3度目のグレートウォール
【前回までのあらすじ】
・エドとナナ → エキィーンキングと決死の戦闘中
・ハル・ランス・クロ・その他チーム → 遺跡の入口で防衛 ハル死にそう
・サリー → 20体のゴリラと乱闘中
・主人公・マキ・ウォーリー → 遺跡に侵入 ← 今回ここ
「モーすぐデスよ。ここを抜ければ、研究所は目と鼻の先デス。」
ウォーリーは、俺を抱えてひた走っている。間もなく、狭くて暗い通路が終わりを告げて、唐突に広い空間が広がった。
「これは・・・地下鉄の資材置き場、かな?」
「そのようデスね。」
空間は野球場と同じかそれ以上の広さがあり、錆びた鉄骨や古い車両の残骸などが山ほど積み上げてある。
薄暗い空間に目を凝らすと、俺たちが入ってきた入り口のちょうど反対側に、さらに奥へと続く通路が伸びているのが見えた。
「よし、こんな場所はとっとと抜けよう。」
「モチのロンです。」
空間のちょうど中心まで走ってきたところで、ウォーリーが唐突に足を止めた。
「・・・ん、どうしたの?ウォーリー?」
「ご主人サマ・・・聞いてくだサイ。」
「え、なんなの?あらたまって。怖いよ?」
ウォーリーは慎重にあたりを見回しながら何かを警戒している。
「我・・・この戦いが終わったら、結婚するのデス。」
「いや、もうしてるじゃん・・・。っていうかなに?ウォーリー死ぬの?」
「フンッ!」
唐突だった。
唐突に、ウォーリーは俺をぶん投げた。
戦闘用サイボーグボディの怪力は、ガリガリの成人男性である俺の身体を軽々と放り投げ、俺の身体は地面とほとんど平行に飛んでいく。
「のあああああああああああああ!」
暗闇に俺の絶叫が響いた。空を飛ぶ俺の身体は資材置き場を飛び出し、暗い通路の奥までぶっ飛んでから、さらに数十メートルほど転がり、やがて壁に激突して止まった。
頭を上げると、すでにはるか遠くなったウォーリーが、グッと親指を立てていて・・・次の瞬間、その姿が見えなくなった。
何か巨大なものが、彼の目の前に落ちてきたのだ。
「ウォーリー!お前、俺を逃がすために!」
俺の声はもう届かないだろう。すぐに、激しい戦闘音が響いたからだ。
ウォーリーはふざけた男だが、彼は自分の役割をしっかりとこなしたのだ。なんて格好いい男なんだ。
「ご主人様、走ってください。ウォーリーなら、きっと大丈夫ですわ。」
「・・・うん。わかった・・・わかってる。行こう、マキちゃん。」
そうして俺は駆け出した。研究所は、コピーはもう目の前だ。みんなの気持ちを無駄にするわけにはいかない。
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「オワッ!めっちゃ怖い!このヒト、めっちゃ怖いデス!」
格好いい男は、しかし不格好に逃げ回っていた。敵は遥かに大きく、強力な火器を無造作に乱射してくる。
その体長は見上げるほどに大きく、
人間の上半身に六本の脚を生やした独特のデザインのボディは重厚で、生半可な攻撃は通用しなそうだ。
右腕にはレールガン、左腕には大型のレーザー砲。
そして何より、特徴的なのはその頭部だ。
四角い豆腐のような頭に、一つだけアイカメラが付いているというシンプルなデザイン。
それは、ウォーリーにとって非常に見覚えがある頭だった。なにせ、自分にそっくりなのだから。
その敵は、かつてウォーリーが呼ばれていたものと同じ名前を持っていた。
【アルティメット・グレートウォール】
それは、その膨大な消費電力ゆえに稼働に大型の電源設備を必要とし、「移動することができない」という最大の弱点を背負った拠点防衛兵器【グレートウォール】の亜種。巨大な身体を取り付けたことで、自由に動けるようになった最強の兵器であった。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとブラザー、お話しまセンカ?もっとこう、駆け引きとかしまショウ?」
「・・・拒否スル。侵入者、排除。」
「ヌワーーーーッ!」
アルティメットが放つレールガンが足元に着弾し、地面が爆発したように弾ける。2メートルを超すウォーリーが、まるでオモチャの人形のように吹き飛んだ。
しかし、ウォーリーもやられてばかりではない。
忍者のように空中で体制を整えると、背中に担いでいた愛銃を敵へと向けた。彼の持つ唯一にして最大の武器、レールガン【ハリケーン】である。
「お返しDEATH!」
「・・・無駄でアル。」
しかしハリケーンから放たれた極超音速の弾丸は、敵の目前で意志でも持っているかのように曲がり、地面に着弾した。ウォーリーはその現象を知っている。かつては彼にも装備されていた防御兵器のしわざである。
