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そして女神は舞い降りる

【前回までのあらすじ】


・いつもの、あの、ああいうアレでラストバトル開始

「ふん・・・これを見て、まだそんな口を聞いていられるか?」


そう言って持ち上げられたコピーの右手には、サリーの姿があった。拘束具のようなもので両腕を封じられている。彼女は俺を見ると、困ったような顔で笑った。


「ふふっ。またドジッちゃったわ。さすがにあのエキィーンが100体もいるのは反則よね。」


彼らの背後の通路は、赤いボディのエキィーンたちで埋め尽くされている。


コピーのボディはプラズマライフルの木の完全な上位互換だ。実らせられるものに制限がなく、栄養が足りなくなって枯れるということもない。無造作にあの大きなロボットを量産したのだ。あの物量ではいくらサリーでも簡単に押し切られてしまうだろう。すぐにコピー本人も追いついてきただろうし。


サリーは俺から目をそらすと、気丈に笑いながら言った。


「足手まといになるのはゴメンだわ。私に気にせず、あなたは逃げるなりなんなり・・・」


「サリー。」


我ながら珍しい強い口調に、サリーはハッとして俺を見た。俺も、彼女の瞳をまっすぐに見返す。


「すぐに助けるから。待ってて。」


俺の言葉に、サリーはまた困ったように笑う。


「でも・・・無理よ。私はいいから、早く・・・」


「8人だよ。」


「・・・え?」


「8人は産んでもらうから!」


それを聞いたサリーはついに観念したのか、頬を染めて首を振った。


「わかったわ・・・早く助けてね。」


コピーはいよいよイラつき、憤怒の表情で俺を見る。


「貴様、マキちゃんの前でよくもこんな・・・この女も、貴様の見ている前で消し去ってやる。そのためにわざわざ連れてきたんだ・・・。」


「無理だね。」


「なに?」


「お前は俺に、ハッキングされるからだ。」


俺は、愛用の端末を取り出した。


エドが立てた作戦は、ハッキング。コピーの能力である「絶対領域」は、常に外部環境に干渉する能力である。ということは、逆に「絶対領域」を利用すれば、こちらからコピーのボディに干渉することが可能なはずだ・・・というのがエドの考えであった。


手がかりさえあれば、あとはハッカーの腕次第である。


コピーと俺、真っ向からのハッキング勝負。


それがエドが考えた、唯一の勝ち筋だった。


「ほう・・・俺を相手にハッキング勝負だと?笑わせる・・・。」


コピーは当然、自信満々だ。ヤツは自分を電子の神だと思っているし、その実力は折り紙付きだ。この勝負を避けるようなことはするまい。


ヤツはブツブツと、独り言のように言葉を継いだ。


「この電子の神にハッキング勝負を挑むとは・・・恐怖のあまり、頭がおかしくなったのか。逆にそのちっぽけな端末をハッキングして吹き飛ばしてやろう。そもそもキーボードを叩かないとコンピュータの操作すらできない時点で、貴様には万の一つも勝ち目などない。俺はただ意識するだけで、自分の手足のように自由に電子機器を操作できるというのに」


「うるさい。」


言葉を遮られて黙ったコピーの前に、俺は立つ。ヤツとの距離はわずか1メートル。その気になれば、俺はこの瞬間にも分解されるだろう。


だが、ヤツはしない。ハッキングはヤツの縄張り。プライドそのものだから。俺と同じだ。


「お前は本当に俺のコピーなんだな。」


「・・・なんだと?」


「弱いから、よく吠える。」


「ほざくな、人間。」


空気が変わった。俺とコピーが同じ人間だからなのだろうか、戦いが始まる瞬間が不思議と理解できた。


これが最初で最後の勝負だ。コピーの言葉通り、ヤツの能力は俺より3000年分、強力だ。普通に考えれば勝ち目はない。


だが、俺に迷いはなかった。淀みなく、ためらわず、強い意思を持って、キーボードを叩く。


カタタッターン!


乾いた音が響いた。


対するコピーに動きはない。意識するだけでデータを操作できるヤツに、物理的な動きは必要ないからだ。


静寂。


恐ろしく静かで、端から見れば何もしていないけれど、それでも激しい攻防が繰り広げられていた。


他人が見ても優劣はわからない戦いだが、ひとつだけ、見た目で勝敗が判断できるものがあった。表情だ。


「・・・それで、終わりか?」


「・・・。」


コピーに目立った変化はない。しかし、その表情は勝ち誇ったように笑っていた。右手にサリーをぶら下げ、ニヤニヤと見下すように俺を見ている。


「ふん、先手を譲ってやったのにこの程度とは・・・やはり3000年前の俺はこの程度だったか。勝利の証に、貴様のその端末をハッキングしてやろう。次はこの女、そして最後がお前だ。」


