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ハルさん、ハジける

【前回までのあらすじ】


・それでもハルはやってない

「・・・。」


ハルはひとり、ネコの店の従業員休憩室で頭を抱えていた。


徹夜明けのダルさもあるが、それよりも例の失態が心に重くのしかかっている。いつも店では店長としてビシッとしているハルだが、今日はいつものようにはいきそうもない。なんと言っても、彼女はまだ15歳の少女に過ぎないのだ。


「ハル店長ぉ~?元気ないねぇ~?」


声をかけてきたのは従業員の1人、マユキである。ハルと同じく15歳で、メガネがよく似合う女の子だ。ハルとは上司と部下という関係ながら、同じ年頃の女子として仲良くしている1人である。


「・・・あ、ひょっとしてオーナーとなにかあった?」


「・・・。」


ハルは死んだように机に突っ伏したまま、何も言わずマユキの方を見た。その目は死んだ魚というより、死んでからずいぶん経ってすでに腐っている魚の目である。


これは思ったより重症だ。


マユキはうかつに話題を振ったことを軽く後悔したが、それでも友人として元気づけてあげたいと思った。


「店長・・・ううん、ハル?よかったら、話してみて?」


「・・・ぐすっ。マユぅ~!」


ハルは突然立ち上がり、マユキの比較的豊かな胸に顔をうずめてグスグス泣いた。店の制服である白いブラウスがハルの涙と鼻水でズルズルになるが、マユキは気にした様子もなくヨシヨシとハルの頭を撫でてやる。しばらくそうした後、ハルはぽつぽつと例の出来事を話し始めた。


「・・・というわけなのよ!あのクソ豆腐アタマ~!」


ハルのわんわん泣きながらの説明を、マユキは黙ってうんうんと聞いていた。しかし最後まで聞いてみたところで、マユキの頭に浮かんだのは疑問符である。


「誤解を解いてきたらいいじゃない?」


「・・・え?」


「うん、だから、普通に話してくればいいじゃない。『今朝のは誤解だよ』って。ついでに告白でもしてきたら?『アンタは私の男よ!』って。」


「・・・ええ・・・?なによ、その男らしい告白は・・・。」


「なんだかハルらしくないよ?グズグズ悩んでるだけなんて・・・いつも考えるより先に行動するのがハルのやり方じゃない!」


まっすぐなマユキの言葉を聞いて、ハルの瞳に光が宿ってきた。そうだ、自分はなぜこんなにグズグズしていたのだろう。体当たりだ。いつものように自分からぶつかっていけばいい。いつも父も言っていた。「とりあえず撃ってから考えろ」と。


「そう・・・そうね!ありがとう、マユ!」


「いーえ。ほら、お店はいいから行ったら?副店長には私から話しておくから。」


「マユ・・・でも・・・。」


「ほらほら、行った行った。こんど、美味しいものでもおごってね。」


「ふふっ。わかったわ!あたし、行ってくる!」


ハルは店を飛び出し、まっすぐに自宅に向かって走り出した。その後ろ姿を見送ってから、マユキは小さくつぶやいた。


「ん・・・?ハル、なんかメイド服じゃなかった・・・?」



俺は、ネコの店に向かってひとり歩いていた。


とにかくハルに会いに行こうと思ったのだ。自分でもよくわからないが、とにかくハルに会わなければいけない。そう思った。


通る道は大通りではなく裏通り。普段は通らない道だが、こちらの方が近道だ。


人通りの全くない建物の間を進み、いくつも角を曲がる。ふと寒気がして前方を見ると、いつの間にか大柄な男が狭い通路をふさぐように立っている。その顔は見覚えがあるような、ないような・・・。


「この時を待っていたぞ、ネコ使いよ・・・。」


「お、お前は・・・!」


とっさに「お前は!」とか言ってしまったが、いまいち誰だか分からない。


身体を見る限りはサイボーグのようだが、髪の毛一本生えていないツルツルの頭を見ても誰だか全然思い出せない。そんな俺の様子を見て察したのか、サイボーグは怒りを顔中に貼り付けて怒鳴った。


