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爆発

「おねーさんはだあれ?ナナは、ナナだよ!」


ホログラムのマキちゃんに気づいたナナが言った。俺とナナは今、倉庫の中を手をつないでゆっくりと歩いている。ふたりの間にマキちゃんの小さなホログラムが浮かんで、丁寧にお辞儀をした。


「はじめまして、ナナ。私はご主人様の永遠の奴隷で所有物、メイド型アンドロイドのマキと申します。今は身体がありませんが、あなたと同じアンドロイドですわ。」


「じゃあナナのせんぱい!・・・マキせんぱい?」


「そうですね・・・私のことは、お母さんとお呼びなさい。」


「いきなり何言ってんだマキちゃん?」


「はい、おかーさん!」


「受け入れ早ッ!」


ナナはキャッキャッと嬉しそうに跳ねている。なにこれどうすんの。すると倉庫の出入口の方から、ハルとガイ、それとクロがやってきた。俺たちがまっすぐに倉庫の奥に向かったので、様子を見に来たらしい。


「にーさん、すごいよこの倉庫!ここにあるものを売るだけで、人生10回は遊んで暮らせそう・・・って、その子は誰?」


「おねーさん、はじめまして!ナナは、おとーさんとおかーさんの子どもの、ナナだよ!」


ナナは楽しそうにぴょんぴょん跳ねながら自己紹介する。・・・その設定、もう取り消しできない感じ?


「アニキ、マジパネェーッス。少し目を離した隙に、倉庫の暗がりで聖霊様と子どもを作ってくるなんて・・・一生ついて行くッス。」


「ちょっ違・・・ガイ、マジで黙ってて。」


ハルから刺すような殺気を感じて、グレートウォールとやりあった時以上の恐怖に包まれる。さすがはランスさんの娘、マジパネェーッス。しかもマキちゃんはニコニコしているだけでなにも弁解しない。マジパネェーーーーッス。俺は慌てて誤解を解き、どうにか場を収める。ハルは少し不機嫌だったが、ナナが「ハルおねーちゃん?」と呼びながら、必殺あまえんぼパーソナライズを繰り出したのですぐに打ち解けた。というかナナのかわいらしさにメロメロである。いつの間にか、ハルはお宝そっちのけでハルと楽しそうに話をしていた。


「ナナちゃん、もう1回おねーちゃんって呼んで!」


「ハルおねーちゃん!」


ナナがハルの名を呼びながら、軽くジャンプして抱きついた。もうハルはほんど鼻血を出さんばかりに興奮している。


「ひゃああああああかわいいいいいい!」


「あの、俺のこともガイにーちゃんって呼んでほしいな・・・。」


「あ?ガイ、なにか言った?」


「いえ、なんでもありません。」


楽しそうで何よりである。しばらくこうしてのんびりしたいところだが、帰りの準備をしなくては。俺は手を叩いてみんなに宣言した。


「さて、そろそろ帰る時間だよ。全部運び出すわけにも行かないから、持てるものだけ持っていこうか。持てない分は、引き続きウォーリーに警備しててもらえば安心だ。」


俺の提案に、ハルも賛成してくれる。しっかりとナナを抱っこしながら言った。


「それはいーね。どのみちここにあるものは貴重すぎて、簡単にはさばけそうもないし。売る相手を探すか、首都まで行って売るか・・・。まー、アタシはナナちゃんがいればなにもいらないけどね!」


「うれしー!ハルおねーちゃん!」


「うひゃあああああかわいいいいい!!アタシなにか新しい扉を開きそうううう!!」


ナナがハルの頭を両腕で抱えるように抱きしめて、ハルはナナを抱っこしたままグルグル回って喜んでいる。出会って数分なのに、2人はまるで姉妹のようだ。その時、マキちゃんとナナ、それとクロ・・・AIの2人と1匹が同時に何かに気づき、顔を上げた。人間にはわからない危険の兆候を察知したのである。


「皆様、残念ですが回収できるお宝は、今持てる分だけになります。すぐに出口に向かって走ってくださいませ。」


「え、なに?なにごと?」


マキちゃんの唐突な発言に、俺を含めた3人の人間が混乱する。


「グレートウォールの電源装置が倉庫内にある、とお話ししたのを覚えてらっしゃいますか?」


「ああ、そういえばそんなこと言ってたっけ。それがどうした?」


「まもなく爆発します。もともと予備電源的な装置でしたので、3500年間メンテナンスなしで動作した結果、暴走状態に入っています。」


嘘だろ。こんなにお宝があるのに?ここが爆発?


「なんとか・・・止められないの?それ。」


「先ほどから制御操作をしているのですが、まったく応答しません。おそらくウォーリーのシャットダウンがトリガーになったものと推測されます。1分以内にこのフロアのすべてを消し飛ばす威力で爆発すると予想されますので、足元にお気をつけて、お早めの避難をお願いいたします。」


マジでか。俺たちは一斉に、弾かれたように走り出した。走りながら、各々が目をつけていた適当なお宝を引っつかんでいく。取り損なって床に転がったものもあるが、いちいち拾っている時間はない。まもなく前方に倉庫の出口と、停止しているウォーリーが相変わらず天井からぶら下がっているのが見えてきた。このままだと、あいつも爆発に巻き込まれて消滅してしまう。実はいいヤツだし、これからも働いてもらうと約束した手前、なんとか助けてやりたいが・・・。