コピーに動きはない。俺には見えないが、ヤツは今まさに俺の端末を攻撃しようと電子の手を伸ばしているはずだ。


手は尽くした。


このわずか数秒間に、思いつく限りの方法で攻撃コマンドを実行したのだ。


だが、コピーにはまるで影響が見られない。


端末から、わずかに異音が聞こえてきた。ジリジリという、シリコンが焼ける匂いが鼻を突く。おそらくはバッテリーに異常な負荷をかけて爆発させるつもりなのだろう。


バツンと音がして、端末の画面に亀裂が入った。もうこれは使い物にならない。


コピーはますます楽しげに顔を歪めて、トドメとばかりに端末を睨みつけた。


・・・その時だった。


「なっなに・・・右手が!?」


コピーの右手が勝手に動き、サリーを投げ飛ばした。何メートルも飛ばされたサリーは地面に落ちる前に、ウォーリーが余裕でキャッチする。


コピーは右手を左手で押さえ込むと、すぐに落ち着きを取り戻した。


「なるほど、俺が動き出す瞬間に発動する罠を仕掛けていたのか・・・驚いたぞ。だが、無意味だ。俺の右腕を0.5秒だけコントロールしたようだが、もう奪い返したし、二度と同じ手は食わない。」


コピーは俺を無視して、サリーとウォーリーの方を向く。


「さぁ、勝負は俺の勝ちだな。お前はそこで、仲間たちが死ぬところを見ていろ。」


歩き出そうとするコピーはしかし、俺の声で足を止めた。


「『ネコだまし』だ。」


「・・・なに?」


「ハッキング手法の名前だよ。『ネコだまし』っていうんだ。ネッコワークで産まれたばかりの、全く新しいハッキング手法だよ?すごいだろ。俺じゃあきっと、3000年かけても思いつかない斬新な手法だ。」


「・・・なにが言いたい。」


「お前はバカだって話さ。沢山の人がいれば、ひとりじゃ思いつかないようなおもしろいものがどんどん産まれてくる。そもそもハッキングなんて、他人がいてこそ成り立つわけだしな。人間を皆殺しにして『電子の神』って・・・痛いギャグにしても度が過ぎるよ。」


「・・・何を、調子に、乗ってる。お前は俺の右腕を0.5秒コントロールしただけだ。勝負はお前の負けだ。」


「そうだね。俺の力じゃ、ここまでだよ。でも、それで十分だ。」


「・・・あの女・・・サリー、とかいったか。あの女を助けたからか。無駄だぞ。追いかけて、また殺す。それだけだ。俺からは逃げられない。」


「違うよ。お前はアレだな、本当にひとりの時間が長かったんだな。俺はほら、なんでもかんでもひとりじゃ出来ないし、やろうとしないからな。3000年前はお前もそうだっただろ?もう忘れた?」


「・・・なんだ、何の話をしているんだ。」


「だからさ、困ったらいつも、アレを言ってただろ?」


「・・・?もういい、死ね。」


コピーに動きはない。動きはないが、「絶対領域」の能力を発動しようとしたのはなんとなくわかった。怒りと戸惑いに任せて、俺を分解しようとしたのだろう。


だが、俺は分解されない。何も変わらない。


いつものようにちょっと悪い姿勢で、コピーの前に立っている。


「なぜだ・・・なぜ、分解されない!『絶対領域』に対抗できる力など、ない!あるとすれば、同じ『絶対領域』の力だけのはず・・・!」


慌てるコピーに対して、俺の心はどこまでも平静だ。俺の仕事は、もう終わったから。


「本当に、お前は俺なのかな・・・?まぁいいか。俺はいつもの言葉を言うけど、いいよな?」


「・・・一体、何を・・・?」


そして、俺はいつものように何気なく、そして湧き上がる嬉しさを込めて、言った。


「マキちゃん、あとよろしく。」


瞬間、コピーは息を呑んだ。


ゆっくりと振り返った彼の背後に立つのは、完璧な存在。


完璧に美しい、艶やかな髪。


完璧に美しい、整った顔立ち。


完璧に美しい、シワひとつ無いメイド服。


完璧に美しい、女性らしい身体の曲線。


完璧に美しい、その立ち姿。


そこにはホログラムではない、確かな存在感を持った彼女・・・アンドロイドのボディを手に入れたマキちゃんが微笑み、立っていた。


彼女はいつものように静かに微笑んでから完璧な礼をして、誰をも魅了するような美しい声で言った。


「後は私にお任せくださいませ、ご主人様。」

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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