「貴様・・・この『ブラック・ウィロー』の顔を忘れたとは言わせんぞッ!」


「うぃろー・・・?」


「岩山に!頭を!放置しただろうが!」


「いわやま・・・?」


まるでついていけない俺に、マキちゃんがそっと教えてくれた。


「ご主人様、これはウォーリーの前のボディをくださった方ですわ。」


「ウォーリーの・・・?いわやま・・・?ああ、あの人か!よく生きてたねぇ!」


そういえばトドメを差すのが嫌で、頭だけ放置した人がいた気がする。どうやってあの状況から生還したのだろうか。すごい。だが俺の称賛を聞いたウィローは、さらに顔を真赤にして俺をにらみつけた。


「許さねぇ・・・!ずっと貴様を拉致する機会を狙っていたんだ。じっくりといたぶってから、貴様を人質にして家族もろとも皆殺しにしてやる。」


それだけ言うと、ウィローはものすごいスピードで俺を殴り倒し、ダクトテープでグルグル巻きにした。最近はテープで巻かれるのにもすっかり慣れた感じがするが、今回は余裕である。俺もずいぶん成長したものだ。


町には至るところで凶悪なネコが犯罪に目を光らせているし、そもそもサイボーグ相手ならマキちゃんは無敵である。早くハルのところに行きたいのになぁ、と肩にかつがれながら考えていると、マキちゃんが悪い情報を口にした。


「・・・ご主人様、信じられませんが、ウィロー氏のボディは遠隔ハッキング対策がしてありますわ。レイ、早くネコを招集してください。」


「はいですぅ!ここは路地裏すぎて、最初のネコが来るまであと1分ぐらいかかるです!」


「え、マジで?」


それを聞いたウィローは、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべた。


「残念だったな・・・前回、貴様が俺の頭と身体の隙間から何かした、と言っていたからな。お前の手品を防ぐために、頭部を密閉型シールドで保護している。」


なるほどよく見ると、頭部が透明な卵型のガラスのようなもので覆われている。遠隔ハッキングできないということは、電磁波の類を一切遮断しているのか。旧文明の遺物なのかもしれない。


「ネコのことも調査済みだ。俺のボディは持っている荷物ごと光学迷彩で姿を消せるんでな。このまま一度、町の外に消えさせてもらうぞ。」


あれっこれ・・・普通にさらわれるんじゃない?


唐突に訪れたピンチに、ようやく俺の背中からじんわりと冷や汗が出てきた。ウィローの身体が足元からゆっくりと透明になっていく。こいつは誰にも気づかれずに、町中で俺を拉致するチャンスを伺えるほどの隠密性能があるのだ。ここで透明化されれば、誰にも気づかれずに俺を運ぶなんて簡単だろう。


「だっ誰か、助け」


俺が叫ぼうとすると、ウィローが俺を担いだまま軽く・・・といってもサイボーグの腕力でパンチし、前歯がボロボロと抜けてアゴが砕ける。まずい。俺の身体が少しずつ透明になっていく。


「さぁ、行くか・・・」


いよいよウィローの頭まで透明になりかけた時、暗い路地裏に銃声が響いた。


弾丸はウィローの頭部を覆うシールドに命中して弾かれたが、しかし衝撃で光学迷彩は解除された。透明になりかけていた姿があらわになる。


邪魔をされたウィローが青筋を立てて振り返ると、そこには一丁のハンドガンを構えた若い女性。なぜかメイド服を身にまとい、油断なくこちらに銃口を向けている。後ろでまとめた髪が風に揺れ、強い意志が宿った瞳が燃えるように輝いて敵を見ていた。


「なんだ、お嬢ちゃん・・・。ああ、この男のツレ・・・ハルとか言ったか?」


ウィローの言葉を無視し、ハルは油断なく敵を見たまま、大声を張り上げた。


「ご主人様のハートに三点バースト射撃☆ラブリー銃撃メイドのハルにゃんだゾ☆」

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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