットがいそうな狩場を聞いてきますよ。」
それだ、気になるキーワード2つ目。発掘はわかるけど、狩りってなんだ。ハンター?
「え?狩りは狩りッスよ。ナマモノの機械を狩るんです。単純に人型のロボットなら、そんなに群れを探すのも難しくないんじゃないかな・・・。」
人型のロボットが群れを作って歩いてるのか?何を食べてるんだ?繁殖とかどうしてるんだ・・・?疑問がとめどなく湧いてくるが、話が脱線しまくって収拾がつかなくなるのでやめておく。この世界でナマモノを扱うテレビ番組があったら毎週欠かさず見る自信がある。もっともテレビというものを見たことがないけど。きっとどこかに野生のテレビもいるんだろうな・・・。
「ガイ、にーさんは記憶がアレだから、時々常識がないの。ハンターっていうのは、ナマモノの狩りを仕事にしてる人だよ。」
ハルが説明してくれる。常識なくてすみません。うん、だいたい予想通りだったけど・・・なんかイマイチ想像できない。ゲームみたいに、獲物から剥ぎ取った素材で装備を強化とかするんだろうか。
「ハンターといっても、主に狩っているナマモノによって色々なハンターがいるんですよ。トランシーバードッグみたいな小型のヤツを狩るハンターが一番多いッスね。リスクが少ないんで。反対に一攫千金狙いで、でっかい重機を追って荒野を移動しながら生活してる人たちもいるッス。で、普通は年寄りになると、うちのばーさんみたいに植物ばっかり採ってきますね。サイフとか、弾丸とか、トイレットペーパーとか・・・。」
植物の例えを聞いても全然植物とってる感じがしない不思議。ちなみにサイフってのは電子マネーを入れるカードだったっけ。弾丸やトイレットペーパーが実際に生えてるところも見てみたいものだ。俺が一生懸命にガイの話を理解しようとしていると、ハルがガイに疑問をぶつけた。
「ガイ、アタシ思うんだけど、ハンターの人は狩場なんて教えてくれないんじゃないの?仕事の生命線になる情報でしょ?」
そりゃそうだ、狩場といったらハンターの仕事にとても重要な情報だろう。俺達のような素人に知られて、狩場を荒らされたらたまらないはずだ。そうやすやすと教えてくれるわけがない。
「まぁハルさん、ちょっと待っててくださいよ。オレはこれでもこの町じゃ、ちょっとしたモンですよ?・・・それじゃ明日の朝、狩場の情報を仕入れてここに来ます。」
ガイはなんだかウキウキしながら立ち上がり、楽しげに駆けて行った。期待してもいいのだろうか。ハルもどこまで信用していいのかわからないようで、俺と目を合わせると黙って肩をすくめていた。まぁ、とにかく明日まだ待ってみるしかないだろう。ふたりきりになった俺とハルは、またのんびりとお茶を飲みながらお喋りをして楽しく過ごした。
そういえばナナとクロはどこいった?ふと庭の端っこに目をやると、大変なことに気がついた。
「ナナ、クロ!庭に深さ20メートル以上の穴を掘るのはやめなさい!」