「重力フィールド装置!よくもまあ、あんな燃費の悪いモノを装備して動けるものデスね!」
「排除。排除スル。」
敵はウォーリーの攻撃など関係ないとばかりに、レールガンとレーザー砲を連射した。ウォーリーは所狭しと積まれた資材の山に隠れるように逃げ回るが、チリチリと背中が焦げ、爆風に吹き飛ばされてはなんとか着地している。
「これは参りまシタ!マジでピンチデス!このままだと我がDEATH!こんな時でもうまいこと言っ」
「ソコダ。」
「ヌワーーーーッ!」
ウォーリーは吹き飛びながら、考える。
少し前に聞いた、ナナとエドの武勇伝。
彼らは以前の自分と同タイプの「グレートウォール」を完封したという。当然、重力フィールド装置も破ったのだ。
・・・さて、どうやって破ったと言っていたんだったか・・・。
着地した時、目の前に積まれた袋の山が目に入った。工事現場で使う、石灰の袋だ。ウォーリーは袋の一つを掴むと、敵に向かって投げつけた。
「これでも食らいなサイ!」
「無駄でアル。」
しかし当然、袋が敵に届くことはない。袋は空中で撃ち抜かれて、その中身を撒き散らした。
「・・・排除・・・コレは・・・目隠しのツモリ、か。」
石灰が空中を舞い、視界が真っ白に染まる。
しかし、ウォーリーもアルティメットも、いずれも最強の拠点防衛兵器である。頭部に搭載されたセンサ類は多彩かつ優秀で、石灰やスモークでも問題なく周囲の状況を感知できる。敵の状態までは正確に見えなくとも、位置を追う程度ならなんの問題もない。
「・・・排除。」
敵はウォーリーを見失うことなく、彼に向かって容赦なくレーザーを叩き込んだ。
「ヌワーーーーッ!」
ウォーリーはそれを回避できず、極太のレーザーが身体を貫く。本日3回目となるヌワーーーーッが資材置場に響いた。
「・・・排除、完了。」
勝利を確信したアルティメットが、ゆっくりと銃を下ろす。
空気中の石灰が少しずつ薄まっていき、視界が元に戻っていく・・・そこに現れたのは、全身から煙を上げながら、しかししっかりと銃口を向けているウォーリーであった。
「ハハハハハハハ!ここで日焼けウォーリーさんがババンと登場!死ぬかと思いまシタが!石灰のおかげでレーザーが減衰しまシタ!」
「・・・ヌ・・・石灰は、コレが、狙いカ。」
レーザーを弱体化するために石灰を撒いたのか。だが、例えレーザーを防いだとしても、根本的にウォーリーの攻撃は重力フィールドを突破できない。アルティメットはそう考え、慌てることなく、再びゆっくりと銃口を上げた。
ウォーリーは微動だにせず、【ハリケーン】を構えたままだ。
「アナタ、おちんちんはついてマスか?」
「・・・?発言の意図が不明。対話を拒否スル。」
「付いていないでショウね。だから、チラリズムの素晴らしさもわかっていないでショウ。」
「・・・排除。」
「パンチラを狙う時に鍛えた集中力を持ってすれば、この程度の射撃は朝飯前なのデス。」
ウォーリーが、引き金を引く。
当然重力フィールドに捕まるはずの弾丸は、しかしまっすぐに飛んで敵のボディに突き刺さった。
「・・・ヌワアアアアアアアッ!!!バカナ!!」
ついに、敵がヌワアアアアアアアと叫んだ。ウォーリーは満足げに笑う。
「フフフ・・・石灰が、重力フィールドのわずかな隙間を教えてくれたのデス・・・アナタのように引きこもっているヒトは、そんなことを勉強する機会も、パンチラを見る機会もないでショウけどネ!」
そして、解説した。
このまま連射して押し切れば終わっていたはずなのに、解説した。
ぴったりとハマった戦略を、誰かに聞いて欲しいという気持ちは仕方がないことかもしれない。
それは、致命的なスキであり、また敵は冷静だった。
「・・・排除。」
「ヌワーーーーッ!」
レーザーが火を噴き、本日4度目のヌワーーーーッが響いた。
舞い散った石灰はほとんど薄まっている。
今度こそ死んだ。死んだのDEATH。
そう思ったが、しかしウォーリーはまだ生きていた。敵もまた、無傷ではないのだ。レーザーの出力が大幅に低下し、ウォーリーはボロボロになりながらも、即死を免れていた。
「解説の途中なのに・・・酷いことしマスね・・・ゲホッ。」
文句を言いながら銃を構えようとした時、大変なことに気がついた。
【ハリケーン】が、溶けている。
彼の愛銃は、彼の命を守るためにその身を捧げたのだ。
見れば、敵の重力フィールドは健在のようだ。命は助かったが、攻撃手段がない。
「・・・ちょっと、話をしまセンか?ブラザー?ここはひとつ、トークによる駆け引きを・・・。」
苦し紛れの言葉は、ただただ虚しく、どこかに消えていった。
「・・・排除。」




