表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/202

痴話喧嘩

【前回までのあらすじ】


・ピンチに登場、ゴリラ系ヒロイン

「ゴリラのナマモノ・・・?」


完全に終わった。


線路をズシズシと走ってきたゴリラはホームに飛び乗ると、槍を持ったエリートの背後にゆっくりと近づいていく。エリートの方は背後のゴリラを一瞥するだけで、すぐに俺たちの方に向き直った。つまり、あのゴリラはエリートにとって背後を取られても問題ない相手・・・味方なのだ。


前方にはエリートとゴリラ。背後には通路を塞ぐエキィーンの群れ。


もう一度言おう、完全に終わった。


ただでさえ絶望的な状況の中、最後の希望と思われたゴリラは敵の増援だったのだ。分厚い装甲板に守られた胸、太い両腕、怖そうなゴリ顔。


俺たちの運命は決まった。槍で穴だらけにされた上で群がるエキィーンのエサになるか、それともゴリラに遺跡の奥に引きずり込まれてウホウホされるかだ。


ウホウホは嫌だな。


諦めが俺の心を支配し、口から自然と愛しい人の名前が漏れた。


「マキちゃん・・・。」


すると、不思議なことが起きた。ゴリラが雷に撃たれたようにビクリと反応すると、思いっきりエリートを殴りつけたのだ。


サリーの斬撃さえ通用しない驚異の反応速度を誇るエリートも、仲間と思っていた相手に背後からいきなり殴りつけられては反応できなかったらしい。豪腕が振り抜かれるとその上半身が腰のあたりで千切れ飛び、ひしゃげて駅の壁にめり込んだ。上半身を失った下半身が、まるで何事もなかったかのようにバランスを崩すことなく地面に立っている。なんてパンチだ・・・。


「なっなっ・・・何が・・・?」


突然の仲間割れに動揺するも、レイはさらなる危機を察知して叫んだ。


「まずいです、背後のエキィーンの群れが動き出すのです!」


後ろを振り向くと、エキィーンの群れが俺たちに向かって突撃を開始していた。命令を下していたエリートが死んだために統率を失い、一斉に攻撃してきたのだ。


背後からは津波のように迫るエキィーンの群れ、前方にはゴリラ。さぁどうする?っていうかこのゴリラ、ひょっとして味方なの?


ゴリラはいつの間にか両手を地面につき、口を大きく開けている。その口に光が収束し、激しい閃光を撒き散らしていた。


「まずい、レーザー砲撃がくるわ!みんな伏せ」


サリーの警告が終わるより早く、レーザー砲特有の甲高い発射音がホームに響く。視界が白一色に染まり、熱さが皮膚をジリジリと焼くのを感じる。


死んだ。


そう思ったが、俺はまだ生きていた。レーザーは俺たちの頭上を通過し、背後にいたエキィーンの群れを襲ったのだ。恐る恐る背後に目をやると、あれほど無数にいたエキィーンの群れは文字通り消滅し、ただ赤熱して融解するホームだけがそこにあった。なんて威力だ・・・。


だが、ゴリラのおかげで、俺たちを襲っていた敵はいなくなった。これは、味方と判断していいんじゃないだろうか?


そう思ってゴリラに歩み寄ろうとすると、サリーがそっと手で俺を制した。


「サリー・・・あの、これ、味方じゃないの?」


サリーは静かに首を横に振った。


「野生のナマモノではよくあることよ。獲物を独り占めするために、他の種族を攻撃することがあるの。」


「な、なるほど・・・。」


サリーは剣を構えて、ゴリラの前に立つ。黒髪が風に揺れ、その目には再び闘志が宿っていた。確かに状況は好転したと言っていい。敵の包囲はすでになく、敵は1体だけなのだから。


当のゴリラは、先ほどレーザーをぶっ放した口をパクパクさせていた。まるで何か話そうとしているかのような不思議な動きだが、あれは俺たちを食べる前の準備運動だったのか・・・。コミカルな動きだと思っていたが、そう言われると恐ろしく感じるから不思議だ。


「みんな、私がスキを作るから、その間に逃げなさい。私たちを捕食するつもりだから、このゴリラがさっきのレーザーを撃つことはないわ。」


「サ、サリー・・・」


「いいの、私もあとから必ず行くから。いいわね?」


「で、でも・・・」


その時、ゴリラが両手を上げた。いわゆるホールドアップ状態だ。脇の下からマシンガンでも飛び出すのかと思ったが、特に何も起きない。微妙な空気が場を支配した。


「・・・?ねぇサリー、このゴリラ、やっぱり味方なんじゃ」


「くっ・・・私たちを完全に舐めてるってわけね・・・ふざけたゴリラだわ!」


サリーさん的には、あのゴリラは完全に敵らしい。見た目はともかく動きだけ見ると、どうもそんな感じがしないのだが・・・3000年もナマモノ相手に戦っているサリーが言うのだからきっと間違いないのだろう。


