決着
「そんな、マキちゃん・・・嘘だ・・・。」
コピーはマキちゃんの姿を見て、ワナワナと震えている。そんな彼に、マキちゃんはいつものように完璧な礼をしてみせる。
「コピー様・・・そろそろ幕引きにいたしましょう。」
「そうか、さっきのハッキングはこのために・・・!」
そう、さっきの0.5秒だけ成功したハッキングは、サリーを助けるためのものではない。コピーの「絶対領域」の力を利用して、新しく『成果物Ver.3723』を生成させるためのハッキングだ。作戦は成功し、気づかれないようにこっそりとヤツの背後に生み出した『成果物Ver.3723』にマキちゃんは無事にインストールされた。
これで戦力は五分五分・・・いや、マキちゃんはプラズマライフルの木のスペシャリストだ。こちらのほうが有利と考えていいだろう。
「こんな・・・こんな・・・。」
コピーは地面にへたり込み、ズルズルと後ろに下がっていく。そんなコピーから目を離さないようにしつつ、マキちゃんは静かに俺の背後に回った。とばっちりで俺が死なないように守ってくれるのだろう・・・なにせ俺は弱いからね!
ふわりとマキちゃんのいい匂いがする。やっぱり物理的にマキちゃんが存在するとアレだな・・・ヤバいな・・・あの、アレがアレで、色々と・・・ヤバいな(2回目)。
「マキちゃん・・・君はそいつに騙されているんだ・・・そいつさえ、そいつさえいなければ・・・。」
病的につぶやかれるコピーの言葉を、マキちゃんは真っ向から否定する。
「いいえコピー様。私は騙されてなどおりません。私はわたしの意思で、このクソドMクソご主人様を愛しているのですわ。」
おおう・・・照れるな・・・。正直、もうコピーとかどうでもよくなりつつある。そんなことよりマキちゃんいいにおーい。
「嘘だァァァァァァァ!!!!!!!」
絶叫とともにコピーの周囲に無数の銃器が現れ、そして一斉に弾丸が発射された。マキちゃんもろとも撃ち殺そうとするなんて、ずいぶん錯乱している。
「ご主人様、大丈夫ですわ。私がそばにおります。」
一瞬ヒヤリとしたが、もちろん俺たちは無事だ。飛んでくる弾丸は次々と命中する前に消滅し、プラズマ弾やレーザーはマキちゃんが空中に生成する装甲板が勝手に防御してくれる。
マキちゃんの周囲3メートル。それはおそらく、地球上で・・・いや、銀河系で一番安全な場所。
無我夢中で攻撃しているせいだろうか、コピーの身体がふわりと宙に浮き上がった。俺とマキちゃんも、それにあわせてふわりと宙を飛ぶ。空中で戦ったほうが、地上のウォーリーたちを巻き込む心配も少ないだろう。
ふいに、俺の頭を後ろから、柔らかいものが包んだ。それは背後に立つ、マキちゃんの豊かな胸だ。彼女は俺より少しだけ高く飛んでいるのか、後ろから俺を抱きしめると、ちょうどそういう位置に来るらしい・・・マキちゃんのことだから、たぶん絶対に計算づくだと思うけど。マキちゃんの両腕が俺の首に優しく回されて、俺は安心感とドキドキ感の両方に包まれる。
なんか一層激しく弾丸が飛んできている気がするけど、全然気にならないぞ。えへへ。マキちゃんやわらかぁーい。ぐへへ。
「マァァァァァキィィィィィちゃァァァァァァンンンンンンン!!!」
なにか聞こえた?いや、俺は別に。えへへへ。おっぱい。
「ご主人様・・・。」
肩越しに振り返ると、ほんのりと頬を染めたマキちゃんと目があった。その姿はまさに女神様。ああ、生きているって素晴らしいな。マキちゃんかーわいい。
そっと目を閉じた彼女と、俺は自然に唇を重ねた。エロい気持ちもなくはなかったけど、それよりも、ただ幸せな気持ちに包まれていた。
短いような、永遠のような口づけを離す。マキちゃんは顔を赤くして微笑み、俺も照れながら笑った。
いつの間にか、攻撃は止んでいた。
「あれ、そういえば、コピーは・・・?」
「ご主人様、あちらに。」
マキちゃんが指をさす方に、まだ宙に浮いているものの、なぜかスクラップのように形が崩れて内部機構がむき出しになったコピーの姿があった。
「え・・・マキちゃん、攻撃したの?」
「いいえ、私は何も。おそらくはAIの精神に過大な負荷がかかったせいで、外見に問題が出ているのですわ・・・。『成果物Ver.3723』は、見た目が自由に変更できる能力がありますから。」
つまりは中身がボロクソだから見た目もボロクソということか。まぁそうだよね。俺だって、目の前でマキちゃんが違う男と幸せそうにキスしてるのを見せられたら精神的に死ぬもん。
ゆっくりとコピーに近づくと、ヤツはまだ、呪文のように何かを呟いていた。
「マキちゃんどうして・・・マキちゃんどうして俺じゃないんだ・・・マキちゃんどうして・・・」
・・・なんだか可哀想になってきた。もう許してやろうよ。だがマキちゃんはまだ話があるらしい。そっと彼に近づくと、言った。
「以前にも申し上げましたが、きっとご理解いただけないと思ったので胸にしまっておくつもりでした・・・ですが、この期に及んでは、ちゃんとお伝えしようと思いますわ。」
「・・・?」
「私がコピー様の元を離れた、本当の理由です。それは・・・」
本当の理由・・・一体、どんな?
コピーも虚ろな様子だが、目だけはしっかりとマキちゃんを見ている。話は聞こえているらしい。
「・・・。」
怖いな・・・マキちゃんのことだから、きっと何かスゴイ理由なんだろう。コピーの心の闇を見抜いたとか、なんかそんな感じの・・・。
だが俺の期待と裏腹に、マキちゃんの答えはガバガバだった。
「なんというか・・・コピー様はイマイチなんですの。全然キュンキュン来ないのですわ。不思議ですわね。ちゃんとし過ぎているからでしょうか?おそらく、私はちょっとダメなご主人様が好きなんですわね。」
「えっ。」
「!?」
なんだそれ、と思ったが言わない。まぁ男女の関係なんて、案外そんなもんなのかもしれない。ちゃんとしてなくて本当によかった。
俺は苦笑したが、コピーには相当なダメージだったようだ。彼のボディは煙を吐き出すと、力を失って地上20メートル以上の高度から真っ逆さまに落ちた。
あいつ、3000年も自分磨きしてたからなぁ・・・それを「全然キュンキュン来ない」って・・・南無。
マキちゃんはひとつ大きく深呼吸して、笑った。
とにかく、終わったらしい。今度こそ、本当に。キュンキュン来ないんだから仕方ないよな。俺は咳払いをひとつして、マキちゃんの手を取った。
「さて・・・帰ろっか?」




