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姉さまみたいに

【前回までのあらすじ】


・レイさん、ハッキングしたい

「さあ、マキ姉さまのような鮮やかなハッキングを見せてあげるですよ!」


レイは自身のホログラムを表示すると、フンスと鼻息を吹いた。その目はキラキラと輝き、ただドアをハッキングするだけと思えないほどのやる気を見せている。


・・・どうやら、マキちゃんがサクサクとドアを開けるのを見て憧れていたらしい。


どうしよう、せっかく俺にできる唯一の見せ場なのに。いや、でもここらでひとつ良いところを見せないと、チーム内での俺の立場がなくなっちゃうよな・・・。うん、よし、ここはひとつ無理言ってでも代わってもらおう。


「ねぇ、レイ?」


「なんですか、ご主人さま?今、レイちゃんがカッコよくハッキングして差し上げますですよ。ぐふふ・・・レイちゃんに惚れてしまってもいいのですよ?」


あかん、めっちゃ目がキラキラしてらっしゃる。こんなレイさんに「良いから俺にやらせろ」なんて言えるだろうか。少なくとも俺には無理だ。


「期待してるぜ、聖霊様。」


「このタイプの隔壁は爆弾が効きづらいんだ。聖霊様が開けられるっていうなら、すごく助かるね。」


ニックとリリィさんもレイのハッキングを応援している。くっ・・・本当ならこの応援は俺に向けられるはずだったのに。俺だってヒゲのおじさんに「期待してるぜ」って言われたい。やっぱり代わってくれないかな・・・。


「あのさ、レイ・・・。」


「来るわよ。総員、戦闘体制。」


俺の言葉を遮って、サリーはブレードを抜き放った。歩いてきた通路を振り返り、暗闇の奥に目を凝らす。ハッキング中のレイを背後に守る陣形を取る形になる。間もなく、数体のナマモノが闇の中から飛び出してきた。


「こいつは・・・エキィーン・ソルジャーだ!」


ニックがアサルトライフルを乱射しながら叫んだ。


エキィーン・ソルジャー。見た目は前回襲われたエキィーンとそう変わらないが、より戦闘能力の高いモデルである。日本刀のようなブレードを装備し、俊敏な動きで攻撃してくる強敵だ。俺たちがこの間のエキィーンが働きアリとするなら、これは兵隊アリといったところか。


「みんな、レイを守るわよ!」


サリーが飛び出し、振り下ろされた刀ごとエキィーンの1体を叩き切った。しかし敵は複数、しかも通路の奥から続々と走ってくるのが見える。


「バリィ、遠距離にいるヤツに【ノーマルグレネード】!ばら撒け!」


「バウッ!」


ランチャードッグのバリィがニックの指示でグレネードをばら撒く。敵の群れは一瞬怯んだ様子を見せるが、すぐに爆煙の中から飛び出してきた。


「押し込まれると不味いよ!これでも喰らいなッ!」


リリィさんがジャケットの中に手を突っ込み、すぐに引き抜く。開いた彼女の手の指の間に、小型の手榴弾が挟み込まれていた。間髪入れずに敵の群れに投げ込まれたそれは、爆発すると半径2メートルほどのプラズマを生み出し、範囲内にいたエキィーンを次々と融解させた。さらにプラズマは数秒間空中に留まり、敵の進行を確実に遅らせる。


「レイ、大丈夫・・・?」


相変わらず戦闘に参加できない俺がレイの方を振り返ると、彼女は青い顔をしてうんうんと唸っていた。ハッキングを始めてからすでに30秒ぐらい経っている。


「・・・レイ?」


「これがこうですから・・・ここがこうなってて・・・ブツブツ」


俺の声が聞こえていないらしい。どうやらレイは、いつも1秒でドアを開けてしまうマキちゃんの偉大さを身をもって感じているところのようだ。とはいえ急いでもらわないと非常にまずいことになる。こうしている間にも、敵は続々と増えつつあるのだ。


・・・ん、これ、代わってもらうチャンスじゃん?


