作戦会議
「グレートウォールは通常、最低限のセンサー以外は停止し、休止状態になっています。そこを突くのです。」
マキちゃんが作戦の説明を始める。エレベーターはまだ10階に着かない。マキちゃんがわざとゆっくり上昇させているのだろう。
「クロ、例のものを。」
マキちゃんが指示すると、クロは口からぺっとなにかを吐き出した。これは・・・古びたドライバー?いわゆる普通の「ネジ回し」、プラスドライバーである。持ち手が赤く、肝心のドライバー部分には少しサビが浮いている。ここまでの道中で拾ってきたらしい。
「作戦は簡単です。ご主人様の服には光学迷彩機能が搭載されておりますので、透明になってグレートウォールの背後に接近。背面にあるメンテナンス用コネクタのカバーをドライバーを使って外していただきます。カバーが外れればコネクタに対して遠隔ハッキングが可能になりますから、あとは私が処理しますわ。」
グレートウォールのホログラム映像が回転し、背中のコネクタの位置を教えてくれる。なるほど、四角いカバーの四隅がネジでとめられている。簡単に外せそうではある・・・ではあるが、しかし・・・。
「うーん・・・作戦はわかったけど・・・マキちゃん、どんなリスクが想定されるかな?」
「最も注意が必要なのは音です。光学迷彩機能は休止状態にあるグレートウォールの視覚センサを完全に無効化しますが、音響センサに対しては効果がありません。」
「つまり?」
「コップに水を注ぐ程度の音でも出せば、ご主人様はこの世から消滅します。」
「よし、オッケー無理だ、帰ろう。」
「ハル様、少々お耳をこちらへ。」
ホログラムのマキちゃんがハルになにか耳打ちする。
「に・・・にーさんならぜったいできると思うよ!がんばって!」
そういうとハルはギュッと俺の腕に抱きついてくる。柔らかい感触。っていうかなにこれこの子俺のこと好きなんじゃなかったの。なんで普通に色仕掛けで死地へ送り出そうとしてんの。聖霊様への信仰こわい。
「わ・・・わかった、でも今日はやめよう。もう少し入念に準備して、勝率を上げてから挑もう?」
「ご主人様、エレベーターの昇降装置に異常を検知したような気がしますわ・・・安全のため、最寄り階で停止いたします。・・・あら、偶然にも10階ですわね。」
気がしますってなんだチックショーこのためにエレベーターに乗ってから話を始めたのか!策士!ふざけんな!マキちゃんはまるでプレゼントをもらえると知った小さな女の子のようにニコニコと笑っている。普段は無表情なだけにギャップがすごい。すごいというか怖い。怖かわいい。クロ、アクビしてないで助けて。
「さぁ、ご主人様、張り切って参りましょう。ご安心を、死ぬときは一緒ですわ。ハル様は、クロと共にこちらでしばらくお待ちください。ご主人様が鮮やかにグレートウォールを無力化し、すぐお迎えに参ります。」
ナノマシンで万全に保たれているハズのお腹がキューンとしてきた。マジ帰りたい。
「ご主人様、笑顔で参りましょう。ああ、楽しみですわね!うふふ!」
笑顔がほんとにかわいい。誰か助けて。
短い話になっちゃいました。




