ナナ
「お父さんとは・・・またずいぶんマニアックな呼び方だな・・・。」
幼女型アンドロイドを見た俺が思わずそう言ってしまったのには理由がある。アンドロイドというのは通常、何らかの仕事をさせるために作られるものだ。そうであれば当然、身体の大きさは大人サイズになる。子どもサイズのアンドロイドでは手足が短くて不都合が出る作業が多いのだ。例えば乗り物の運転をするにもアクセスとブレーキに手が届かないし、高いところのものを取るのにいちいち踏み台が必要になってしまう。
このような幼女型のアンドロイドを注文するのは金持ちの小児性愛者、マキちゃん風にいうところのクソ変態ロリコンクソ野郎だけである。そのアンドロイドに「おとーさん」と呼ばせる初期設定を施すとは、マニアックすぎるというか業が深いというか・・・せめて「おにいちゃん」とかそういうのだろ・・・。極めてノーマルな自分からすると、軽くめまいを覚えるレベルのマニアックさだ。その時、俺の考えを察したマキちゃんから解説が入る。
「ご主人様、この機体の由来は、お考えになっている事情とは少々異なります。」
「え?そうなの?」
「はい、これは極めて強力な、ボディガード用に作られたアンドロイドですわ。」
「・・・なんだって?」
幼女はこちらを見て首をかしげた。腰まである長い髪がふわりと揺れる。この可愛らしい子がボディガード?
「注文主は、政府の極めて重要な地位にいた男性。テロで失った娘をモデルに、自身のボディガード用としてこのアンドロイドを注文したと記録にございます。ボディガードであれば、いつも娘の似姿と一緒にいられるという考えだったようですわね。もっとも納品の前に、注文主もテロでこの世を去ったようですが・・・。」
なんか思ったより真っ当な理由だった。恥ずかしい。穴がなくても自力で掘って入りたい。すると、幼女が再び口を開いた。
「おとーさん、おとーさん?・・・あなたがナナのおとーさん、でいいんだよね?」
「えーっと・・・うん、そうだよ。よろしく、ナナ。」
「えへへー!おとーさん!だっこして!」
ナナと名乗った幼女はカプセルから勢いよく飛び出すと、俺の胸に飛びついた。小さい子を抱っこした経験はほとんどないが、それでもこの子が軽くて温かくて柔らかく、普通の人間の子どもと区別がつかないほどよくできたアンドロイドなんだというのはわかる。
「・・・この子が強いって?嘘でしょ?」
「いいえ、少なくともデータ上では、ほとんど戦略兵器並の戦闘能力があるようですわ。全身の数カ所にプラズマパルスの放射機能が付いており、シールド状のプラズマ防護膜を展開すればあらゆる攻撃を無効化できますし、また近距離であればほとんどすべての物質を破壊できます。火器管制機能も高く人間が扱える火器がほとんど全て扱えるのに加えて、単純な出力も高く片手で戦車を3台持ち上げることが可能です。」
「なにそれこわい。」
「えへへー。おとーさん、けっこう若いんだねー!もっとおじさんかとおもってたー。」
ナナは抱きついたまま、俺の顔を見上げている。
「・・・だっこしても軽いし、かわいいんだけど。」
「ご主人様、かわいらしさと戦闘能力はあまり関連しません。ちなみに体重は500キロありますわ。軽く感じているのは、髪の毛先からプラズマパルスを放出して体重を軽減しているからです。」
「500キロ・・・500キロ⁉︎」
「おとーさん、おんなのこのたいじゅうをおおきいこえでいっちゃダメ!」
ナナは怒りながら、ぐりぐりと俺の身体に頭を押し付けている。
「あのナナ・・・ちょっと離れてくれない?いや、嬉しいんだけどね?」
「ちょっとまっておとーさん・・・はい、おとーさんの『あまえんぼパーソナライズ』がかんりょうしました。はなれるね!」
どうやらあの抱っこして頭ぐりぐりは、俺の生体データを取得して主人として登録する作業だったらしい。なんなんだあまえんぼパーソナライズって・・・。ナナは俺を離れて地面に降りると、ナチュラルに手をつないできた。とても小さくて、温かい手だ。その様子を見ていたマキちゃんが、神妙な顔で呟いた。
「なるほど、『あまえんぼパーソナライズ』・・・。ボディを手に入れた際の参考にさせていただきますわ。」




