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詐欺ハック

「貴様、いツの間に!イつからそこにいた⁉︎」


グレートウォールが驚き振り返ると、そこにいたのは光学迷彩を解き、姿を現したクールな天才ハッカー。つまり俺だ。ヤツは右腕でガイを狙ったまま、左腕の銃口を俺に向ける。前後を俺とガイに挟まれる形だ。油断なく頭を動かし、俺とガイを交互に見ている。ガイは腰を抜かして床に座り込み、床に黄色い水たまりを作った。


『ご主人様、一体どういうおつもりですか⁉︎作戦成功率が0.0000003パーセントに低下しました。大急ぎで遺書をしたためることをオススメいたします。』


本当に俺はどういうつもりなんだろう。身体が勝手に動いたとしか言いようがない。その証拠に今、激しい後悔に襲われている。泣きたい。だがその反面、頭では冷静に次の一手を考えていた。


「ようグレートウォール、初めまして。俺はお前の新しい管理者だ。よろしくな。」


なるべく平静に、クールに、ポーカーフェイスで。


「ナニヲ言ってる?不法侵入者と断定、攻撃スル。」


「まぁ待て、お前はかなり深刻な不具合を起こしてるんだ。マキちゃん、俺のIDを表示して。」


マキちゃんがホログラムで表示したのは、俺がこのビルの最高管理者であるという電子証明書だ。ご丁寧にも、さっき管理者になったばかりなのに表示上の着任時期は1年前になっている。さすがマキちゃん、芸が細かい。証明書のデータを検証されればすぐにバレるだろうが、グレートウォールはハッキングを警戒して電子的な通信インタフェースを持っていないらしいので平気だろう。


「このビルのルート権限保持者・・・ダト・・・?それ二、ワタシに不具合・・・?内部エラーは確認できナイ。そんなコトはアリエナイ。」


よしよし、揺さぶられてるな。とりあえず問答無用で消し炭にされなくてよかった。それだけで第一関門突破と言っていい。


「なにがアリエナイって?実際に、俺が声をかけるまで、お前さんは俺の存在を検知できなかったじゃないか。これが不具合の証拠じゃないとしたら、なんだっていうんだ?」


「ヌ・・・ヌヌヌ・・・。」


不具合じゃなくて俺の努力の成果だな。大変だったんだぞ。


「シカシ・・・我には管理者変更の通達ハ届いてイナイ・・・ソレは間違いナイ。オマエはビルの管理者かもしれないガ、ワタシは独立したシステムでアリ、ビルの管理者権限にはシタガウ義務もナイ。」


「あのな・・・最後にお前にこの倉庫の防衛命令が下ったのはいつだ?」


「・・・3500年マエ、デアル。」


衝撃の回答に、思わず驚きが顔に出そうになる。3500年⁉︎せいぜい数百年だと思ってたのに、3500年?コイツは少なくとも俺の知ってる文明の遺物だろうから、俺も同じような期間眠っていたということだろうか。色々と聞きたくなるが、今はその時ではない。まだ死の危険が去ったわけではないのだから。


「そ・・・そうだ、3500年だよ。その間、1度もお前のメンテナンスは行われてない。そうだな?」


「ソウダ・・・誰も、来なイ・・・不法侵入者以外ハ・・・誰モ・・・。」


「違う。それは違うぞ。たくさんの技術者がお前を修理しようとやってきていたんだ。だが、お前はバグでその人たちに攻撃してしまった。それがあの通路の死体の山なんだ。」


「!!!!・・・そんナ、そんナバカな!ウソダ!」


そこで死んでる不法侵入者のみなさん、利用してごめんね。


「信じたくない気持ちもわかる。だが冷静に考えてみろ。3500年もこの貴重品倉庫が放っておかれるわけがないだろう。実際にはそんなに経ってないんだ。不具合のせいで、長い時間が経過したと思い込んでいるんだよ。お前は悪くない。ただ、お前の中の深刻な不具合が悪いんだ。だから俺に、お前を直させてくれ。」


