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達人VS達人

【前回までのあらすじ】


・ボス出る

「なんて化け物だ、こいつは!」


グレネードの炸裂音に混じって、ニックの悲痛な叫び声が響いた。かび臭かった空間に、火薬の匂いが充満している。彼と相棒のバリィがばら撒いたグレネードは宝物庫に並んだロッカーを広範囲に渡ってなぎ倒したが、巨大な敵はまるで意に介した様子もなく4本の刀を構えていた。


戦闘開始からわずか1分あまり、目の前の敵について、すでに判明している情報を挙げてみよう。



1.身長5メートル程度の人型ロボットである。


正式名称は誰も知らない。人類で初めてこれに遭遇したのが俺たちなのかもしれない。とりあえず仮にエキィーン・エリートと呼ぶことにしよう。こんな大事な区画を守っているのだから、きっとエリートに違いない。



2.剣の達人である。


ロボット相手に達人というのもおかしな話だが、とにかく達人である。飛んでくる無数のグレネードを刀の腹で弾き飛ばすなんて朝飯前。普通のグレネードはもちろん、EMPグレネードも弾き飛ばすか、起爆装置だけを切断して爆発を防いでいる。


恐ろしく早く、そして正確な剣である。



3.硬い。


生半可な攻撃は通用しない。具体的には、ニックのアサルトライフルや俺のプラズマピストル程度では防御する必要すらないらしい。さっきから何発もまともに食らっているが、エリートには こうかがない みたいだ・・・。




こうなると、頼りになるのは我らが伝説の戦士だけである。祈るような気持ちで隣に立つサリーを見る。彼女は腕を組んだままじっとエリートを観察していたが、俺の視線に気がつくと何が面白いのか、こちらを見てフッと笑った。


「ふふふ・・・今ちょっとマキさんの気持ちが分かったわ。」


「え?なにが?」


「あなたのその不安そうな顔・・・ものすごく・・・そそるわね。いじめたくなるわ。」


「え?」


ペロリと舌なめずりをするサリー。あまりの妖しさ、艶めかしさにこの場で取って食われるかと思った。彼女はブレードを抜き放つと、いつものようにまるで臆することなく進み出て、巨大な敵の前に立つ。


「さぁ、フラグを叩き折らせてもらうわよ。」


不敵な笑みを浮かべるサリーに向けて、4本の剣が4方向から振り下ろされた。ほぼ同時に迫る超高速な斬撃に対し、しかしサリーはたった1本の剣で対抗する。次々と絶え間なく繰り出される4重の斬撃、それをことごとく弾き返す1本の刀。サリーはさながら嵐のようだ。どんな攻撃も寄せ付けない剣の嵐。


激しく火花が散り、途切れることのない激しい金属音が鳴り響く。


およそ人間に可能と思えない速度の打ち合いが延々と続いたが、しかし徐々にその均衡を崩していった。剣の圧力に負けて少しずつ後退していくのは・・・エリートの方だ。まるでサリーに怯えているかのように、剣を弾かれるたびに徐々に後退し、前傾だった姿勢は逃げるようにのけぞっていく。


「最初の威勢はどうしたのかしら?さぁ、もっと激しくしていいのよ?」


激しく打ち合いながら、しかしサリーは余裕の笑みを崩さない。ニックはその様子を口を開けたまま見つめ、リリィさんは「やっぱり魔王様だ」と呟いた。


「そろそろ終わりね。まあまあ楽しかっわ。」


サリーがそう宣言した瞬間、4本の剣が跳ね上げられ、無防備になった敵の両脚が膝のあたりで斬り飛ばされた。まるで目に見えない、ただ結果を見て斬ったことが理解できる・・・そんな一撃。両脚を失い、バランスを崩して自分の方に倒れてくるエリートの頭を返す刀で一閃。サリーがブレードを自分の腰に収めるのと、エリートの頭部が地面に落ちたのは同時だった。


「なんて化け物だ・・・。」


ニックが小さくつぶやくのが聞こえる。おいおい、サリーさんはああ見えて乙女なんだから・・・変なこと言うといじめられるぞ。主に俺が。


いじめっ子・・・いや、サリーが綺麗な黒髪をなびかせ、余裕の表情でこちらに戻ってくる。彼女の前では人間もナマモノも平等にいじめられるのだ。恐ろしすぎてちょっと興奮する。


