ハルにゃん、ロマンを解する
【前回までのあらすじ】
・ハルにゃん、ピンチ
「オラァァァァァァァァ!」
ウィローはハルの目の前で急停止すると、ハルの細い首を片手で掴んで持ち上げた。片手にハル、反対の手で肩に乗せた男を支えている。
相変わらずゆでダコのように赤い頭は、間近で見ると透明なシールドに覆われている。ハルは締め上げられる首を左手でつかみ、苦しそうにしながらも、うめくようにつぶやいた。
「アンタ、この町のネコは知ってる・・・?」
「ああ?なんの話だ⁉︎」
「アタシ、これでもネコの店の店長なのよ。」
「ああそうかい、テメエの死体はネコのエサにしてやろうか。」
「ふっ・・・この町の、ネコ普及率はほぼ200%よ。」
ハルの言葉の意図が分からず、ウィローは顔をしかめる。
「何を言ってやがる?・・・ああ、ネコの助けを期待してんのか?まだ30秒は来ねぇよ。俺のパーソナルレーダーにも反応はねぇ。」
ウィローがニタリと笑うと、しかしハルも不敵に笑い返す。男はさらに困惑し、笑顔が消える。なんだこの女は?とにかくさっさと締め上げて、気絶させちまおう。ウィローは手に力を込めようとするが、ハルは言葉を続ける。
「・・・わかんないの?この町でネコを連れてない人間なんていないって言ってるのよ。」
「・・・あぁ⁉︎」
「あたしのネコ、キーコっていうの。よろしくね。」
ウィローが気づいた時、ハルが着ているメイド服の長い長いスカートの下から、ポロリと何かが地面に落ちた。それは、茶色くもふもふとした、この町でもっともありふれた動物・・・ネコだった。
スカートの中から飛び出したキーコは、渾身の力を込めて、マイクロウェーブカッターを内蔵したツメを振るう。狙いは男の頭部。野生のナマモノでさえ容易に切り裂くネコのツメは、ウィローの頭部を守っていたシールドを砕くことに成功した。それと同時にハルを掴んでいた力が緩み、彼女は地面に着地する。
「うぉぉ・・・ッ!やりやがったな、クソが!」
ウィローは肩に担いでいた俺を、路地の先に向けて力いっぱい放り投げる。シールドを失った今、至近距離にいて再度ハッキングされることを恐れたのだろう。そしてそのまま腕を振るい、至近距離で銃口を向けていたハルの手から、銃を弾き飛ばした。
「なめたマネしやがって・・・!」
丸腰になったハルに、ウィローはその手を振り上げる。ウォーリーを見ればわかるように、戦闘用サイボーグの腕力は常軌を逸している。あの一撃を食らえば、生身のハルの身体などトマトのようにグシャリと潰されてしまうだろう。
だがハルは冷静だった。ラブリー銃撃メイドは、こと銃撃に関してはいつでも冷静で的確なのだ。
今まさに潰されてしまうという瞬間、ハルはなんと・・・勢い良くスカートをまくり上げた。彼女の美しくも健康的な脚線美があらわになり、パンツが見えるか見えないか、ギリギリのところまでスカートが持ち上がる。
白・・・いや、これは青との・・・縞パン・・・縞パン、なのか・・・?ハルの趣味とは思えないが、一体誰の入れ知恵だ・・・いいじゃないか・・・。
はるか彼方に投げ飛ばされて転がったままの俺の目はギリギリ部分に釘付けになるが、ウィローの目は違うところを見ていたのだろう。それは彼女の太ももだ。ウィローがフトモモフェチだったわけではない。そこに巻きつけられたホルスターと、隠し持たれた2丁目の銃があったからだ。俺は知らなかったが、ウォーリーがわざわざメイド服に合わせて用意したものだった。
ハルは熟練の、まるで居合の達人のような動作で銃を抜いた。いや、正確には抜いた「らしい」。俺にはその動作が早すぎて見えなかったのだ。いつの間にか、まるで手品のように、無防備なウィローの頭に銃口が突きつけられていた。
「男のロマンも、役に立つわね。」
銃が火を噴く。
吐き出された弾丸はサイボーグ唯一の弱点である生身の頭部を貫通し、暗い路地の何処かに消えていった。サイボーグの身体が地面に崩れ落ち、ハルは銃をフトモモのホルスターにしまう・・・今度はパンツが見えないように、ちょっと照れながら、慎重にスカートをまくり上げて・・・。俺?俺はもちろんガン見だ。
そしてそのまま、テープでグルグル巻きにされて地面に転がるイモムシ状態の俺に近づき、抱き起こした。
「ハル、ケガは・・・ない?」
俺の言葉にしかしハルは応えず、じっと俺の方を見た。その顔がほんのりと赤く染まっているのは、戦闘の興奮のせいだろうか、それとも・・・
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「ハルサマ、いいデスか。勢いデス。勢いがあるうちにやっちまうのデスよ。」
「い、い、勢い?」
「そうデス。タイミングを逃してはいけまセン。特にご主人サマは不老不死なので、なぁなぁで何年も経ってしまいマス。マキちゃんサマを見ればわかるデショ?500年デスよ?」
「そ、そ、そ、そっか・・・。」
「女は度胸、デスよ。ランスさんも言っているでショウ?『とりあえず撃ってから考えろ』と。」
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「にーさん。」
「はい、なに?」
「『アンタは私の男よ』。」
「え?」
ハルの言葉に首をかしげる。彼女は俺の上半身を支えたまま、潤んだ瞳で見つめてくる。紙一重の戦闘の直後にもかかわらず、いや、だからこそか、上気してしっとりと汗が光る胸元、少し荒い息、元気な姿が魅力のハルに、なんとも言えない色気をプラスしていて、ドキドキする。
そして俺は・・・強引にくちびるを奪われた。




