決闘
書き貯めがもうすぐ50話になります。毎日更新できそうです。
「にーさん、あんなに派手に殴られたのに、もう平気なの?」
ハルが心配そうに覗き込んでくる。大きな青い瞳が目の前に、息がかかりそうな距離に近づく。いつも思うが、ハルは薄着なのに無防備すぎる。胸元が怪しいぞ・・・も、もう少しで見え・・・ゲヘヘ。
『ご主人様、それは本当にダメなやつでございますわ。』
マキちゃんにマジっぽいテンションで注意されてしまった。すみません。見てないよ。ホントだよ。
「いや、今のは殴られたと見せかけて、自分で飛んだんだよ。」
「そ、そうなの⁉︎すごいよ、にーさん。ホントに殴られたようにしか見えなかった。あれ、口にめっちゃ血がついてるけど・・・?」
「これは・・・返り血だよ。」
「返り血⁉︎」
ちなみにガイと呼ばれたイケメンは、ハルに睨まれるとスゴスゴ退散していった。「ハルさん、目を覚ましてください!そんなクソ根暗そうなクソ野郎、ハルさんには似合いません!」という捨てゼリフを残して。
『ご主人様にクソを2回つけて良いのは私だけですわ、まったく。』
いや、ご主人様にクソつけちゃダメでしょうよ・・・。っていうかご主人様がぶん殴られてるのに、うちの自立兵器は気にせずワンワン吠えながら遊んでるんだけど。
『ご主人様は、保護優先順位がかなり下の方ですので・・・。』
君たちはご主人様をなんだと思ってるんだ。
この日はなんだかバタバタしてしまったので、いったん引き上げることにした。そして翌日、再びハルとクロを連れて、この空き地にやってきた。俺の手には適当な材料で手作りしたクワと、プラズマライフルのマガジンが入った袋がある。この世界には農耕という文化がないので、クワというものが存在せず、自分で作るしかなかった。野生のトラクターはいたのに。
「それじゃあまずは、土を耕すよ。」
「たがやす?よくわかんないけど、にーさんがんばれー!」
せっせとクワで土を掘り起こし、柔らかくする。カチカチの地面がほどよくほぐれる。これからプラズマ機器の生産拠点を作るのに、最初の作業が土を耕すことだと思うと変な感じがする。その柔らかい土に、プラズマライフルのマガジン・・・つまり種を埋める。このマガジンは普通のマガジンではない。俺の手により、改良されたマガジンだ。
というのも、いくら万能ハッキングAI(メイド型AIですわクソご主人様)たるマキちゃんでも、アクセス可能なコネクタのないものにはハッキングを仕掛けることができない。マガジンに対してハッキングすることはできないのだ。そのため、俺たちはひと工夫した。プラズマライフルの木にハッキングして、「なるべく高速に発芽し、優先してコネクタを生やす」という性質を持ったマガジンを作ったのだ。いわばプラズマライフルの木の品種改良である。これで少なくとも仕様上は・・・生きた木に仕様というのもおかしいが・・・とにかく予定通りいけば、明日の朝にはコネクタがついた小さな木が生えているはずである。
同じように土を耕し、微妙に仕様を変えた改良マガジンをあと2つほど植えて、今日の作業は終わりだ。少しずつ異なる改良を施したマガジンを植えることで違った角度からデータを集め、最適な品種改良を導き出そうという作戦である。興味深そうに見ているハルが自分もやりたそうなオーラを全開にしているので、手伝ってもらうことにする。
「思ったより、ずっと大きいね・・・。ちゃんと入るかな・・・?えいっえいっ・・・初めてやったけど、けっこう疲れるんだね、これ。よいしょ、よいしょ・・・うーん、腰が疲れるよー。ハァハァ。」
ハルが顔を上気させながら、一生懸命に動いている・・・もちろん、土を耕しているのである。大きいのはクワのことだ。入るかな、とは「クワが土に刺さるかな」という意味だ。目を閉じるとなんだか夢が広がる・・・。
『ご主人様。・・・ご主人様。』
はい、すみません。
ハルの仕事っぷりを眺めていると、背後に人の気配を感じた。振り返ってみると、ガイが物陰に隠れてこちらを・・・ハルをガン見している。ちょっと友達になれそうな気がしてきた。俺が見ていることに気付いたガイは、気まずそうにひとつ咳払いをしてから、ノシノシとこちらにやってくる。
「貴様!今日も性懲りもなくハルさんに近づきやがって!」
「いや、ハルがついて来たがるんだよ。」
「なにおおおおおう⁉︎そんなわけあるか!俺なんて何百回誘っても、お茶のひとつも付き合ってもらえないのに!」
いや、それは知らないけど・・・。っていうか、何の用なんだ。ハルのストーキングか?
「そうだ、貴様!ハルさんを賭けて勝負しろ!俺と決闘だ!」
なんかとんでもないこと言い出したぞコイツ。
『ご主人様は不死身ですが、クソ貧弱クソ野郎でいらっしゃいます。25000パターンでガイ氏との決闘をシミュレートしてみましたが、どれも一方的にいじめられる展開にしかなりませんでした。決闘はご遠慮ください。』
そんなことわかってるよ・・・。
『大丈夫です、ご主人様の魅力は肉体ではなく、他の部分です。まぁ具体的にどことご質問されると非常に困りますが。』
もうホントうるさいなこのAIホントもう。
「決闘って何をするんだ?だいたい、ハルを賭けるなんて賛成できないぞ。ハルはモノじゃないんだ。」
俺の正論に、ガイは顔を赤くして唇を噛んでいる。しかしその時、背後からクワを持った天使がやってきた。
「あたしはいーよ?にーさんが勝ったらあたしはにーさんのもの。ガイが勝ったら、あたしはにーさんのものじゃなくなるってことで。」
それってガイのメリットなくない?っていうか何を言い出すのこの子。
「よし、その条件でいいだろう!まずは貴様とハルさんを切り離す!それからのことはそれからだ!」
いいのかよ。こいつ、なんていうか・・・大丈夫か?典型的な脳筋男なのか?それともハルに相手にされなすぎておかしくなってるのか。
「決闘の方法は・・・モノリス遺跡での発掘対決だッ!!」
遺跡?発掘?なんだか思ってた決闘と違うぞこれ。この世界の決闘って、こういうのが普通なの?
『ご主人様、ご主人様がハッキング以外で他人に勝てるものがあるとは露ほども思えません。せめてジャンケン対決かウノ対決、またはオセロ対決にすることをオススメいたします。』