奇跡と引き換えに
【前回までのあらすじ】
・サリー → 20体のゴリラと乱闘中
・ウォーリー → アルティメットグレートウォールにボコられる
・主人公・マキ → 研究所に到達。不死身の肉体を失って瀕死
・ハル・ランス・クロ・レイ・その他チーム → 防衛戦に勝利
・エドとナナ → エキィーンキングと決死の戦闘中 ← 今回ここ
(・・・死ぬ。)
エドの目の前で、キングの刀が天を突いていた。あれは間もなく振り下ろされて、自分は真っ二つに両断されるのだろう。
なにか抵抗したかったが、血を流しすぎた彼の頭はもうなんの策も考えられず、身体は鉛のように重い。ぼんやりとした頭の中、死神の足音が聞こえた気がした。
だが、その刀が振り下ろされることはなかった。
その前に、激しい衝撃波がエドの身体を襲い、彼は後ろに吹き飛ぶ。そして理解した。
(ナナ、やったね。)
これは、【ラッキーセブン】の衝撃波だ。ナナは間に合ったのだ。
あの常識外れの銃とナナの腕が合わされば、キングといえどもひとたまりもない。いや、アレで倒しきれないようなら、もう何をしたって勝てないだろう。
とにかく、作戦は成功した。ナナは【ラッキーセブン】を手にして、自分はギリギリだが生きている。
(・・・!)
ぼやける視界で敵を見ると、しかし敵もまだ、生きていた。【ラッキーセブン】の凶悪な弾丸を刀で弾き、軌道を逸らして回避している。
信じられないことだったが、しかし問題はない。敵はギリギリでなんとか受けているだけだし、ラッキーセブンは最大でマガジン一つ分、12発の連射が可能だ。2発、3発と受けるに従い、徐々に敵の体勢が崩れていく。間もなく直撃を受けて大破することだろう。
(いや、これはまさか・・・飛ぶ気か!)
敵は体勢を崩しつつ、ヒザを曲げて跳躍するつもりのようだ。
まずい、そんなに余裕があるのか。ステップやジャンプで回避されるほどの余裕があるなら、弾丸を撃ち尽くしても倒しきれない可能性が高い。そこでエドは思い当たった。ナナは今、片腕しか使えない。射撃の能力が平時より大幅に低下していることに、今さら気がついた。
(まずい・・・ボクの作戦ミスだ!)
しかし、敵が大きく跳躍しようと沈み込んだ瞬間。その脚が火を噴く。割れた装甲の間から火花が飛び、地面にヒザを着いた。
(なんで・・・?あ、あれは・・・ボクがしつこくカッターを叩きつけた場所か!)
エドの攻撃は、無駄ではなかったのだ。彼が血まみれになりながらしつこく叩き続けたダメージは微々たるものではあったが、たしかなダメージとして蓄積していたのだ。そこへ強烈な【ラッキーセブン】を防御する負荷が加わり、ついに限界を超えた。
もはやキングが脚を使って逃げることは叶わない。最大にして最後のチャンスがやってきた。
「いけ・・・ナナ、がんばれ!」
知らず、声が出ていた。
そして、声に合わせるように、ナナの射撃がいっそう苛烈になった。
9発目。ヒザを着きながら、なんとか刀を使って弾く。
10発目。キングは大きく仰け反った。
11発目。キングの右肩に命中し、4本ある腕のうち、2本が千切れ飛んだ。
12発目。弾丸は付きた。そして、キングも倒れた。
「やった!」
エドは血まみれのまま、ガッツポーズをする。
そして、90メートル先のナナを見た。
(・・・慌ててる?)
ナナが、手を振って何かを叫んでいた。だが聞こえない。大量の血を失い、【ラッキーセブン】の衝撃波をまともに受けたせいで、一時的に聴覚が麻痺しているようだった。頭もぼんやりとしている。
ふと、サンサンと降り注いでいた太陽の光が遮られた。
いつの間にか、誰かが横に立っている。太陽から自分を守るように、立っている。
立って、刀を振りかぶっていた。
キングだった。
ボロボロになり、脚を引きずっているが、それでもまだ、動いていて、自分に殺意を向けていた。
(・・・死ぬ。)
今日、何度目かの死を覚悟する。
刀がギラリと太陽の光を反射し、エドの首目掛けて斜めに襲いかかった。
(ナナ・・・もう一度、手をつなぎたかったなぁ。)
無意識に、右手を上げていた。届くはずのない、ナナに向かって手を伸ばしていたのだ。その手にはまだ、プラズマカッターが握られていた。カッターはエドの首を守るように、刀の前に入り込んだ。
もちろん、意味のないことである。
ただの携帯用工具に過ぎないプラズマカッターでは、キングの刀は防げない。カッターも首も、通常であれば、等しくすっぱりと切断されて終わりである。
ナナが何かを叫んだ。声にならない何かだった。
そして、奇跡は起きた。
キングの刀は小さなプラズマカッターに負け、折れた刀身が宙を待った。エドは衝撃で地面に転がったが、首は繋がったままだった。
信じられないといわんばかりに、折れた刀の柄をキングが眺めている。
それは、偶然でもあり、必然でもあった。
無理な体勢で【ラッキーセブン】の凶悪な破壊力を受け止め続けたキングの刀は、すでに限界を超えていたのだ。そして脆くなった一点に、たまたまカッターの小さな刃が滑り込んだ。
ナナに幸運を。
その武器に込められた願いは、確かな形で叶えられた。
キングは呆然と、ただ刀とエドを交互に見ている。ナマモノでも、あまりの事態に混乱することはあるらしい。
そのせいで、キングは気が付かなかった。いつの間にか自分の隣に走り込んできた小さな影に。
それがキングの最後の姿になった。
「ナナちゃん・・・ぱーーーーーんち!!」
数多の敵を仕留めてきた必殺の一撃。
極超音速の可愛らしい拳は、強固なグレートウォールさえも一撃で鉄クズに変えたことがある。
それはまさに、究極のパンチ。
キングのボディにめり込んだ。
全身に亀裂が入った。
そしてガラス細工にように、木っ端微塵に吹き飛んだ。
後に残ったのは荒野に散った金属片と、折れて地面に突き刺さった刀身だけだった。
ナナとエドは、勝利した。
勝率ゼロの相手を倒すという、奇跡をもぎ取ったのだ。
「エド、やったね!・・・エド?」
ナナが駆け寄る。
返事は、ない。
「エド・・・だいじょうぶ?」
地面に倒れるエドの顔は蒼白で、彼の身体は大きな血溜まりに沈んでいる。まるで魂と共に、全ての血液が流れ出てしまったかのようだ。
返事は、ない。
「エド・・・エド・・・!」
慌てて握った彼の手は、氷のように冷たかった。
「エド・・・うそ・・・やだ、やだよ、エド!」




