ハルにゃん、挑発する
【前回までのあらすじ】
・ハルにゃん登場
「ラブリー銃撃メイドの・・・ハルにゃん?」
俺の口は、自然と耳にしたばかりの謎ワードを復唱していた。なんだろう、今のはいったいなんなんだろう。
「ラブリー銃撃メイドのハルにゃん様、ですか・・・。」
「ラブリー銃撃メイドのハルにゃんさまですぅ・・・。」
なぜかマキちゃんとレイも復唱している。なんだろう、これはなんなんだろう。
見れば俺を誘拐しようとしていたウィローでさえ無表情でハルを見ている。誰も状況についていけていないようだ。
ラブリー銃撃メイドハルにゃん・・・もとい、ハルは冷静に状況を観察していた。自分が構えている武器は護身用の小さなハンドガン。敵は戦闘用のサイボーグだ。この武器では傷ひとつつけられないだろう。
唯一の弱点は生身の頭だが、それもなにかのシールドで保護されているようだ。つまり現状の装備で、自分が敵にダメージを与えるのは不可能。となればできることは限られている。ナナかウォーリー、それか野良ネコが助けに来てくれるまで時間を稼ぐのだ。
「ふん、ハルとか言ったか・・・お前はあと回しだ。じゃあな。」
ウィローは当然の行動に出た。ハルを無視しての逃走である。
戦闘用サイボーグが本気を出せば、ハルの足で追いつくのは絶対に不可能である。その上、相手は光学迷彩機能を搭載しており、一度見逃してしまえば発見は困難だ。ここで逃すわけにはいかない。だが、どうする?
ハルの脳裏に、昨夜のウォーリーとの特訓がフラッシュバックした。
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「いいデスかハルサマ、男というのはほぼ98%がおちんちん様デス。男イコールおちんちん様、わかりマスか?」
「ええ・・・うーん、わかんないけど、とにかくそのおち・・・モゴモゴ様が大事なんだね。」
大事な単語を言い淀んで顔を赤くしながらモゴモゴ言うハルを高画質でこっそりと録画しながら、ウォーリーが続ける。
「大事というより、おちんちん様そのものなのデス。おちんちん様をけなされたり攻撃されれば怒り、逆に優しくされ、受け入れてもらえれば、まるで自分自身が受け入れてもらえたように錯覚する・・・おちんちん様が男性自身とイコールであることを考えれば当然のことデス。」
「おち・・・モゴモゴ・・・を、褒める・・・?」
「そうデス、間違っても『小さい』『汚い』『気持ち悪い』などと言ってはいけまセン。逆に『大きい』なども、自信がない男性にとっては皮肉となるので注意が必要デス。」
「む、難しいのね・・・。」
「デリケートなのデス。色んな意味でネ。」
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ハルは迷わず、ウィローに向けて数回引き金を引いた。
ハルの射撃能力は高い。それも尋常なレベルではなく。子供の頃から常に銃に親しみ、自分の身体の一部として育ってきた。ましてや手にしているのは、彼女の父、銃職人ランスがハルの護身用に徹底的に調整したカスタム品である。連続して放たれた弾丸は吸い込まれるように狙った場所に向かっていき、敵の身体の一部をもぎ取った-----ズボンの下に隠れた、股間にぶら下がる男性の象徴を。
「ぐぬあッ!?」
ズボンの股が破れ、人工血液が少し飛び散った。情けない声とともに、もげた人工性器が地面に落ちる。
サイボーグの男性用人工性器は、その用途ゆえにガチガチの装甲で固めるというわけにいかない。言うまでもなく、感度がとても大切だからだ。もっとも人工性器は比較的簡単に交換できる上、痛覚も即遮断されるため、この攻撃による実質的なダメージはない。合理的に考えれば、ハルの射撃はまったくの無意味であるが・・・しかし効果は絶大だった。
「貴様・・・!よくも俺のッ!俺のモノを・・・ッ!」
ハルはフンと鼻を鳴らして、落ちているモノに追加の弾丸を叩き込み、わざと見下したように言った。
「きったなくて粗末なソーセージね。あんたにはお似合いだわ。」
それを見たウィローは怒りで顔を真っ赤にし、頭から湯気が出そうである。ついでに、肩の上で捕まっている俺も、地面に落ちた哀れなウインナーを見て顔を青くしていた。ハルさんパねぇ怖いッス。
直後、ウィローはハルに向かって突進した。ハルの挑発が成功したのだ。
砲弾のような速度で迫る敵に対して、しかしハルはなすすべもなく立ち尽くす。狭い路地では避けることができるスペースはなく、逃げたところで生身とサイボーグではスピードが違いすぎる。
「このクソアマ・・・このまま拉致って、男の目の前で犯ってやる!手足をもいで!泣き叫んで!生まれてきたことを後悔させてやるァ!!」
 