「マキちゃん、なんとかウォーリーを脱出させることはできない?」


俺は走りながら、マキちゃんに助けを求めた。


「完全に天井に固定されております上に、見えている部分だけでも1トン近い重量がありますから・・・そうですわ、ナナ!」


「はい、おかーさん!」


ナナとマキちゃんの間には、すでに無線通信のリンクが確立している。リンクを介して、言葉にしなくても直接意図を伝えることができるのだ。元気よく返事をしたナナは爆発したかのような勢いでウォーリーと天井の接合部分にジャンプすると、そのまま素手で横薙ぎに叩き切った。はた目にはただのチョップに見えるが、実際にはプラズマパルスを手の表面にまとわせたプラズマ切断だ。頑強なウォーリーの装甲は紙のように切断され、天井から切り離された巨体が轟音とともに地面に落ちた。


「おもいから、ナナがもっていくねぇー!」


ナナは着地と同時にウォーリーの胴体下に潜り込み、両手で頭上に掲げながら走り出した。当然だが、ナナの小さな身体では巨大なウォーリーの全身を持ち上げることはできない。身体のほとんどの部分を引きずり、火花を散らして駆けていく。ウォーリーは1トン近くあるとのことだが、ナナが走る速度は誰より速い。


俺たちは滑り込むようにエレベーターに駆け込んだ。ウォーリーのボディが横たわっているせいでエレベーター内は異常に狭く、重量オーバーのブザーも鳴っている。全員が滑り込んでドアが閉まると同時に、凄まじい爆発音と振動が俺たちを襲う。電灯がチカチカと点滅し、階層表示がめちゃくちゃに変わる。しばらく身を寄せあって生きた心地のしない時間を過ごした後、エレベーター内はまた明るく、通常の状態に戻った。


「10階はフロア全体が複合装甲で覆われておりますから、他のフロアへの影響は軽微でしたわね。もう安心ですわ。ナナ、よくできました。」


「えへへー。おかーさんにほめられちゃったー。」


クロもナナにじゃれつきながら、ワフッと吠える。落ち着いているAIたちを余所に、人間たちは息も絶え絶えであった。


「し・・・死ぬかと思った・・・川の向こうでじーちゃんがケーブル振ってるのが見えた・・・。」


「にーさんといると、しょっちゅう死にそうな目にあうね・・・。」


いや、別に俺のせいってわけじゃ・・・。


建物の外まで出ると、もう夕日が沈み始める時間だった。カビ臭いビルの空気を吐き出して、乾いた荒野の空気を思い切り吸い込む。まだまだ暑い陽射しを浴びて、生きて帰ってきたという実感に包まれた。ビルを出てすぐの広場で、なんとか持ち出せた数少ないお宝を確認することにする。ハルもガイも獲物はすべて俺のものと言ってくれるが、俺は適当に山分けするつもりである。みんな死にかけたんだから、それくらいの権利はあるはずだ。


「俺は、この高性能な端末だよ。これがあれば、マキちゃんにも負けないハッキングができる。」


俺は手のひらサイズの小さな端末をみんなに見せる。小さくて軽量だが、超高速な量子コンピュータである。これまではマキちゃんに頼りきりだったが、これさえあれば俺もハッカーらしい活躍ができるだろう。マキちゃんとガイはあまりピンとこないのか、ぽかんとした表情で聞いていた。


「アタシは最初に見つけたAIチップがたくさん入った箱だね。アタシ的には使い道は特にないけど、売れば当分は遊んで暮らせるよ。」


ハルはアタッシュケースのような取っ手付きの箱を地面に置いて、開けて見せた。中には黒くて四角いチップが1つずつ透明なケースに入れられて、びっしりと並んでいる。なるほど、さすがハルは発掘慣れしていて狙うべきものがわかっている。これは俺とハルの取り分がそれぞれ45パーセントずつ、残りをガイに分けてやる。


「自分は、このケーブル生成器です。これがあれば、どんなケーブルでも思いのままに生成できるという夢の機械ですよ!」


ガイは一抱えもある大きな機械を誇らしげに掲げた。ガイ・・・ブレないな・・・。それはお前にやるよ。ガイはこんな最高すぎるもの、いただけません!と頑なに拒否したが、試しに色々なケーブルを生成して見せたら「いつか倍にしてお返しします」と言って受け取った。何が倍になるんだろう。


「ナナはねー、このおっきなロボット!」


ナナは自慢げに、ウォーリーの巨体を持ち上げた。偉いぞ、ナナ。というか今回の1番の収穫はナナ自身だな。まさか自分に娘ができるとは思わなかった。


収穫は上々だ。そろそろトラックのところまで移動しようかと思っていると、クロが俺の身体を鼻でツンツンと突っついた。


「・・・ん?クロも何か回収できたのか?」


クロは尻尾を振りながら、口にくわえていたものをペッと吐き出す。


「これ・・・これって・・・」


思わず笑ってしまった。なんでわざわざ回収してんだ。


「ご主人様、それは・・・ふふっ。」


マキちゃんも思わず笑った。


クロはワフッと吠えて、シッポをブンブン振っている。ガシガシと頭を撫でてやると、満足してハルの隣に戻っていった。


クロが回収したのは、ウォーリーに使用した古びたドライバーだった。

高性能端末

ウォーリーの残骸

たくさんのAIチップ

ケーブル生成器


を 手に入れた! ナナ が なかまになった!


次回でモノリス遺跡編終わりです。

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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