「ア・・・ア・・・。シカシ、ココを守ル・・・それが命令デアル・・・。」


効いてる効いてる。やはりいきなり背後に出現したのが功を奏したな。自分に不具合があると疑わせるのに十分な演出だったはずだ。わざわざ自分から存在を主張したのも効果的だったろう。敵だったら、わざわざ発見されるようなことはしないからな。ここでダメ押しだ。


「バカ野郎!!」


「!!!」


かなり大きなロボットであるグレートウォールが、ちっぽけな俺の大声でビクッと身体を揺らす。なんだか楽しくなってきたぞ。


「なんのためにお前にAIが搭載されていると思ってんだ!!自分で考えて、柔軟に判断するためだろうがっ!!ただ守るだけなら、固定砲台でも置いときゃいいんだよッ!!!違うかっ!!!!」


「ソ・・・その通りダ・・・!!ダガ・・・ダガシカシ・・・。」


俺はふっと表情を緩め、先ほどとはうって変わって優しい声色で語りかける。


「お前はよくがんばった・・・だが、少しだけ修理が必要なんだ。俺に修理させてくれよ、なぁ『ウォーリー』?」


効果はばつぐんだ。グレートウォールは俺とガイを狙っていた武器を下ろし、カタカタと震えはじめた。そのままググッと俺の方に顔を近づけてくる。


「なゼ・・・ナゼ、我の愛称を知っていル・・・⁉︎製作者と管理者のふたりしカ、知らなイはずなノに・・・!!」


「お前の管理者とは、遠い親戚でな・・・。いつもお前のことは聞いていたよ。『ちょっとマジメすぎるけど、とってもいいヤツで、家族みたいに思ってる、ってな・・・。フッ。」


やべっちょっと笑いそうになってフッとか言っちゃった。本当は、コネクタカバーの脇に落書きで「I LOVE WALLY」って書いてあるのを見つけただけなんだ。製作者か管理者のイタズラ書きだな。なんていうか、すごくごめんよ。


「イワれてみれバ・・・お前のカオ、確カに、面影が、あル・・・。オオ・・・オオオ・・・!!!」


いや、他人だから面影はないと思うよ。なんかものすごく悪いことをしてる気がしてきた。グレートウォール、いやウォーリーは、頬をすり寄せるように、俺の顔に頭部を押し付けてきた。もうどこからどう見ても完全に落ちている。こいつに涙腺があったら号泣してるだろう。


「さぁウォーリー、メンテナンス用のコネクタを見せてくれ。さっそく修理しよう。」


「ま・・・マテ。待ってくレ。」


おっと、まだなにかあるのか?もうこっちには切れるカードが残っていないので、ちょっと焦る。


「我は・・・我はまた、何かを守ルことができルのだろうカ?人ノ役に、立てルだろうカ?」


「もちろんだ。修理が終わったら、今度は俺のために働いてくれ。お前は地上最強の番人なんだ。頼りにしてるぞ。」


ウォーリーは小さくうなづくと、消え入りそうな声で「お願いしマす」と言った。それから俺に背中を向けて、脱力する。今度は休止状態ではなく、メンテナンスのために完全に機能を停止したようだ。


・・・終わった。行き当たりばったりだったが、グレートウォールを機能停止させることに成功しのだ。大きく息を吐く。ちょっと膝がガクガクする。さすがに管理者の親戚とか言いすぎた。すげー調子こいた。ボロが出なくて本当によかった。


「よっしゃマキちゃん、コネクタカバーを外すから、ハックしてウォーリーの主人を俺に書き換えてくれ。」


今のままでも大丈夫そうだが、いちおう安心しておきたい。今度はコソコソせず、堂々とドライバーを使ってネジを回す。外れたネジはその辺に放り投げる。呼吸だって吸い放題、吐き放題だ。


「マキちゃん、マキちゃん、どうした?聞いてる?」


「ああいえ、はい、承りましたわ・・・。誰も死なず、対話だけでグレートウォールを無効化した手腕もお見事です。しかし・・・」


「え?なに?かっこよかった?」


「やり口の汚さに軽くげんなりしたというか・・・完全に詐欺師でしたわね。クソ詐欺師クソ野郎のご主人様。」

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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