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作戦参謀

【前回までのあらすじ】


・コピーがヤバいので逃げる

「うっぷ・・・いやこれホントに気持ち悪い・・・ううっぷ」


必死に侵入してきた地下通路を逆走しながら走る、走る。コピーはわずかに遅れつつも、余裕をもって俺たちに追走していた。俺は担がれているだけなので大変なことは何もないが、ただただ気持ち悪い。走るウォーリーの乗り心地は最悪だ。足の裏からローラーとか出ればいいのに。帰ったらエドに相談しようかな。


「ミン様!地上のネッコワークにアクセスする方法はありますか?」


マキちゃんの声が響く。


「・・・ある。このまま進めば、もうすぐ地下鉄の無線ネットワークに接続できるエリアに入るから。そこからは、ミンとマスターがハッキングに使っていたルートを利用すればいい。」


なるほど、地上にあるプラズマライフルの木にハッキングを仕掛けていたのだから、この地下からアクセスする方法だってあるだろう。とはいえ、今さらネッコワークに接続してどうするのだろうか?


「マキちゃん、ネッコワークにアクセスしてどうするの?」


「ご主人様・・・サリー様にも言われたでしょう。どうしてもわからないことがある時にどうすれば良いのか。お忘れですか?」


「え・・・?」


なんだっけ、それ、つい最近の話だな。そういう時は、えっと・・・なんだっけ?


その時、背後から何かが迫る音がした。コピーではない。ヤツはじわじわと俺たちから距離が離れていて、今は姿が見えないほどだ。なにせヤツは俺なのだから、格好つけても運動神経はナメクジ以下なはずだ。


「あれは・・・エキィーンだ!」


暗闇から姿を現したそれは、身長3メートルほどの人型ロボットだ。かつて戦った四天王こと「エキィーン・エリート」によく似ているがボディの色が赤く、4本の腕の先にはプラズマキャノンが装備されている。後で知ったことだが、これは「エキィーン・クイーン」と呼ばれる種類の上位種らしい。もちろん野生のナマモノではなく、コピーがデータを元に生成したのだろう。ヤツの身体はデータさえあれば、どんなものでも生成出来るのだから。


「あなた達は止まらないで。私が相手をするわ。」


「サリー!」


正直、コピーに言われたことが胸に響く。俺はロクに戦わず、女の子たちにばかり戦わせているというのは紛れもない事実なのだ。・・・俺が戦っても役に立たないのも悲しいことにどうしようもない事実だが、それは言い訳になるまい。


「サリー、約束して!無理しちゃダメだよ!」


俺の声は届いたのかどうか。サリーは踵を返して、敵に向かいあった。その間もウォーリーは足を止めず、サリーの背中は闇に紛れてすぐに見えなくなる。


間もなく、マキちゃんがネッコワークへのアクセス成功を報告してくれた。


「ご主人様、ネッコワークへのアクセスに成功しました。・・・通話を開始します。」


「通話・・・?誰に?」


「ふふっ・・・そんなの、決まっているではありませんか。」


『もしもし!師匠ですか!?』


腕時計から聞こえた声は、我が弟子にして作戦本部長、エド(7歳)のものだ。そうだ、無茶な相手と戦う時は、いつだってエドが作戦を立てるんだ。どうしてそんな基本を忘れていたのだろう。


「エド!無事か!?」


『はい、こちらはなんとか・・・このタイミングで電話してくるということは、ピンチですね!?』


さすが我が弟子、話が早い。


「そうなんだ、お前の知恵が必要で・・・」


『おとーさん、おかーさん!ナナ、エドとけっこんするねぇー!』


突然可愛らしい声が響いた。ナナだ。そうか、エドはナナ本人を電話代わりにしているんだろうな。・・・っていうか今、なんて言った?


「け、け、結婚?いや、いいけど早くない?・・・いや、その話はまた後でちゃんと聞くから。今はちょっとあの、死にそうだから・・・。」


『はぁーい!ごめんね!ちゅっ!』


「ちょっと待って・・・今の『ちゅっ』はどこにした『ちゅっ』なんだ?エドか?エドのどこだ?」


「ご主人様、話が進みませんから・・・。」


『グヘヘ・・・えっと、師匠・・・何の話でしたっけ?』


「エド、お前には後でちょっと話があるぞ。」


なかなか話が進まない中、どうにかエドに事情を説明する。話を聞いたエドはしばらく唸っていたが、やがて口を開いた。


『師匠、ここはやはり・・・あの手しかありません。』


「おお・・・どんな手?」


『それは・・・』



エドとの通話を切った俺たちは、広い空間の中央で足を止めた。ここはさっきまでウォーリーがアルティーと戦っていた空間だ。あちこちでまだ煙が立ち上り、巨大なロボットの残骸が転がっている。


俺は今、ひとり何もない空間の真ん中に立ち、コピーが来るのを待っていた。


ウォーリーは30メートルほど離れた場所に立ち、ただ俺のことを見ている。今のコピーの前では、そこそこ強いウォーリーも全然強くない俺も平等に無力である。なので彼は安全な場所で見守り役だ。死なないようにしてくれればそれでいい。イリスさんも待ってるだろうし。


「ご主人様・・・本当に、大丈夫ですか?」


マキちゃんの心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。


「任せてよ。」


「確かにこれはご主人様にしか出来ないことですが・・・しかし、もうご主人様の身体は不死身ではないのです。ちょっとしたケガが原因で死ぬこともあるのですから。」


「・・・うん。」


「やはり、ここは私とウォーリーが・・・」


「マキちゃん。」


俺の声に、マキちゃんの動きが止まる。その瞳は心配そうで落ち着きがなく、いつものマキちゃんからは信じられないほどに、不安な気持ちが溢れているのがわかる。


そんな彼女に、俺は素直な気持ちを告げた。


「俺は、嬉しいんだよ。」


「嬉しい?」


「俺は不死身で、いつもみんなに守られてばっかりだったから。こうして、命を賭けてみんなのために戦えるのが嬉しいんだ。・・・まぁ、怖いけど。」


「ご主人様・・・。」


「だから、ここは俺に任せてほしい。大丈夫、きっと勝つから。いい?」


「・・・はい。」


マキちゃんの瞳は潤み、頬はわずかに赤く染まっている。今のはさすがにちょっとかっこよかったかもしれない。


「マキちゃん・・・惚れ直した?」


「いいえ。」


「・・・ああそう。」


「惚れ直せるような余裕が1ミリもありませんもの。ずっと惚れっぱなしですから。」


「お、おおう。」


「ご武運を・・・私の大切なクソヘタレクソご主人様。」


そして間もなく、暗い通路の先からそいつは現れた。


ズシン、ズシンと不吉な足音を響かせ、どこまでも暗い顔に獰猛な笑みを貼り付けて。


「覚悟は出来たか、オリジナル・・・お前は、ここで、死ね。」


相変わらず、底冷えするような低い声だ。だが、俺はもうビビらない。正直怖いが、ビビらないのだ。


代わりにそうだ、なにかカッコいい決めゼリフでも言ってやろう。ええっと、なんだろうな・・・。


「・・・俺は死なない!お前を、あの、ああいう・・・アレだからな!」

ブックマークが1800件を超えました。

物語もいよいよ終盤ですが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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