「ふふ、2体・・・いえ、3体以上同時に出なければ、どうってことない相手ね。」


なんて化け物だ・・・いやいや先生、お疲れさまです。と声をかけようとした時、しかし俺の声は大きな音にかき消された。


巨大な金属の塊が地面に落ちたような音。ついさっきも効いた音。


しかも、一回ではない。ズシン、ズシン、ズシン。3回、聞こえた。3回だ。


サリーは音に振り向き、俺に背を向けた。彼女の前には、新たに出現した3体のエリート。そう、3体だ。


それぞれ見た目はほとんど変わらない4本腕の巨人だが、それぞれ持っている武器が違う。


1体は斧。バトルアックスと呼ぶべきか、1本の巨大な斧を、4本の腕で構えている。


1体は槍。長い槍を、2本。2本の槍をそれぞれ2本の腕で持っている。


最後の1体は、死んだヤツと同じ刀。しかし1本だけだ。4本の腕は武器を持たず、胸の前で組まれていた。刀はどの手でも持たず、腰にぶら下げている。


3体のエリートは、叩き斬られた1体と同じく喋ったりはしない。しないが、言いたいことはわかる。これは間違いなくアレだ。


「ヤツがやられたようです。」


「人間にやられるとは愚かな奴め。」


「ふん、ヤツは我ら四天王の中でも最弱!」


っていうヤツだ。お約束だから間違いない。こいつらが四天王だとすれば、お約束通りこいつらを束ねているボス的なヤツもいるのだろうか。そこはぜひお約束を守らないで欲しい。


とにかくまずいことになった。いくらサリーでも、3対1ではかなり分が悪いだろう。


と思ったが、敵のうちの1体、バトルアックスを持ったヤツだけがサリーの前に進み出てきた。他の2体は前に出るどころか、むしろ一歩引いて静観の構えを見せている。


「あら、ひとりずつ相手をしてくれるの?紳士ね。私は別に、何人だって一緒に相手をしてあげられるわよ・・・?」


まるで男をベッドに誘いこむかのように、妖しい色気を全開にするサリー。この状況でもまるで不安を感じさせないその態度は俺を安心させてくれる。あとちょっと興奮する。


腰のブレードに手をかけ、じっと相手の動きを見るサリー。


巨大なバトルアックスを上段に構え、今にも振り下ろさんとするエリート。


静寂が空間を支配した。ニックとリリィも魅入られたように黙って立っている。


一瞬のような永遠のような、張り詰めた時間は唐突に終わった。轟音とともにバトルアックスが消えたかと思うと、すでに地面に突き刺さっている。サリーは紙一重でそれを回避するが、追撃することができずに一歩引いた。彼女の脚からわずかに出血している。この遺跡に入ってから初めてのダメージだった。


「・・・やるわね。」


サリーの表情から余裕が消えた。


これは問題だ。ダメージ自体が問題なのではない。サリーも俺と同様、例え致命的な傷だろうともすぐに治ってしまう。


問題はもっと単純なこと。敵が強い、ということだ。


敵はあれだけ巨大なモノを持ちながらそれに慢心することなく、高度に磨き上げられたテクニックでサリーを満足させてしまうような相手なのだ。


それが、まだ3体。


しかも、四天王のお約束でいえば、残りの2人はコイツよりさらに強い可能性が高い。


次々と巨大な斧が振り下ろされ、その一撃一撃はすべて、サリーをもってして回避するのが精一杯の攻撃だった。あるいは技量としてはサリーの方が上なのかもしれない。しかし相手は5メートルの巨人である。単純な質量の差、リーチの差を埋めることができず、サリーに反撃の機会がやってこないのだ。


「ご主人さま、とにかくマキ姉さまを外に運び出すのです!」


レイの声で我に帰り、俺は自分の仕事に取り掛かる。そうだ、この部屋の入り口は決して大きくない。外まで逃げれば身体がデカいこいつらは追ってこられないだろう。四天王だろうがナントカ戦隊だろうが、別に無理して戦う必要などないのだ。


だが俺は肝心なことを忘れていた。


例えばナナのことを思い出してみよう。俺の娘のナナは、子どもサイズのアンドロイドである。身長は俺のお腹のあたりまでしかない。しかしその体重はおよそ500キロあり、普段は長い髪から一定のプラズマパルスを放射して、その反発力で体重を軽減しているのだ。そうしないと建物の床を踏み抜いたり、人の足を踏んづけたら大変なことになってしまう。


アンドロイドは重い。常識である。


さて、目の前に横たわるマキちゃん。下半身も両腕もないが、上半身はまだ大部分が残っている。レイの実家が長年の研究の末に作り出した最強アンドロイドの最新バージョンがこの身体である。果たしてその体重はいかに。


俺はまず、マキちゃんの上半身を抱き起こすことにした。


上半身を・・・


上半身を、抱き起こ・・・


おこ・・・


おこせないッ!1ミリたりとも動かない!


「マキちゃん・・・太った!?」

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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