「サリーさん、俺たちも戦うぜ!」


「そうよ、いつまでも1人でカッコつけさせないんだから!」


「ばうっ!」


ニックたちが銃を構えてゴリラに立ち向かう。サリーはそれを突っぱねることもなく、ただ静かに微笑んだ。


いつの間にかラスボス戦のような雰囲気になりつつあるな。


ゴリラがホールドアップしていなければカッコいい光景なんだけど。俺はどうしてもこのゴリラが敵だと思えず、空気を読めてないのを自覚しつつも声を上げた。


「ねぇ、あの、みなさん?このゴリラ、たぶん敵じゃないと」


「高速で接近する熱源体あり!これは・・・エリート、最後の1体です!」


俺の言葉を遮って、レイが叫んだ。直後にゴリラの背後に現れたのは、1本だけの刀を持った最後のエリート・・・たぶん四天王で一番強いやつ・・・である。


「くっ・・・こんな時に!」


エリートはもの凄い速度で駆け寄ってきた。その刀でゴリラを両断するかと思われたその瞬間、しかしエリートはゴリラの前で急停止すると、その太い手を掴んで・・・喋った。


「こんなところにいたんだね。さぁここは危険だ。俺と帰ろう。」


エリート、喋れたのか・・・しかも案外、普通の喋り方だな。っていうかどこかで聞いたような声だ。どこだったかな・・・。ゴリラはしかしエリートの手を振りほどくと、無言で首を横に振った。


「どうして?俺なら君を幸せにできる。いや、絶対に幸せにしてみせる。約束するよ!」


「・・・。」


ゴリラに迫るエリート、黙って首を振るゴリラ。目の前で繰り広げるのは、まさかのナマモノ同士の恋模様らしい。


あまりにも唐突な状況に、俺たちは目を白黒させるばかりだ。サリーも混乱してそれを眺めていたが、すぐに我に返るとハンドサインで「今のうちに逃げるわよ」と伝えてきた。確かに意味不明だが、これはチャンスだ。彼らが痴話喧嘩しているうちに逃げてしまおう。無言で来た道を引き返し始める。


「さっきの返事を聞かせて欲しい。もう一度言うよ。・・・俺と、結婚してください。」


「・・・。」


おおっ・・・なんか盛り上がってるな。サリーも逃げながら、チラチラと彼らの方を気にしている。うん、気になるよね、アレ。彼らが結婚したら、子どもは腕が4本生えたゴリラになるのかな。


ゴリラはじっとエリートの方を見つめると、しかし先ほどと同じように、そっと首を横に振った。


「そんな・・・どうして・・・そうか・・・あいつ・・・あいつが、まだ生きているから・・・」


その時、エリートの姿が消えた。いや、消えたように見えた。そして次の瞬間には、俺たちの目の前で刀を振りかぶっていた。尋常でないスピード。やはり四天王で最強の1体である。


「なッ・・・!」


瞬きほどの、わずかな瞬間。だが、まるで時間が止まったように感じる。


エリートの目は確実に俺を捉え、俺に憎しみをぶつけている・・・そんな気がした。一体どうして?きっと誤解だよ、俺はあなたのゴリラと浮気なんてしてないよ?


だが刀が振り下ろれる前に、エリートの体は吹き飛んだ。ゴリラが砲弾のような勢いで体当たりしたのだ。


2体はもみ合いながら地面を転がり、ゴリラが殴りつけ、それをエリートが4本の腕で防ぎ、殴り返す。打撃の度に轟音が響き、パラパラと天井から土が落ちてきた。超高レベルのど付き合いが始まったのである。俺たちは呆気に取られて、その成り行きを見守ることしかできない。


「なぁ、サリーさんと聖霊様を見てる時も思ったんだが・・・まさかゴリラまでとは・・・」


ニックが俺の横に立ち、呆れるようにつぶやいた。


「にーさん、あんた・・・人間以外にモテるんだな。」


俺は一応、ツッコんでおくことにした。


「サリーは人間ですよ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作の連載をはじめました。こちらもよろしくお願いします。
勇者様はロボットが直撃して死にました
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