敵を足止めする戦力はひとりでも多い方がいいし、レイなら敵と戦える。


俺は戦いに参加しても邪魔だし、ドアは開けられる。


うん、ナイス大義名分。さぁ交代してもらおう。俺が解錠役、レイは戦闘要員だ。


「なぁ、レイ・・・。」


「ブツブツ・・・ここをこうやって・・・絶対、ぜったいに開けてやるですぅ・・・マキ姉さまみたいに、マキ姉さまみたいに・・・」


レイは真っ青な顔をしているが、その目は真剣そのものだ。


背後では爆発音と金属音が激しく響き、時々両断された敵の残骸が飛んできて壁にぶつかっている。


代わってもらうのがベストだ。今すぐに交代してもらったほうがいい。


しかし、レイの目は真剣そのものだった。レイはマキちゃんのように、憧れのマキちゃんのようにドアを開けたいのだ。


俺は覚悟を決めた。


「レイ!」


「はっ!はいですぅ!」


レイのホログラムがこっちを見た。その目は潤み、今にも涙がこぼれそうである。交代させられることに気づいているのだろう。彼女は悔しそうにくちびるを噛み、明らかに敗北者の雰囲気を出している。


俺はその目をまっすぐに見返して言った。


「・・・がんばれ!」


そしてレイの背後に立って、敵の群れの方を睨んだ。戦っても役には立たないが、ホワイティがいるから盾ぐらいにはなるだろう。レイの邪魔はさせない。これが俺にできる精一杯だ。


「ごっごっ・・・ごしゅじんさまぁ・・・レイ、やるです!やってやるですよ!」


背後からレイの元気な鼻声が聞こえた。


敵の数はいよいよ増え、みんなは全力で抵抗を続けているが長くは持ちそうにない。


「しまった!」


その時、エキィーンの1体がニックの横をすり抜け、刀を振りかぶったまま俺とレイの方に突進してきた。あまりの速度に俺が反応できないのはもちろん、ホワイティも迎撃することができない。


かろうじて俺の背中から飛び出した白い触手が振り下ろされる刀の前に滑り込んだが、鋭い切っ先はホワイティごと俺の身体を簡単に切り裂いた。


「ぐっ!」


「ご主人さま!」


「レイ・・・いいから、大船に乗った気でいてよ。」


振り下ろされた刀は俺の肩から入り、胸のあたりで止まった。ホワイティのおかげで威力が殺され、真っ二つにならずに済んだらしい。エキィーンは俺の身体から刀が抜けずにジタバタしている。ホワイティが刀をしっかりと掴んでいるのだ。


「この距離なら、俺でも外さないぞ・・・?」


そして俺は、遺跡に入ってから一度も使うことがなかったプラズマピストルを抜き、目の前のエキィーンに向けて何度も引き金を引いた。いくら俺でも外すほうが難しい距離だ。焦げ穴だらけになったエキィーンは脱力し、その場に崩れ落ちた。


「開いた!開いたですよ!」


レイの声が響き、背後で隔壁がゆっくりと開き始める。シャッターのように地面から持ち上がっていくタイプの隔壁だ。


「バリィ、【スモークグレネード】!」


「バウッ!」


バリィが煙幕を張り、俺たちは隔壁と地面の間に次々と身体を滑り込ませていく。最後にサリーが通過すると、レイはすぐに隔壁を閉じた。追いかけてきたエキィーンが数体、重い隔壁に潰される。


そしてあたりはまた静寂に包まれた。


「・・・ご主人さま、レイのために・・・グスッ。ごめんなさい、ごめんなさいですぅ。」


あたりは静かで、敵の気配はない。ただレイの泣き声だけが響いている。うん、見た目は死にそうだけど、もちろん俺は切られてもあんまり関係ない。というかもう治った。不死身ですみません。


「いいんだよレイ、よくやったね。」


俺の言葉を聞いたレイは驚いたような表情を見せた後、顔を真っ赤にして俺の胸に飛び込んできた。いきなりだったので受け止めきれずに地面に転がってしまう。


「ご主人さま~!うわぁぁぁぁん!ご主人さまなのにカッコいいですぅぅぅぅぅ!」


なのにって何だコラ。


そんな俺たちを見てサリーは苦笑し、ニックたちはゾンビでも見るかのように俺を見ている。不死身ですみません。


しばらくそうした後、俺たちはまた立ち上がる。


銃に弾を込め直し、残りの武器を確認。


サリーはブレードを携帯用の研ぎ石で軽く研ぎ直し、俺は切り裂かれた服を適当に縛って身につけ直す。


そしてサリーの言葉に心を踊らせた。きっとみんなも同じ気持ちだろう。


「さぁ、行きましょう。宝物庫は目の前よ。」

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